24 第二次主人公争奪戦勃発
「いっ、いや、あっ、あなた」
それでも声を絞り出したのはやはりアミリアだった。
「何で取引交渉の話をするのに腕にしがみつくんですか?」
「はい。それは……」
フラーヴィアは笑顔のままだ。
「取引交渉の話もありますが、フラーヴィアにとって、ジェフリー魅力的なもんで」
ざわっ
「それはそれは。でもアミリアにとってもジェフリーは大切な方なのです」
アミリアも微笑を浮かべてつつ駆け寄り、ジェフリーの左腕の方をつかんだ。
ざわっざわっ
「はあ。失礼ながらアミリアはジェフリーにとって、どういう存在なのでしょう?」
「アミリアはジェフリーの副官です。公私とも。だから、取引交渉はアミリアも当然同席します」
胸を張って答えるアミリア。
「『副官』ですか? 配偶者もしくは婚約者ではない。これはフラーヴィアにもチャンスがあるということですね」
ざわっざわっざわっ
徐々に大きくなるざわめき。アミリアもフラーヴィアもジェフリーの腕を引く力は強くなっていく。
にもかかわらずジェフリーは固まったままである。
(ええいもう、ああ言えばこう言う。さすがはマスターオズヴァルドの孫娘といったところでしょうか)
(なかなかやるわね。オズヴァルドに交渉術を鍛えられたフラーヴィア相手に一歩も引かない。ただの深窓の令嬢の王女様じゃないってことね)
そうも思いながら笑顔は絶やさないアミリアとフラーヴィア。
「ではジェフリーを交え、頭目の館でいろいろお話しましょうか。取引も含めて」
「いいですね」
かくてアミリアとフラーヴィアは固まったままのジェフリーを両サイドで支え、頭目の館に入っていった。
◇◇◇
バタンという音とともに頭目の館の扉が閉まるとざわめきは一段と大きくなった。
「何だよ。あれ」
「ずりい。何であんなにお頭ばっかりモテるんだ」
「解せん。何であんな虎刈り真っ黒頭で無精ひげのオッサンがモテるんだ」
「ここまで理不尽なことはそうはねえぞ」
口々にブーイングする海賊団員たち。
しかし、エルフたちの反応はまた違った。
「これは捨て置けないね。我が『アミリア様応援団』としては」
「ここまで順調と思っていたら、思わぬ伏兵が現れたね」
「ねえ。ンジャメナ。このままって訳にはいかないよね」
「うっ、うーん」
他のエルフたちから問われたンジャメナだが、その反応は鈍かった。
「どうしたの? ンジャメナ。あなたは栄えある『アミリア様応援団』の団長じゃないの?」
「うっ、うん。そうなんだけど」
アミリアは確かにジェフリーとともに自分たちエルフを奴隷の身から救い出してくれたし、その人柄も好ましい。
だけど、アミリアに対し、ライバル宣言をしたフラーヴィアもまた「亜人」であるンジャメナを「友」と呼び、その言葉にそぐわない接し方をしてくれたのだ。
どちらかを応援するということはンジャメナには出来なかった。
◇◇◇
「違うぞ。ティーノ。オズヴァルドが言いたいのはそういうことではない」
ヴェノヴァでも五本の指に入る大商人デ・マリ商会の主オズヴァルド・デ・マリは努めて冷静を保って話した。
「何が違うと言うのです。フラーヴィアは勝手に一人でアトリ諸島に残った。だから、ティーノらだけが帰ってきた。それ以上でもそれ以下でもないでしょう」
それに対し、若さ故かオズヴァルドの孫にして後継者ティーノは苛立ちを隠そうとしない。
「オズヴァルドはフラーヴィアがアトリ諸島に残ったこともティーノがヴェノヴァに帰ってきたことも問題だとは言っていない。問題なのは……」
「問題なぞないです。フラーヴィアは勝手に残ったんだから」
「いやある。フラーヴィアがそうまで言ってアトリ諸島に残ったのなら何故フラーヴィアと連絡出来る体制を作っておかなかった?」
「連絡体制なぞ人員と設備の無駄遣いです。あんなアトリ諸島に取引する価値などないのだから」
「なるほど。ティーノの目から見て、アトリ諸島は取引する価値はなかった。その意見は受け入れよう。しかし、にもかかわらずフラーヴィアは取引する価値があると言って、一人ででもアトリ諸島に残った。そこに何かの可能性は見なかったのか?」
「フラーヴィアが何を考えているかなど、ティーノにはまるで分かりません。可能性は全くないとは言えませんが、リスクが高い。ヴェノヴァの大商人デ・マリ商会の取引相手としてはふさわしくないとしか言えませんね」
(駄目だったか)
オズヴァルドは内心溜息を吐いた。
(保守的なティーノと冒険的なフラーヴィア。両者がうまくかみ合うことを期待したが)
「オズヴァルド。ティーノにはもうこれ以上報告すべきことは何もありません。ここで退席させていただきます」
「待てっ、ティーノ。オズヴァルドの話はまだ終わっていないぞ」
「そのお話がアトリ諸島に残ったフラーヴィアと連絡を取り合えるようにしろというものでしたらお断りします。人員と設備の無駄遣いはしたくない。では」
ティーノはその言葉とともにそそくさと立ち去った。
(ぐっ)
オズヴァルドは唇を噛んだ。しかし、めげてばかりもいられない。
「リエト。いるか?」
「はっ」
リエトはいつものとおり静かにその姿を現した。
次回第25話「謎の女占い師とティーノ」




