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フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない  作者: 水渕成分


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37 奴隷商人とエルフの心

 そこの倉庫はうす暗く、空気がよどんでいた。エルフの逃走を防ぐためだろうか。窓はとても手の届かないような高いところに二つ小さなものがあるだけ。


 しかも床は板ではなく、土である。土の上にある液体はエルフたちの涙か尿か。


「うーん」

 エンリコが唸る。

「あんたらさあ、エルフは高く売れるっていうならこの状態は何よ? 商品管理が不衛生ってどういうこと?」


「ふん。分かってねえな」

 奴隷商人の中の一人の男が嘲るように言う。

エルフたち(こいつら)は貴族に嫁入りするわけじゃねえ。性的玩具になるか無償労働力になるかのどっちかなんだよ。エルフたち(こいつら)は家畜と同じなんだ。牛馬と同じ扱いでいいんだよ」


「ほほう」

 

 ジェフリーは焦った。エンリコが奴隷商人の言葉に怒りを覚えたのは間違いない。だがここでかつてのアミリアがやろうとしたように奴隷商人に鉄拳を振るおうとするのはやばい。


 だが見るとエンリコは両拳を握りしめていた。こらえたのであろう。さすがは商人だ。


「とにかくもう少し明るくしてもらわないと商品自体が見えないよな」

 ジェフリーはわざとらしくぼやく。「灯明」の魔法を使えば明るく出来るが、ジェフリー(こっち)の手の内を見せてやることはない。


「その必要はないね」


 ◇◇◇


 次の瞬間、ジェフリーは両脇を屈強な男二人に掴まれた。身動きがとれなくなる。


 そして、薄暗い中、ニンマリ笑った太った男が小銃を持って姿を現した。

「こんなに早く再会出来るとは思わなかったよ。『姿なき海賊団』頭目」


「むっ、海上で商船(キャラック)を拿捕した時の奴隷商人か? 生きていたのか?」


「ああ、あいにく悪運が強くてね。ただ、漂流させられていた間も、奴隷商人に復帰してからもジェフリー(貴様)への恨みは一日たりとも忘れたことはない。この早い再会を神に感謝だ」


「とんだ疫病神だな」


「ほざけ。奴隷商人()ジェフリー(貴様)のように甘くはない。きっちり死んでもらうぜ」

 奴隷商人はジェフリーの口に銃口を突っ込んだ。


「もごもがが」


「お頭っ!」

 エンリコが叫ぶ。だが、エンリコも二人の男に拘束されていた。


「もう一度言う。奴隷商人()ジェフリー(貴様)のように甘くはない。もう引き金を引くっ!」


 ◇◇◇


 ドサッ


 次の瞬間、倒れたのはジェフリーではなく、奴隷商人の方だった。小銃も地面に落ちた。


「かっ、身体(からだ)が動かんっ! ジェフリー(貴様)、何をしたっ?」


「うるさいな。『麻痺』魔法をかけただけだよ」


「魔法? ジェフリー(貴様)、海賊の頭目じゃないのかっ? 貴族なのかっ?」


「うるさいな。『貴族』って、ジェフリー()の心の古傷をえぐるんじゃないよ」


 ドサッドサッドサッ


ジェフリーとエンリコを拘束していた男たちも「麻痺」魔法で倒れる。


「汚い奴め。このままで済むと思うなよっ! てめえら、ジェフリーとエンリコ(こいつら二人)をぶちのめせっ!」


 奴隷商人の指示でごろつきのような用心棒が倉庫に乗り込んでくる。


「あーあ」

 ジェフリーは溜息を吐く。

「こっちは出来るだけ穏便に済ませたいと思ってんのに何でこうなるかね」


 そこにエンリコが問う。

「お頭。合図していいですかね?」


「ああ」


 ピュイー


 エンリコが指笛を吹くと、「ウオーッ」という叫び声とともに、「姿なき海賊団」の団員たちが小銃を片手に突入する。弓矢を持ったエルフたちもいる。率いているのはンジャメナだ。

エルフたち(仲間)が嗜虐されていたことへの怒りは人間(ヒューマン)よりも大きい。


 パンパーン


 ひゃう


 射撃戦が始まるが、同じ武器でもジェフリー側の弾丸や矢は敵に届く。相手方のそれは届かない。


 ジェフリーが魔法力を付加しているからである。


「お頭。さっきの奴ら縛りあげました」


 エンリコの言葉にジェフリーはほっとした表情を見せる。

「ありがと。いい加減弾丸と矢への魔法力付加にもくだびれてきたところだ。さて」


 ジェフリーは奴隷商人の首根っこをつかみ、ぶら下げる。


「何しやがるっ! ジェフリー(貴様)っ!」


「あ、暴れない方がいいよ。下手に暴れると魔法力で首スパッっていっちゃうよ」


「うぐぐぐ」


「ほんじゃま『拡声』と。おーい、敵の皆様、見えてるー?」

 ジェフリーは奴隷商人をぶらさげたまま呼びかける。


 ざわっ


 敵方からの射撃が止まる。


「君たち雇われ用心棒でしょ? でもね雇い主はこのザマ。これじゃあ報酬も出ないよ。今のうちに逃げた方が得だよ」


 すたたた


 雇われ用心棒たちは我先に逃げ出した。


「あっ、雇われ用心棒(てめえら)っ!」


 そんな奴隷商人の叫びは全く届かず、雇われ者は一人残らず逃げ出した。そして、元々の奴隷商会の者は残らず捕らわれたのである。


 ◇◇◇


「ジェフリー兄さま。奴隷として売られることになっていたエルフたちはやはり酷い扱いを受けていました」

 アミリアがジェフリーに報告する。隣にいるフラーヴィアもいつになく神妙な顔だ。


「そうか。出来るだけ良くしてやってくれ。例によって自分の家に帰りたい者は帰してやって、ジェフリー()たちと来たい者は連れて帰るって、ンジャメナ?」

 ジェフリーは真っ青な顔をしてガタガタ震えているンジャメナに気がついた。

(しまった。ンジャメナ(自分)が過酷な扱いを受けていた時のことを思い出したのか。くっ、配慮が足りなかったか)



次回第38話「アミリアの怒り爆発。エンリコ危うし」

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― 新着の感想 ―
[一言] 成・敗( ˘ω˘ )
[一言] 奴隷商会が壊滅してめでたしめでたしですね!
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