30 ジェフリーとその一味は負けない
一方、レオニーは二隻を前衛、残る一隻を後衛としたガレオン艦隊のうち後衛に乗っていた。
レオニーの目に映るのは前衛の二隻の甲板及び海上に落ちた味方の団員のたくさんの死体である。
それらはみな下卑た笑いを浮かべて死んでいた。
(ふふふ。魂が天獄に行ったのね。天獄での美食と淫蕩は楽しいでしょう。飽きるまで楽しみなさい。そして飽きた時……)。
レオニーは妖しい微笑を見せる。
(その魂はわが妖液に溶け、私の魔力となる)。
(但し、ジェフリーとその一味にはそういう束の間の幸せも与えてやるつもりはない。アドルフ様を悩ませた罪は重い。魂は地獄の業火で焼き尽くした後、私の魔力とする)。
レオニーは今度は厳しい目で前を見据えた。
◇◇◇
レオニーの精神的支配下にある二隻のガレオンはついにジェフリーの指揮するガレオンの指呼の距離まで来た。
まだ海上に浮いてことが不思議なくらいの損傷度合いだが、接近を止めない。
ジェフリーの指令で「姿なき海賊団」の団員たちは大砲による砲撃を止め、小銃に持ち替えている。もはや大砲の弾道では敵の艦を飛び越えてしまうくらい接近しているのである。
(あわよくば一隻でも沈んでくれればと砲撃を続けてきたが、沈まずに来ちまったか。不幸中の幸いはこっちの砲弾が敵の帆にも結構当たったから速度が緩み、勢いつけてぶつけられる心配だけはなくなったが)
ジェフリーはもう一度「千里眼」の魔法で敵艦の甲板を確認する。
(やはりか。敵兵は目がまともじゃねえ。おまけに誰も銃を持ってねえ。サーベル持ってやがる。白兵戦で決着つける気か? 凄惨な戦闘になるぞ。いっ、いや、悩んでいる場合じゃねえっ!)
「撃てっ!」
ズドドーン
ジェフリーの指示の下、海賊団員たちは一斉に小銃を撃つ。
もうそんなに距離はない。敵兵は何人も倒れていく。
しかし、敵艦は接近を止めない。
「撃てっ!」
ズドドーン
ヒュンヒュンヒュン
距離が近づいたので、海賊団員の小銃に加え、エルフたちの弓矢も放たれる。
敵兵は何人も倒れていく。
しかし、敵艦は接近を止めない。
◇◇◇
ついには敵艦二隻はジェフリーの指揮するガレオンの至近距離まで来て、停止した。
それとともに、敵兵は次々とこちらの艦への飛び移らんとしてくる。
もちろん、小銃と弓矢の射撃はそれを阻まんとするが、一人二人と飛び移ってくる。
そうなると白兵戦である。敵兵の振るうサーベルを小銃の銃身で受ける海賊団員たち。隙あらば銃尻で殴りつけて倒す。エルフたちは距離を取り、後方から矢を放ち、援護する。
しかし、それでも負傷する海賊団員が出てくる。そこはエルフの救護班の仕事だ。甲板を駆け回り、負傷者を運び、船室に連れて行く。船室では長老が指揮するエルフたちが治癒に励む。
(きついなー)。
ジェフリーは嘆く。こちらの艦に入り込まれる前に砲撃と射撃で相当数の敵兵を倒した。それでもまだこれだけの数の敵兵が残っている。
(こっちは一隻で向こうは三隻だったからな)。
(おっと)。
敵兵を一人殴り倒し、肩で息をする海賊団員が目に入る。
(『体力回復』『気力回復』)。
魔法をかける。
(いかんいかん。ぼーっとしていちゃ駄目だ。しかし、ジェフリーの魔法力もいつまでもつか……。いやいやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。『体力回復』『気力回復』)。
「ジェフリー兄さま」
◇◇◇
「アミリア」
ジェフリーの目の前には笑顔のアミリアがいた。
「アミリア。負傷者の治癒の方は大丈夫なのか?」
アミリアは笑顔のまま答える。
「大丈夫です。エルフが薬草から作った治療薬は凄い効き目なんですよ。長老からこっちは大丈夫だから、ジェフリー兄さまを助けてこいと言ってもらって」
「そうか」
ジェフリーは頷いた。
(正直助かる。魔法使えるのがもう一人いると)
パーン
見つめ合っていたジェフリーとアミリアの間を一発の弾丸がとおる。その弾丸はジェフリーとアミリアにサーベルを振るい、襲いかからんとした敵兵の額を貫いた。
「二人とも油断大敵ですよ」
そこには右手に拳銃を持ったフラーヴィアが立っていた。
「フラーヴィア」
「フラーヴィアさん」
ほっとした表情を見せたジェフリーとアミリア。だが、ジェフリーはすぐに厳しい顔になった。
「フラーヴィア。甲板は危ない。すぐ船室に避難しろ」
パーン
次の瞬間、フラーヴィアの拳銃から発射された弾丸がまたも敵兵の額を貫く。
「フラーヴィアは伝説の大商人の孫娘。どこへ行くのも護衛が付きました。それが嫌で脱走を繰り返していたら、ついにはオズヴァルドも根負けして、拳銃をくれたんですよ」
パーン
フラーヴィアは話しながらも敵兵を倒すことを忘れない。
「もらった時は嬉しくて嬉しくて、それから毎日射撃の練習を欠かしませんでした。その成果がこれです」
パーン
「分かった……」
ジェフリーは半ば呆れつつ頷いた。
(何とも凄い話だが、貴重な戦力には違いねえ)。
◇◇◇
(おかしい。どういうことだ?)
レオニーは唇を噛んだ。
(もうとっくにジェフリーとその一味は皆殺しになってなければいけないはずだ。何故持ちこたえている? こっちは相手方の三倍の数だぞ)。
レオニーは「千里眼」を使う。
(くそっ、そういうことか)
次回第31話「ジェフリーが一番好きなのは……」




