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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第3章 冒険者編 -坩堝の王都と黄金の戦士-
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第64話 レンVSレオパルカ

 通常、≪クラフトアークス≫同士が衝突し拡散・消滅・吸収等の現象が起こっても、音は立たない。≪クラフトアークス≫から派生した、例えば固有能力にあたる水や炎が衝突した場合ならば、轟音を伴う水蒸気爆発が起きる可能性はあるだろうが。

 しかし、水の固有能力≪クローズドウォーター≫によるコーティングを越え、芯にしているロングソードにまで黄金のチェーンソーが到達した場合は……耳障りな音が発生するのだと。れんは今日、初めて知った。


 ――蓮は半ばから切断されたロングソードを鞘へと戻し、切り札である藍色の短剣を抜いてレオパルカと戦っていた。


 彼らの神である水竜メロアから送られたこの短剣は、恐らくマントやブーツと同じく、世界全体で見ても希少な素材で作られているのだろう。銘すら明かされていないが、きっとこれもメロアの竜体から剥がれ落ちた鱗などから造られたのではないかと思われる。推定ドラゴンウェポンたる藍色の短剣に蓮が水翼を纏わせると、それは重量を変えぬまま、倍以上まで刀身を伸ばしていた。


(羽のように軽い……って訳じゃない。元々の重量はしっかりある。けど……これなら負ける気がしねぇ……!)


 長剣と化した藍色の剣の横薙ぎを受け止め、レオパルカが後退する。彼女が振るうロングソードが纏い、インパクトの際にはチェーンソーのように回転していた黄金の刃は一部が欠損していたため、それを纏わせ直す時間を確保したかったようだ。

 レオパルカによる≪クラフトアークス≫の操作は素早く正確だ。だが、定期的に距離を取って黄金エンチャントを掛け直したがるという癖が分かれば、蓮なら容易にそこを突ける。

 既に何度も黄金のチェーンソーをぶつけても打ち負ける、アズールに輝く刀身に、相対するレオパルカも辟易させられていた。

 黄金の戦士は「そんな反則的な武器を使うなんてズルだ!」などと情けない言葉を吐いたりしないが、


(この……全身ラスボス討伐後みたいな装備で固めやがって、装備頼りの惰弱ザムライ……チビ民族が……っ!!)


 ――内心では激しく毒づいていた。ちょっと東陽人とうようじん差別っぽい内容なため、口にしなかったのは正解だろう。


 ……そして、その戦いを上階に設けられた隠し窓から観察している視線が、いくつもあった。


 それらの視線には気づくことなく、蓮とレオパルカ、そしてスカルセドナとアルヴィドの戦いは続く。一足先にマキトを下したシラスは、片膝を突いた姿勢で残る戦いを代わる代わる見つめていた。……いや、そこそこ以上に蓮の動きを観察している時間が長い。

 蓮に特別興味を惹かれている様子なのは、蓮がシラスの姉であるビルギッタや、純血の吸血鬼マリアンネと行動を共にしていたためだろうか?


 後退したレオパルカに飛び掛かろうとした蓮に対し、彼女は唐突に手にしていた剣を投げた!

 回転しながら急激に迫り来る黄金の輝きに、蓮は藍色の剣を跳ね上げて対処した。黄金の輝きを失いながら、レオパルカのロングソードが宙を舞う。蓮が再び駆け出そうとした時、その視線の向こうではレオパルカが己の後ろ髪を掻き分け、束にして掴んでいた。

 初対面の時、彼女は正面から見るとショートカットに見えるような出で立ちをしていた。しかし、その実態は伸ばした後ろ髪を服の中に格納したロングヘアだった。効率的な戦いを求める≪クラフトアークス≫使いが髪を伸ばす理由と言えば……有事の際、それを消費して武器とするために他ならない。


