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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第3章 冒険者編 -坩堝の王都と黄金の戦士-
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第69話 新生≪ヴァリアー≫

「ここから先は、場所を移してからにしましょうか」


 何度も同じ説明をすることを嫌ったのだろう。副局長アドラスの提案で、一行はギルドハウスを離れ、≪ヴァリアー≫の事務所へと移動した。

 そこは同時に、女王エヴェリーナの屋敷でもある。もっとも、女王がここに住んでいることは伏せられているため、実際には存在しない「シェルマン男爵」の屋敷ということにしているらしい。新体制となったばかりの王国であるが故に、架空の新興貴族をでっちあげることなど簡単なのだろう。実際、トレヴァス伯爵家やウルフスタン伯爵家なども新興貴族なため、何ら違和感はない。


「お帰りなさいませ、お嬢様。……それから、お客人でしょうか?」


 濃い青髪をした長身を、タキシードで包んだ男性。彼は黙礼したあと、友好的とは言い切れない視線で蓮たちを一瞥した。「お嬢様」という発言から鑑みるに、執事だろうか。女王陛下に対してお嬢様とは、なんだか妙な気もするが。

 それから、更に奇妙なことに……執事は銀色の仮面で顔を隠している。そこから覗く黄玉トパーズの目に、蓮は“心眼”を使わずとも、普通の人とは異なる何かを感じ取っていた。


「ええ。これといって隠すべき事柄もない、頼れる味方を連れてくることができました」

「……そうですか。それはようございました」

「レーヴ、皆さまにお茶をお出ししてください」

「かしこまりました」


 いまいち覇気のない声色ではあるが、蓮たち新顔を警戒していたのは、女王エヴェリーナの身を案じているが故だろう。女王は信頼を寄せているようなので、蓮たちにとっても警戒する必要のない人物のはずだ。


「では、皆さんあちらへ。お好きな場所に座ってください」


 女王にレーヴと呼ばれた仮面の執事が奥へと消えると、副局長アドラスが≪ヴァリアー≫が事務所として間借りしているエリアを指し示した。

 蓮、エリナ、千草、スカルセドナ、ニーナゼル、クスタバル、シラスが中央に置かれた透明なテーブルを囲うように、長ソファへと座っていく。暖炉を背にしたソファに局長リバイアが座ったが、特に指定席という訳ではないらしい。以前に蓮が≪ヴァリアー≫から門前払いをくらった日に彼女が座っていた場所とは違った。それに、さすがの暴君リバイアも、女王の前では乱暴に足を組んだりしないらしい。

 副局長アドラスは、リバイアの斜め後ろに見える机の奥に引っ込んだ。彼専用のデスクだろうか。


「ディルクさんとヨラン君も、どうぞそちらに」

「……ええ」

「あ、はい」


 アドラスに促され、初心者冒険者講習の監督役を務めたディルクと、ガイア教団から派遣された治癒術士であるヨラン少年も蓮たちの後ろにある長ソファに着席した。二人とも、借りてきた猫のようになっている。自分たちがなぜこの場に同席することになったのか、不思議でならないのかもしれない。

 透明なテーブルを囲うソファのうち、最後に残ったものにギルドマスター・バルタザールと女王エヴェリーナが間隔を空けて座る。その背後に控えるように、マキト、レオパルカ、アルヴィドの三名が立ち並ぶ。

 敗北した彼らは意識を取り戻した後、たいした説明もされないままこの場所へと連れてこられた訳だが……どれくらい状況を理解しているのだろうか。レオパルカがむすっとした表情をしているあたり、ギルドマスターからは今回の講習会の真の狙いまでは教えられていなかった可能性が高い。


(オレ、シラス、スカルセドナが本当にこの国に悪意を持って現れた可能性を念頭に、全力で戦って欲しかったってことか。だとしたら……なんか、うちの師匠を思い出すスパルタ感だな、このギルマス……)


 蓮は内心でレオパルカたちに同情していた。年上に理不尽にしごかれる感覚は、よく知っているためだ。


「この屋敷にいる間のわたくしは、イヴリン・シェルマン男爵令嬢……ということになっています。どうか皆様、お気軽にイヴとお呼びください」


 と、エヴェリーナ女王改めイヴが仮初の身分を明かした。もっとも、相手が男爵家の娘だとしても、礼を欠いていいことにはならない。


「は、はい。分かりました、イヴさん」


 蓮はそう返すだけで精一杯だった。今のところ、大きな失言はしていないはずだが。

 この場は新たに≪ヴァリアー≫に加わった蓮、シラス、スカルセドナ、クスタバル、ニーナゼルの五人に状況を説明するために設けられたところが大きい。だが、どうにも偉い人への返答が蓮にばかり任され過ぎている気がする。

 恐らく、シラスもスカルセドナもクスタバルもニーナゼルも、「レン・ジンメイが一番礼儀作法に詳しそうだし、自分は黙ってればいいか」と考えているのだろう。多少なりとも。


