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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第3章 冒険者編 -坩堝の王都と黄金の戦士-
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第65話 奥の手

「――カーム……ツェル、ノイア!!」


 蓮の叫びに応じるように、彼の足元から漆黒の影が広がっていく。

 レオパルカは、蓮が影縫かげぬいをしようとしていると判断し、靴に黄金を纏うことで対策したつもりになった。これは元々、講習会にてコボルトを宙吊りにしてみせた吸血鬼シラスと戦う場面を想定して備えていたものだ。

 ……だが蓮の狙いは別、あるものを影から取り出すことにあった。


 まだ数えるほどしか見たことはないが、“竜狩りの武器”の性質にも格があることは蓮も既に気づいていた。

 アシュリー・サンドフォードの長剣は“勢いよく振るえば竜の力を断ち切れる”程度のものであり。

 一方、ヴィンセント・E・パルメが振るった長槍は、“ただ触れただけで竜の力を拡散させてしまう”レベルのものだった。やはりというか、その模造品だという他の槍たちの性能は、本物に比べて劣っていたが。


 ――つまり、どういうことかと言えば。


 蓮の足元、その影から天を突くように伸び上がった長物。音は無い。リネンの布に包まれたそれの正体を一目で看破することは、レオパルカにはできなかった。

 彼女にできたのは、ただ躊躇なく攻撃を実行することだけ。迷いを捨てるのは、戦士の心得としては悪くない……はずだった。


 謎の長物が包まれた布を、レオパルカの双剣が斬り裂こうとした瞬間――。


「――なっ!?」


 彼女が手にしていた双剣それぞれから、黄金の光が掻き消える。一瞬で霧散させられた。布を切り裂き、黄金の刃は内部へと届いた。しかし、いまだその中身が露わになった訳ではない。首の皮一枚がつながった状態で、布は今もその正体を隠している。レオパルカは状況を理解できないまま、なすすべなく蓮の反撃を受けることとなった。

 双剣を振り抜き、前方で交差するように伸ばされていた両手。その下を潜り抜ける、蓮の右足。


「ぐばっ――」


 レオパルカは腹に打撃を貰い、吹き飛ばされるように後退する。頭は自然と下を向いていた。唾液を吐き散らしながら、なんとか顔を上げたところに……蓮が踏み込み、右手で握った長物ながものを横薙ぎに激突させた。

 今もすっぽりと布に包まれたままの黒葬こくそうだが、刃の向きが見えなくとも、それが対敵の命を脅かすものではないという確信が蓮にはあった。距離を詰め、柄の部分で殴ったためだ。


「――っ――」


 もはやまともな音を発することもできなかった。右の側頭部に衝撃を受け、意識を失ったレオパルカが頽れる。

 ……真面目な話、この手のダメージは当たりどころによっては命に関わる類のものだろう。敵ではあるが、本当に命を奪いたくないと思うのであれば、すぐに治療をしてやるべきである。

 それが分かっていたからこそ、蓮は足元から広げていた≪カームツェルノイア≫で、倒れたレオパルカを優しく受け止めていた。

 彼女の状態を確認すべく、そのまま歩み寄ろうとしたところで……。


「――レン・ジンメイ君、止まりたまえ」


 ギルドマスター・バルタザールの声に制止される。


「……………………」


 勝ちはしたが、結局この後どうなるのか。黄金の勢力との敵対は続くのか? 探るような目でギルドマスターを見つつ、蓮は数歩後ろに下がった。


「ヨラン君。彼女の治療を頼めるかな」

「は、はい……!」


 ギルドマスターの要請に従い、焦った様子で壁際からヨランが飛び出した。保護者であるディルクも追従する。


(勝ったところで、こいつらの中でオレはどうしようもなく悪者……いや、有能さを見せつけたって意味では、取り入るための最善ではあったのか……?)


 ディルクやヨランに突然攻撃されるとは考えていないが、高台の上に立つギルドマスターの動向には気を配りつつ。

 蓮は最後に残った、スカルセドナとアルヴィドが繰り広げる戦闘へと目を向けた。

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