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フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない  作者: 水渕成分


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32 アトリ諸島攻防戦決着

 戦闘は本格的に再開された。ンジャメナは矢を放ち、フラーヴィアは拳銃を撃つ。


 その狙いは正確で矢と弾丸は一直線にレオニーに向かう。しかし、レオニーは涼しい顔で避けようともしない。


 レオニーに矢と弾丸が命中すると思われた瞬間、二人の敵兵がその前に立ちはだかり、あえて矢と弾丸を受け、倒れた。


「ふふふふふ。はあっはっはっ」

 高笑いするレオニー。

「いくらでも撃ってくるがいい。全てレオニー()のかわいい(しもべ)たちが命を捨てて守ってくれるわ。そうこうしているうちにレオニー()身体(からだ)には再度魔力が満ちてくる。その時はアミリア(小娘)っ! 今度こそ貴様が死ぬ時だっ! そして、魔法を使える奴がいなくなった『姿なき海賊団』は死ぬ以外に道はないわっ!」


「くっ」

 唇を噛むアミリア。


「やるしかないですよ」

 ンジャメナが励ます。

魔族(デーモン)の配下の海賊たちが魔族(デーモン)(かば)うなら、突き破ってやるまでです」


「そうだね。やろうっ!」

 アミリアは次なる矢と弾丸に魔法力を込めた。


 ◇◇◇


 しかし……


 レオニーを囲む肉の壁は厚かった。


 倒しても倒しても敵の数は減らない。


 魔法力を付加された矢や弾丸が敵兵を貫いても次の敵兵が立ちはだかる。


 焦る気持ちと戦いながら、アミリア、フラーヴィア、そして、ンジャメナは攻撃を続ける。だが功は奏さない。そして……


「はあっはっはっ、我が身体(からだ)に魔力は満ちた。魔弾を喰らって死ねっ! アミリア(小娘)っ!」

 そう言いながらレオニーは右肘を真後ろに引いた。


 次の瞬間……


 ドゴゴゴゴゴー


 凄まじい音とともにレオニーの乗るガレオンが大きく傾いた。後方から大きな船の追突を受けたらしい。

 

「何? 何が起こったの?」

 慌てるアミリアにンジャメナが言う。

「アミリア様。何が起こったかは後で確かめましょう。ここは千載一遇のチャンス。わが矢に魔法力を付加してください」


「アミリア。フラーヴィア()弾丸(たま)にも」


「うん」

 アミリアは頷くと、矢と弾丸に魔法力を付加する。


「くっ、くそっ、何が起こったんだっ?」

 傾くガレオンの甲板から次々と護衛の海賊たちが滑落していく中、レオニーは帆柱につかまり、滑落しまいとする。


 だがその姿はアミリアたちからは丸見えだった。


 パーン


 ひゃう


 放たれた矢と弾丸は今度こそレオニーの心臓を貫いた。


「ばっ、馬鹿な。そんな馬鹿なっ」

 その言葉とともにレオニーの身体(からだ)は四散し、消え去った。。


 次の瞬間、マルシェ海賊の海賊団員たちは我に返ったが、彼らは大きく傾いたガレオンから滑落しないようにすること。そして、海上に落ちてしまった者は何とか泳いで島にたどり着くことで頭がいっぱいだった。


 そんな中、遙か後方から声がした。少年のような声だ。


「お嬢さまあーっ」


 その声に敏感に反応したのはフラーヴィアだった。

「まっ、まさかっ。エンリコ?」


 ◇◇◇


「おーい。まだかあ、まだアトリ諸島は見えねえのかあ」


エンリコ(兄貴)―っ、何遍言ったら分かるんですかい? まあだ、当分先ですよ。船長室で休んでいてくださいよ」


「そうはいくかあっ! ひっさびさに、フラーヴィア(お嬢様)にお会いするんだぞっ! いてもたってもいられるかいっ!」


 時間は少し巻き戻すことになる。


 フラーヴィアの祖父オズヴァルドとその執事リエトの出した結論は「アトリ諸島に残ったフラーヴィアのサポートが務まるのはエンリコしかいない」だった。


 かくて執事リエトは一隻の商船(キャラック)とともに北翔洋(ほくしょうよう)の港町ティガに残り、取引の交渉を続けていたエンリコに手紙を書いた。

「交渉が一段落したら、ヴェノヴァの本店に戻らず、直接アトリ諸島に向かい、そこで取引交渉をされているフラーヴィアお嬢様をサポートするように」と。


 エンリコ。十八歳。しかし見てくれは身長の低さもあって、十二、三歳にしか見えない。


 サーカス団員も務まるのでは思わせるほどの運動能力で、ついたあだ名は「猿」。


 もっとも特筆されるのは「人見知り」という言葉を母親の胎内に置いてきたのではないかと言われるほどの社交性だ。思いもよらぬ取引を次々成立させる。しかも取引相手の身分には一切こだわらない。


 そのため大商人になった以上、取引相手もそれなりの者であるべき、リスクのある飛び込みの取引をすべきではないと考える次期当主ティーノはエンリコのことを嫌っており、エンリコはデ・マリ商会の異端児であった。


 にもかかわらず商船隊を任されるような身分なのは、ひとえに現当主のオズヴァルドとその執事リエトから「若い頃の自分たちを見ているようだ」と言われて、気に入られているからである。  


 ◇◇◇


エンリコ(兄貴)―っ、アトリ諸島が見えましたー。でも、何か変ですぜ」


「何っ? 変? 何が変なんだっ?」


「遠目なんでまだよく分かんねんですがね。どうも煙とか水柱が上がっているみてえですよ」


「何だとっ! よしっ、エンリコ()が直に見てみるっ!」


「猿」のあだ名は伊達ではない。エンリコは目も止まらぬ早さで監視塔をよじ登ると、監視員から望遠鏡をひったくった。


「む……」

 監視員の言葉に間違いはなかった。確かに煙や水柱が上がっている。どうも港で海戦が行われているらしい。

「これはいかんっ! フラーヴィア(お嬢様)の身に万一のことがあってはいかんっ! 帆を全開にしろーっ! 全速力でアトリ諸島に向かえーっ!」








次回第33話「男エンリコ それもご褒美」

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― 新着の感想 ―
[一言] レオニー撃破! やりましたね (*´▽`*)b
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