(勘弁してくれよ……)


 蓮の嘆きは誰にも届くことはなかった。


 ――数分後、屋敷に残っていた隊員や、外から戻ってきた隊員たちが合流し始める。


「うおっ、“ヴァリアーのドラゴンヘッド”……!!」


 第一に、そう驚きのままに叫んでしまったのはクスタバルだった。

 その驚きは蓮にも理解できた。上階より階段を降り、≪ヴァリアー≫事務所へと顔を出したその人物は……巨大な図体の天辺に、竜の頭部を有していた。

 蓮はクスタバルが口にしたフレーズを耳にするのは初めてだったが、“ヴァリアーのドラゴンヘッド”という響きには頷くしかない。恐らく、街では有名な人物なのだ。

 赤黒い鱗に身を包み、爬虫類らしい模様をした黄玉の瞳をこちらに向けた竜人は、ただのリザードマンとは威圧感が違う。後頭部を中心に後ろ向きに細かく生えた棘のせいで、新品の枕を一日でズタボロに出来そうだ。しなくていいが。

 フードやコートで厚着しているため、全身の肌がどうなっているのかは分からない。だが、少なくとも露わになっている頭部と両腕は全てが爬虫類に酷似したもので、肌色が存在しない。


「……ヴゥ……ゴホン。≪トレジャー≫……だ……よろしく、たのむ……」


 竜人の口が少しだけ開き、そこからくぐもった声が漏れた。竜の頭部では、人語を発することは難儀なのかもしれない。


「この外見のせいで恐れを抱かれることが多い彼ですが、非常に頼りになる仲間です。素早く喋ることが苦手なので指揮を預けることはあまりありませんが、共に任務に当たってもらうこともあると思いますので、出来るだけ早く慣れてあげてください」


 アドラスは何でもないことのようにそう言った。

 蓮自身、自分より頭三つ分は背丈のある竜人を目の前にしているにしては、恐怖を抱いていない自分に驚いていた。


(ん? なんか、懐かしい気配がする……ような……?)


 不思議な感覚の正体は掴めないまま、


「分かりました。えっと、≪トレジャー≫っていうのが……≪ヴァリアー≫におけるコードネームってやつですか?」


 戸惑いつつも蓮が問うと、アドラスが頷いた。


「そうですね。段々と形骸化しているので、私や局長のように本名をそのままコードネームにしている者も多いのですが。彼のように記号タイプのコードネームで名乗っている人に関しては、あまり本名や過去は詮索しないであげてください」

「なるほど……」


 物珍しい存在だからといって、あまりじろじろ眺め続けるのも悪いだろう、と蓮が≪トレジャー≫から目を逸らした頃、次なる人物が姿を現した。

 水色の髪をオールバックにした、背の高い成人男性だ。清流人の血は間違いないだろうが、身長の高さを始めとして、他の人種も混じっていそうな顔立ちだ。


「どうも新人さん、俺はコードネームが≪タイショー≫、本名は大生おおぶ・グスターヴォって言います。孤児なんで出自は自分でもいまいち分かんないんですが、メロアラントの方と近い血が入ってるのは間違いないと思います」


 その名乗りを聞いて、蓮は「ああ……」と得心がいったように頷いた。彼の話は聞いたことがある。


「よう、グシー」

「おぉ……久しぶり、ディルク」


 蓮の後ろで、ディルクが嬉しそうに挨拶し、大生もにこやかに返した。

 大生・グスターヴォ。カン字の名前を女師匠イデアから、カタカナの名前を帝国の現≪四騎士≫の一人、“防壁の騎士”エサイアスから貰ったという、元冒険者の男性だ。

 設立当初の冒険者ギルドが、竜信仰の国ガイアで≪土神つちがみの塔≫を攻略するためだけの組織だった頃、大生はディルクと同僚だったのだ。


「兄貴の……マモル・ジンメイからの手紙に書いてありました。大生さんは頼りになる大盾使いだって」

「……ああ、君が守君の弟の、蓮君か。ははっ、ただ刃物で相手を斬る感覚が苦手だっただけだよ。俺は皆の足を引っ張らないよう、精一杯盾を構えてただけさ」


 大生はそう謙遜してみせたが、五年前の戦争を生き延びた彼が、ただの弱者であろうはずもない。


「……じゃあ、そろそろ俺の番か」


 登場する機会を窺っていたのか、大生の後ろから姿を現しつつそう言ったのは、中肉中背……というにはこの頃は筋肉がつき、がっしりしてきた成人男性。

 顔の殆どを覆うほどに伸ばした茶色の前髪の上に、黒い眼鏡が乗っている。ちゃんとこちらが見えているのか、なんだか不安になってくる出で立ちだ。


「いいかお前ら、よく聞いてくれ。まず、表で口に出されると面倒になるから覚えなくていいんだが、誠実さの証明としてお前らには名乗っておく。そんな本名が……アルフレート、という。いいか、マジで覚えなくていいからな?」


