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フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない  作者: 水渕成分


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38 アミリアの怒り爆発。エンリコ危うし

「ンジャメナ……」

 友であるフラーヴィアがその手を握るがンジャメナの震えは収まりそうにない。


 しかし、ここでアミリアが振り向く。

「ノアさんっ! 何をやっているんですっ? ここは『彼氏』のあなたの出番でしょうっ!」


 突如指名された「海賊団員」ノアは驚く。しかし、すぐにニヤリと笑う。

アミリア(姐さん)っ! ありがとうごぜいやす。ンジャメナっ!」


 振り向くンジャメナのところにノアは駆け寄り、後ろから抱きしめる。

ナジャメナ(おまえ)言ったよな。俺たちはずっと一緒に生きていくって。安心しろ。ノア()はいつでもおまえのそばにいる」


「これはいいですね。『灯明』」

 アミリアが倉庫内を明るくする。


 ざわっ


 捕らわれていたエルフたちの間にざわめきが走る。エルフ(自分)たちを嗜虐してきた人間(ヒューマン)エルフ(自分)たちの同族を抱きしめているのだから。


「かくなる上は人間(ヒューマン)とエルフの恋人同士はみんないちゃついちゃってください」

 アミリアの言葉に初めは当惑していたメンバーもやがて寄り添い始める。


 ざわっざわっ


 捕らわれていたエルフたちのざわめきは大きくなる。そこへノアに後ろから抱きしめられていたままのンジャメナの声が飛ぶ。

「みんな酷い目に遭わされていたよね。人間(ヒューマン)が怖いよね。憎いよね。でも大丈夫。ここにいる人間(ヒューマン)はみんないい人ばかりだから」


 ざわっざわっ


「うーん。みんないいよなあ。フラーヴィア(お嬢様)エンリコ()たちもいちゃつきましょう」

 そう言ってフラーヴィアに抱きつこうとしたエンリコは肘打ちを喰らう。

「何言ってんのっ! フラーヴィア()たちは人間(ヒューマン)同士でしょっ!」


「ジェフリー兄さま」


(うっ、アミリア)

 ジェフリーは戦慄した。

アミリア(こいつ)、自分でけしかけといて、自分も乗るのか? 上目遣いで見るんじゃないっ!)


「ジェフリー兄さま」


(ううっ、何て目でジェフリー(こっち)を見やがる。吸い込まれそうな目をしやがって) 


「ジェフリー兄さま」


(だっ、駄目だ。抱きしめずにはいられない)


 ◇◇◇


 ドカッ


 その時、飛ばされてきてアミリアに衝突したのはエンリコだった。


 再度、フラーヴィアに抱きつこうとし、再度、肘打ちを喰らったようだ。


 その衝撃で飛ばされ、アミリアに衝突したのである。


(!)

 ジェフリーは我に返った。

(逃げよう)

 ジェフリーは遁走した。


 ◇◇◇


「あーっ、ジェフリー兄さまっ!」

 アミリアの叫びも空しく、今回もジェフリーの逃げ足は早かった。


 衝撃で倒れていたアミリアはゆっくり立ち上がると、今までなかったような低い声を出した。

「エ・ン・リ・コ~」


 その迫力に思わず後ずさりするエンリコ。

「えっ、えーと。アミリア(王女)様? ひょっとして、もの凄く怒ってらっしゃる?」


 その質問への返事はなかった。


 アミリアは無言でエンリコの胸ぐらをつかむと、振り返って言った。

「フラーヴィア。エンリコ(こいつ)、ぶちのめしていい?」


「まあ、そんなんでも人手だからね。死なない程度にしといてよ」


 アミリアはフラーヴィアの言葉に頷くとエンリコの胸ぐらをつかむ力を強めた。


 ◇◇◇


(やれやれ)

 フラーヴィアは肩をすくめた。

(ジェフリー様はとんずらを決め込み、アミリアはエンリコを締め上げ、ンジャメナはノアさんといちゃついている。ここはフラーヴィア()が音頭をとるか)。


「おーい、今、手が空いている人いる?」


「「「「「へーい」」」」」


 フラーヴィアの呼びかけに何人かが返事する。


「ここに『麻痺』魔法をかけられた奴隷商人がいるから、鍵のありかを白状させて、捕らわれているエルフたちを解放しましょう」


「「「「「へいっ!」」」」」」


 この頃はもう海賊団の団員もエルフたちも「人間(ヒューマン)語」も「エルフ語」もかなり使いこなすようになってきていたので、捕らわれたエルフたちとの意思の疎通は早かった。フラーヴィアもかなり話せるようになっていた。


「奴隷商人の手から解放してくれたのはありがたい。でも、これからエルフ(自分)たちはどうすればいいのだ?」

 老エルフは切々とフラーヴィアに訴える。


エルフ(あなた)たちの自由です。元いた森に帰られてもよいですし。フラーヴィア()たちと一緒にアトリ諸島に来たいと言われるのなら大歓迎です」


「元いた森か……」

 老エルフは寂しげにつぶやく。


「どうかされました?」


フラーヴィアの問いに老エルフはなおも寂しげに答える。

「元いた森に帰りたい気持ちもあるが、帰れば、また人間(ヒューマン)から銃を買った他部族の襲撃をうけるだろうし」


(やはりそうか)。

 フラーヴィアは思った。  

(残念だけどエルフの奴隷をほしがる人間(ヒューマン)はいなくならない。この問題の早期の解決は難しい)。


「それならあなたたちとともに暮らす方がいい。人間(ヒューマン)ではあるが、いい人たちのようだ。一緒にいるエルフたちもあなたたちに信頼を置いているようだし」


 フラーヴィアは微笑んだ。

「アトリ諸島にようこそ」


 ◇◇◇


 奴隷商人は縛られたまま一人その小さな部屋にいた。


 ゆっくりと部屋の扉を開けて入ってきたのはジェフリーである。


「ふっ」

 奴隷商人は冷笑した。

「何だ。ジェフリー(あんた)一人か。一人に尋問されるとは、この俺も舐められたもんだな」


「誰が尋問するって言ったよ」

 ジェフリーは部屋に一つだけあった椅子に腰掛けながら言った。

ジェフリー()は今後のことを伝えに来たんだ」



次回第39話「カカオパウダーは『媚薬』」

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― 新着の感想 ―
[一言] 愛があれば種族の壁も超えられる( ˘ω˘ )
[一言] 嫌な人間も、また良い人間もいますよね。 そういう葛藤があるお話好きです (*´▽`*)
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