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フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない  作者: 水渕成分


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36(第二部完)人間語の話せる女エルフは高く売れる

 そしてここは長老の家。ベッドにはジェフリーが寝ている。


「なっ、なあ」

 長老がおずおずと話しかける。

「やっぱりまずかったんじゃないのか? アミリア(あの子)、相当ジェフリー(あんた)のこと思ってるぞ」


「そんなこと分かってるよ」

 ジェフリーはぷいと横を向く。

「でも、ジェフリー()にとってアミリア(あいつ)は小さい妹同然で守ってやらなきゃいけない存在なんだよ。それに王女様だぞ。いつまでも海賊団にいていいわけがない。こないだの戦闘だって勝つには勝ったが綱渡りだったじゃないか。こんな危ない目にいつまでも会わせちゃおけないよ」


「ふう~」

 長老が溜息を吐く。

「何と言うか。堅いと言うか、古いと言うかだねえ」


「そうかもしれない。でも、長老。あんただったら分かってくれんじゃないか?」


 長老は苦笑する。

「まあ、分からんでもないよ。長老(わし)はね」


「そうだろ」

 ジェフリーもニヤリと笑う。


「だがな。それはエルフの中でも長老(わし)だけだよ。他のエルフは認めないよ。そんなこと」


「え? そっ、そうなの?」


「そりゃそうだろ。アミリア(お姫様)危険(そんなこと)は十分承知の上で、海賊団(ここ)にいるんだよ。他のエルフたちはそれがよく分かっているから『アミリア様応援団』なんてものを作ってるんだろうよ」


「うっ、うーむ」


「だからこれからもプレッシャーはかかるよ。覚悟しといてね。長老(わし)もこの件じゃ怖くて(かば)えないから」


「うーん」


 ◇◇◇


「おいっ、おまえっ!」


 不意に呼びかけられたそのエルフは返事を待たずに、三人の男に拘束された。


「油断も隙もあったもんじゃねえな。どうやって脱走した?」

「しかも堂々と町を闊歩しやがって。俺たちを舐めてんのか?」

「鉄鎖も外してやがる。どうやったんだ?」


エルフは慌てる。

「何するんですかっ? 放してくださいっ!」


「何言ってやがる。奴隷の分際で」

「あ、こいつ。人間(ヒューマン)語話すぞ!」

「こいつはいいぞ。上顧客の貴族の中にエルフを鞭打って、その悲鳴を聞くのが趣味というのがいる。人間(ヒューマン)語で悲鳴を上げられるなんて高く売れるぞ」

「そうだな。おいっ、とっとと倉庫に戻るぞっ! 心配すんなっ! 高く売ってやるからっ!」


 パーン


 エルフを拘束しようとした三人の男の至近の位置を弾丸が通り過ぎる。


 思わず発射位置を振り返る男たち。拳銃を撃った赤髪の女はなおも銃口を男たちの方に向けている。

  

「そのエルフ()はうちの子なんだ。勝手に連れて行かないでもらいたいね」  

 赤髪の女ことフラーヴィアは淡々と言い放つ。


「何いっ! 大ボラ吹いてんじゃねえぞっ! 女エルフは高いんだ。フラーヴィア(てめえ)みてえな小娘に扱える代物じゃねえんだよっ!」


「フラーヴィアの言ったことは本当のこと。そのエルフ()を放してください」

 ゆっくりとその陰から姿を現したのはアミリアである。


「分かんねえ奴らだな。女エルフはてめえら小娘には高くて買えねんだっ! 欲しけりゃ金持ちの親父か愛人に金持たせて連れて来いっ!」


「やれやれ。会話が成立しないよ。フラーヴィア」

「仕方ない。やっちまうしかないみたいだよ。アミリア」

「仕方ない。やるか。『麻痺』『麻痺』『麻痺』」


「ぬおっ!」

「なっ、何だっ! 体が動かねえっ!」

「てめえっ! アミリア(小娘)っ! 何しやがったっ?」


「『麻痺』魔法をかけただけですよ。結構MP食う魔法なんで相手が大人数だと使えないんですよ。光栄に思ってくださいね」


「魔法? おいっ、アミリア(小娘)っ! てめえっ、魔法使えるって貴族か王族の令嬢かっ? そんな奴が何でこんな港にいる?」


「うるさいですね。アミリア()がいたいからいるんですよ」


「それよりアミリア(小娘)っ! とっととこの魔法を解けっ! 体が動かねえっ!」


「それがアミリア()にものを頼む態度ですか? 一番弱いのかけたから、しばらくすれば勝手に解けますよ。ンジャメナッ、帰りましょ」


 ンジャメナは頷いて、アミリアの下に駆け寄る。三人の女性はいずこかへと去って行った。


 ◇◇◇


「何だよ。あのアミリア(小娘)。貴族か王族の令嬢かよ。なんでこんなところにいるんだ」

「そういう話ならあのンジャメナ(エルフ)は親父に買ってもらったかもしれんが、こんなところに連れてくるなだよな。まぎわらしい」

「それにしても惜しかったよな。人間(ヒューマン)語話せる女エルフならいくらでも金出す貴族がいるだろうに」


 時間の経過とともに「麻痺」魔法が解け、体が動くようになった三人の男はぶつくさ言いながら歩いて行く。


「なあっ、さっき聞こえちゃったんだけど、あんたらエルフ売ってるのか。ちょっと見せてほしいんだけど」


 三人の男たちに声をかけたのは猿のような少年と虎刈りの頭に無精ひげのむさい男だった。


 三人の男たちはうんざりした。

「おいおい。さっき聞いてたんなら分かるだろ。エルフは高いんだ。てめえらガキや貧相なオッサンに買えるもんじゃねえんだよ」


「これでも?」

 少年は持っていた布袋の口を開けて見せる。中には金貨がつまっていた。


「ほっほう」

 三人の男たちの態度が変わる。

「そういうことなら話は別だ。ついてきてもらおうか」


 三人の男たちは思う。

(さっきは妙な女に『麻痺』魔法かけられて気分悪いからな。こいつらをぶち殺して金貨だけいただくか)。


(ンジャメナに演技させた甲斐があったな。奴隷商人につながりが出来た。ここからだな。それにしてもガキだの貧相なオッサンだの失礼な奴らだな)。

 もちろん「ガキ」はエンリコ。「貧相なオッサン」はジェフリーである。



 第二部 完



次回第37話「奴隷商人とエルフの心」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第一章に引き続き、二章も面白かったです! 第一章でゲットしたクローブとナツメグから、こんなお話の展開になるとは……!予想外の展開にワクワクしました。 襲撃はハラハラしましたが、エルフた…
[良い点]  第二部、拝読しました!  フラーヴィアも魅力的なキャラでしたが、個人的にはレオニーの正体が意外で、でもアドルフへの〝想い〟も本物っぽいですし、彼女のことがとても気になりました。 [一言]…
[良い点] 第二部を拝読しました。 登場人物も増えて賑やかになってきましたね。 大商人の同じ孫でも、フラーヴィアとティーノは全く正反対ですね。 アミリアもフラーヴィアもクローブとナツメグを市場に出す…
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