 引き千切られた金髪が、彼女の右手の中でうねる。黄金に輝くショートソードと形容するのが相応しいだろう。先程まで振るっていたロングソードよりも短いし、チェーンソーのように回転する刃もない。だが、蓮の“心眼”はそれが先程までよりも警戒に値するものだと見抜いていた。

 どうせ蓮の藍色の剣は破壊出来ないのだから、仰々しく回転するギミックは必要ない。長さよりも、強度を高めることに特化した短さがいるあ。千切られたばかりの生気みなぎる髪から生まれたその剣は、藍色の剣でも容易く折ることは出来ないだろう。


 そして、それが二本になろうとしている。

 レオパルカの左手までもが後ろ髪の一部を掴もうとした時点で、蓮はそれを許してはならないと直感した。瞬時に藍色の剣を左手に持ち替え、右手で左腰の鞘に収めた剣を抜き放ち……そのまま投擲する!

 レオパルカは左手を正面に戻し、両手で握った黄金の剣で蓮が投げたものを叩き落とした。それは彼女が先程半ばから切断してやったロングソードだ。やはり、蓮はそれを捨てずにいて正解だった。

 もうレオパルカに腕を後ろ髪へと向かわせる時間はない。蓮がそれを許さない。絶対に距離は取らせない、このまま決め切るという覚悟の元、蓮はレオパルカへと踊りかかった。


「――うおおおおおおおォォッ!!」

「――ちぃぃッ!!」


 蓮の雄叫びと、レオパルカの呻きが重なった。

 両者共に、両手で握る剣が何度となく打ち合わされ。一瞬の鍔迫り合いののちに、突如として蓮側が押された。


 ――否、押されたのではない。


 蓮は剣を左手一本だけで握っていた。わざとだ、勢いが落ちたのは。――右手を離したのだ。

 前方へとつんのめるように飛び出す身体を制動しようと、一歩踏み出した右足に力を入れたレオパルカ。そんな彼女に寄り添うかのように、蓮は身体を反時計回りに回転させ、右肩でレオパルカの左肩にタックルしつつ……右手で彼女の右手首を上から押さえた。黄金の剣を動かせなくしたのだ。

 タックルにより僅かに浮かびかけたレオパルカの右足を狙い、蓮の右足が後ろ向きに閃いた。


「あっ」


 レオパルカの右手と右足、双方に同じベクトルの衝撃が加えられ、彼女の身体は前転する格好となった。鍛えられた戦士の肉体は、そう軽くはない。そのまま一回転して叩きつけられるような事態にはならないが……蓮にとっては、僅かに身体が浮かんだだけで充分すぎる隙だった。自らの横で顔面から地面に向かおうとしたレオパルカ……その顎に、跳ね上げた右手の甲を打ちつける――その、刹那。


「――いッ!?」


 蓮は右手に、まるで煮えたぎる溶岩に触れたかのような激痛を感じ、咄嗟に飛び退っていた。

 ブーツの底をすり減らしながら、眼前のレオパルカから目を離さないようにしたまま、右手を持ち上げて“心眼”で確認する。レオパルカの手首を押さえ、技を掛けていた蓮の右手は……火傷を負っている? 心なしか、レオパルカの全身の肌色も少し焼けた色になっている気がした。褐色肌になった、とまではいかないし、蓮の目でなければ気付かない程度の変化だが……間違いないだろう。


(自分の肌ごとオレを焼いた……? 黄翼を身体の表面に纏うことで、黄翼を持たない相手からの接触を拒める……ってことか)


 原理は大方予想できた。だが、


(――まずい!)


 時間を与え過ぎてしまった。

 レオパルカの左手に、もう一本の黄金の剣が生成される。これで双剣だ。まるで獲物を狙うカマキリのように、あるいはハサミのように左右からほぼ同時に蓮を挟み込もうとしてくる双剣。対処法に悩んでいる時間はない。……蓮は、新たな奥の手を出す決心をした。


「――カーム……ツェル、ノイア!!」


 黄金の双刃に切り裂かれる直前、蓮の叫び声が響き渡った。

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