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42 戦闘は一流 恋愛はヘタレ

「これって『矢』か? 『槍』じゃねえのか?」


ジェフリー(お頭)、言いたいことは分かりますが、今はいったん引いてください。危険です。アミリア様、ヌジャメナ()に『拡声』の魔法をかけてください」


「うん」


 アミリアに魔法をかけられたンジャメナは声を張り上げた。

「ンマゾネス姉さんっ! 私ですっ! ンジャメナですっ! もう戦わなくてもいいんですっ! 森を出て、(ンジャメナ)と一緒に行きましょう」


 いったん射撃は止んだ。しかし、すぐに新しい矢が飛んできて、地面に刺さった。


「何だ? まだ警戒されているのか?」


「いえ、ちょっと待ってください」

 ンジャメナがジェフリーを制する。

「矢に布が巻き付けてあります」


 ンジャメナは飛んできた矢に巻き付いていた布をほどいた。

「エルフ語で書かれています。『だまされるか。ンジャメナ(おまえ)のそばにいる人間(ヒューマン)どもは何だ?』と」


 ンジャメナは立ち上がるともう一度声を張り上げた。

「ンマゾネス姉さんっ! ここにいる人間(ヒューマン)たちは敵ではありません。奴隷商人を退治してくれた味方なんですっ! (ンジャメナ)と一緒に行きましょう」


 ドカッ


 またも布を巻き付けた矢が飛んでくる。

「えーと。『信じられるか。ンジャメナ(おまえ)こそ森に帰ってこい。人間(ヒューマン)どもはとっとと立ち去れ。次は射殺すぞ』」


「ンマゾネス姉さんっ! 違うんですっ! わあっ!」


 次の矢はもう布が巻かれていなかった。しかも連射である。


「みなさん。もうちょっと距離を取ってください。ンマゾネス姉さんは本気です」


 その時だった。ジェフリーたちの後方から高笑いが聞こえてきたのは。


 ◇◇◇


「ふふふふふ。はあっはっはっ」

 高笑いの主はレオニーだった。


魔族(デーモン)が何でここにっ?」


レオニー()はどこにでも現れるのさ。殺しても飽き足りないジェフリー(貴様)とその一味を皆殺しにするためならな」

 そう言いながらレオニーは右腕を突き上げる。

ジェフリー(貴様)を憎んでいるのはレオニー()だけではないっ! 出でよっ! 怨霊たちっ!」


 その声とともに地面の土が次々と人型に盛り上がっていく。


「はっはっは、怨霊たちっ! 我が魔力で得た土の体でジェフリーどもをぶち殺せ。はっはっは、ジェフリー(貴様)らは森にいるエルフを警戒させないために武器を何も持っていないだろう。怨霊たちに殴り殺されるか、ここから逃げて、森にいるエルフに射殺されるか、好きな方を選ぶといいわっ!」


「ふうっ、しつこいねえ。魔族(あんた)も」

 ジェフリーは溜息を吐いた。

「だが、はいそうですかと殺されるわけにもいかないんでね。こんなジェフリー()でも守らなきゃなんないもんがあるんだよ」


 ◇◇◇


「ほれっ」

 ジェフリーはンマゾネスが射ってきた矢を二本拾うと、魔法力を込め、そのうち一本を近くにいたノアに渡した。

「ノア。すまんな。(こんなもん)しかないが、ジェフリー()と一緒に戦ってくれるか?」


「何言ってるんですかい。ジェフリー(お頭)と一緒に戦える。それもンジャメナとアミリア(姐さん)を守るために。こんな光栄な話はござんせんぜ」


「ありがとう。ノア。アミリア、おまえはジェフリー()とノアの『体力回復』と『気力回復』を頼む。ンジャメナはンマゾネスの説得を続けてくれ。だが、気をつけろ。魔族(デーモン)は魔弾を撃ってくることがある」


「了解しました。ジェフリー兄さま」

 アミリアが言う。

「それとアミリア()が念話を使って、フラーヴィアとエンリコ、それに『海賊団員』とエルフたちに援軍にきてもらいましょうか?」


「それはありがたいが、気をつけてくれ。魔族(デーモン)も怨霊どもも魔法力が付加されたものじゃないとダメージを与えられない。魔法力を付加できるのはジェフリー()アミリア(おまえ)だけだからな。それをよく言っといてくれ」


「分かりました」

 アミリアは頷く。


「よしっ、行くぞっ! ノアッ!」


「合点だっ! ジェフリー(お頭)っ!」


 ◇◇◇


 怨霊の数は何体あるのか分からない。数え切れないほど多い。


(だけどそれを考えても始まらない。とにかく倒しまくるだけだ)

 ジェフリーは槍のように太い矢を振り回し、敵を倒していく。


 レオニーによって土の体を与えられた怨霊たちはアンデッドだ。生身の体のそれのように腕や足を削られても突進を止めない。


 頭から胴体を真っ二つにしなければならない。


 きつい戦いだ。しかし、ジェフリーはどこかしら充実感を感じていた。

(こんな気持ちはいつ以来だ。そうだ。まだ王宮の近衛魔道師団にいた頃だ)。

ジェフリー()からエリザを奪った上にエリザを捨てたアドルフの野郎は許せないが、いいライバルだった。アドルフ()との魔法や剣術を競う模擬戦闘は楽しかった)。


 アミリアはジェフリーの戦いぶりを両拳(りょうこぶし)を握りしめて見守っている。

(凄い。やっぱりジェフリー兄さまは凄い。一緒に戦っているノアさんもかなりの腕前だけど、ジェフリー兄さまは別格だ)。

 そして、アミリアも思い出していた。

(思い出す。近衛魔道師団の双璧アドルフ公爵令息とジェフリー侯爵令息の模擬戦闘。女の子たちには金髪碧眼でクール、魔法力に優れたアドルフの方が圧倒的に人気があった。だけど……)。

(私にも、そして、エリザ姉さまにも分かっていた。本当に凄いのは勝っても負けてもヘラヘラ笑っていたように見せて、勝ったら『運が良かっただけ』。負けたら『改善点が見つかった』と言って、人目がつかないところで鍛錬していたジェフリー兄さまだと)。

(本当の意味でかっこいい人。だけど……)


 アミリアは最後に溜息を吐いた。

(何で恋愛だけはこう優柔不断でヘタレなんだか……)



次回第43話「恋のライバル三人目」

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― 新着の感想 ―
[一言] 人には得手不得手がありますもんね (*´▽`*)
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