 と、ツッコミ所しかない名乗りを上げた男。

 蓮は「いや、じゃあそもそも名乗らなければいいじゃないですか……」と言おうとして、彼の名前を脳内で検索し、それがヒットしたことであんぐりと口を開けた。


「――え、アルフレ……って、六年前にレンドウさんやカーリーさんを≪ヴァリアー≫に引き入れたっていう、あの幹部の? コードネームは≪歩く辞書≫で、人間のフリをしてたけど実はアニマで……って……!?」

「おいおい……恐ろしいくらいに知られてるじゃねーか。俺ってそこまで有名だったのか。いや、守の手紙にもそこまで書いてなかっただろ」


 あきれ顔でそう零したアルフレート。

 蓮はちょっと待ってくれ、とばかりに両手を前で振った。


「フェリス・マリアンネさんに聞きましたから……いやいやいや、で、大丈夫なんですか? アニマのあなたがこんな風に王都の中で生活してて……指名手配とかされてないんですか? 帝国勢力に存在がバレたら、殺されちゃうんじゃ……」


 というより、アニマはその存在を匿った仲間まで帝国法によって死刑になるのだ。下手をすれば、今この場にいる全員が……。


「いやまぁ、多少は綱渡りではあるかもしれねーが。少なくともこの屋敷に引きこもってる限りは、今日明日に殺される気はしないな。まぁ、その辺の事情はおいおい、落ち着いて説明させてくれ。今は軽ーく、な。まだ後がつかえてるし」


 そう言ったアルフレートの後ろには、確かに次に自己紹介するつもりであろう人影がいくつもあった。


「まず、今の俺の名前はアルベリク(・・・・・)……ということになっている。だから、必ずこっちの名前で覚えてくれ」

「前の名前から最初の二文字を持ってきているお陰で、愛称は変わらずアルさんでオッケー、ってことですね!」

「あぁ」


 得意げにそう言った千草に、アルフレート……改めアルベリクはにやりと笑んだ。どうやら、五年前に比べてかなり付き合いやすい性格へと変貌しているらしい。マモル・ジンメイの手紙によれば取っ付き難いというか、皮肉屋な部分が目立つリーダーだという話だったのだが。


「そもそも、扱いとしては≪ヴァリアー≫の隊員じゃなくて、この屋敷に雇われた使用人なんだよ、今の俺は」

「なるほど……? まぁ、それでなんとかなってるなら、オレから言うことはないですけど……」


 嘘だ。実際は巻き添えで死刑をくらうのは結構怖い。だが、一旦それを押し殺して蓮がそう返せば、アルは少し左へと移動し、右側の人物を指し示した。


「んじゃ次の方の紹介を……アドラス?」

「ええ、では私からご紹介します。彼女は私の妹で、名をピーアといいます。コードネームは≪スカーレット≫。戦闘は不得意ですが、事務員としては優秀です」


 アルとアドラスはかなり仲が良さそうだ。お互いを信頼していることが伝わってくる。二人の連携プレイで紹介された女性は、一同に向けてぺこりと頭を下げた。

 二十代半ばに見える成人女性だ。ベージュ色の髪を後ろで結んでおり、右目が金色で、左目が水色をしているのが目を引く。物語ではよく見るオッドアイというやつだが、実在の人物としてはかなり珍しい。

 それより、コードネームは≪スカーレット≫? その割には赤っぽい要素が見られないが……と怪訝な視線を向ける蓮たちに対し、


「どもども、昔は金竜ドールの憑依体にされて、ドールが兄さんを言いなりにするための人質になってたピーアちゃんですよ。今は氷竜ナージアに憑依を上書きしてもらって、晴れて自由の身になったんだけどね。ちなみに、やろうと思えばこの左目を通じてナージアに連絡したり、見ているものを届けたり出来るのよ~」


 聞いている蓮たちの方が唖然としてしまう、溌剌とした自己紹介。

 彼女も五年前に比べて大分性格が変わっていた。色々と吹っ切れたというか……金竜ドールに人質として利用されていなければ、元々こうして明るい性格だったのかもしれない。


「ちなみに、驚かないで聞いてくれって言っても無理だと思うんだけど……私のフルネームは、ピーア・フォン・サンスタード(・・・・・・)っていうの」


 彼女の……ピーアの、改めての名乗り。

 その姓の意味を理解し、蓮たち新人冒険者組……のみならず、千草とエリナも驚愕した。いや、ディルクとヨランも、レオパルカもマキトもアルヴィドもだった。


「え、ええええええええええええええええええええええええええええええええ――ッ!?」


 具体的に誰の叫び声が大きかったのかは書かないでおくが、それを責められる者など存在しないだろう……。

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