3 海賊頭目と女王秘書の熱い夜
「なななっ、何を言っているんだっ! アミリアはっ!」
ジェフリーは顔を真っ赤にしてがなりたてた。
「うちの連中を海軍に入れるのはいい。イース王国の内戦のあおりで故郷に帰れなくなった奴ばっかりだからな。安定して食えるようになるのはありがたい。だが、ジェフリーを王配に任命するってえのは何だっ? 大体にして、王配って任命するもんなのか?」
「そうですよねえっ!」
何とアミリアはジェフリーの言葉に反論してくるどころか同調してきた。
「海軍編入もいい。ジェフリー兄さまが出奔して、侯爵位は弟君が襲爵されているので、新たに授爵されるのもいい。でも、王配に任命って何なんでしょうね」
「えーと。アミリアはエリザの言ったことに全部納得してここに来たんじゃないのか?」
「殆どのことには納得しています。でも王配の件だけは納得していませんっ! どんな理由があれ、エリザ姉さまは一度はアドルフを選んで、ジェフリー兄さまを振ったのでしょう。それを今更王配って何なんですかっ!」
アミリアの顔も真っ赤になってきた。
「まったくエリザ姉さまがアドルフを婚約者に選んで、ジェフリー兄さまの婚約者の席が空いた時、私がどれだけ喜んだか分かっているんですかっ? そしたら当のジェフリー兄さまは出奔しちゃうしっ!」
「いやだってな、ジェフリー、エリザの婚約発表の二日前にエリザから俺と結婚したいと言われていたんだぞ。それがいきなり相手がアドルフに変わっているし、ジェフリーだってキレるわって、ジェフリーの婚約者の席が空いて喜んだあっ?」
「そうですよっ! 私だってジェフリー兄さまのことが好きだったんですからっ!」
「ま、ままま、待てっ! 俺が出奔した時、アミリアはまだ八歳だろう?」
「舐めないでくださいっ! 女の子は八歳でもレディなんですっ!」
またも沈黙の時が訪れた。双方が真っ赤になり、次の言葉が出なくなったのだ。
◇◇◇
「まあともかくだ」
沈黙を破ったのはまたもジェフリーの方だった。
「王配の任命はともかく他の報酬は魅力的ではある。しかし、二隻の船で要塞に挑むのは無謀なのは事実だ。ジェフリーは部下たちの命も預かっている身だ。一晩考えさせてくれ」
「そうですね。もっともなお話しです。ついては一つお願いがあります。私が乗船してきたラ・レアルが沖合で待機しています。海賊団と戦闘しに来た訳ではないですし、そもそも
ラ・レアルではこちらのガレオンには勝てません。入港を認めてください」
「いいだろう」
「もう一つ。一晩待たせるということは私はこの建物に泊まれるということですね?」
「ああ。だけどここは王宮じゃない。寝室は一つしかないからな。そこを使ってくれ。ジェフリーは応接室のソファーで寝るわ」
「あら、海賊団の頭目たるもの寝室で寝るべきではないですか?」
「馬鹿言え。いくら昔から知っているったって、アミリアは女王陛下の使者だぞ。ぞんざいに扱えるか」
「いえ、そういう話ではなく、一緒に寝室でやすめばいいという話です」
「ばっばっばっ、馬鹿言うなーっ。もうアミリアだって八歳じゃなくて十八歳だろうっ! 自覚しろっ!」
「ご心配なく。十分自覚した上で申し上げております。アミリアはジェフリー兄さまと同衾したいのです」
「そうはいかん。ジェフリーは海賊だぞ。明日の命をも知れぬ身だ。だから後腐れのない商売女としか寝ないことにしているのだ」
「ジェフリー兄さまももう二十八歳でしょう。そろそろそういう関係作ってもいいのではないですか?」
「とにかく今日のジェフリーはアミリアが持ってきた案件をどうするかで頭がいっぱいなんだ。女と寝る気分じゃないっ!」
「同衾すればいいアイデアが出るかもですよ」
「出るわけないだろうっ! それどころじゃなくなるわっ!」
「それはアミリアを女として見ているからですか?」
「ええいっ、もういいっ!」
ジェフリーはアミリアをソファーから立たせると背中を押し、寝室に押し込んだ。
「寝室でおとなしく寝てろ。中から鍵をかけとけ。ジェフリーはこれから一晩考えて、エリザの依頼を受けるか決めて、明日の朝までに結論を出す」
「鍵はかけませんよ。開けておきます。あ、アミリアが応接室に夜這いをかける手もありますね」
「分かった。ジェフリーの方が部屋に鍵かけとくから、おとなしく寝ろ」
「ちぇっ」
◇◇◇
「ふうっ」
応接に施錠するとジェフリーは大きく息を吐いた。
(海賊稼業は気楽って言えば気楽だが明日をもしれない身だ。部下どもを海軍に編入してくれるってのはありがたい話だ。俺自身はもう宮仕えはまっぴらだが、クローブとナツメグの販売で上がる収益の分配の約束が守られりゃあ、何とかしばらくは食っていけるだろう)
(王配の件はご辞退申し上げるしかないな。まあ、それもこれも作戦が成功した上の話だが)
「さて」
独りごちた後、ジェフリーは考え込む。
(うちのガレオンの大砲は破壊力より射程重視のカルバリン砲だ。アドルフが守っているマルク群島の要塞も同じだろう。射程が短いとアウトレンジ攻撃されたり、接近されて強行上陸されたりするからな)
(防御力は船より要塞の方が堅いに決まっているからな。こっちはうかつに近づけねえ。遠距離からの撃ち合いになる。だが、これでは双方決定的なダメージがないまま、長期戦となる。どうしたって船であるこっちの方が先に弾薬切れになる)
(後は魔法力で攻撃力をどのくらい付加できるかの勝負だが、こいつもいけねえ。アドルフの奴はいけ好かないが、近衛魔道師団時代から奴の方が魔法力が上なのは認めざるを得ない)
次回第4話「お頭は国王特別秘書に手を出したのか」