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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第3章 冒険者編 -坩堝の王都と黄金の戦士-
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第60話 黄金の戦士たち

 レオの目的は、蓮の体内に吸血鬼の血が流れていることを証明することだったのか。一旦は蓮へと攻め掛かるのを取りやめ、数歩退がるレオ。


「……ふーっ……何でいきなりこんなことをしたのか、聞かせてくれるのか?」

「あんたが今、“まずい、バレた”って顔をしてることが答えでしょーが」


 取り繕うような言葉を発した蓮に対し、レオの表情には嘲るような色が混じった。


「逆に訊きたいんだけど、吸血鬼がこの壁の中で自由に活動するためには審査が要るってのに、どうしてその類の力を持つあんたが……それを隠していて許されると思ったわけ?」


 その言葉に、蓮は痛いところを突かれたと表情を歪めた。

 本格的にバレている。いや、最初から疑われていたのか。

 サンスタード帝国本国……もしくは“双槍の騎士”ヴィンセントから送られた鳩により、あの戦いの詳細が知らされているのなら。

 ヴィンセント・E・パルメを退けた後にフェリス・マリアンネと合流したことまでは分からずとも、ビルギッタやアンリ……もしくはその他の強大な存在から異能力を受け取ったと推察することは可能だろう。蓮が一度右手を失い、それを取り戻している理由を考えれば行き着く結論だ。


 だが、アシュリーはこうも言っていたはずだ。蓮たちは「不幸にも、人類の反逆者となったハズレの傭兵を引いてしまった被害者」ということになる……してくれる、と。

 それは恐らく、ドール政府にコネクションを持つ≪ヴァリアー≫が蓮たちを守ってくれる、という意味だろうと蓮は考えていたのだが……。


(――そうだ、よく考えてみりゃ、オレだけは≪ヴァリアー≫に認められてない……だからこんな“審判”されるなんて状況に……!?)


 だが、しかし。

 人類に対して敵対的な行動を取ったつもりも、これから先取るつもりもない。吸血鬼最強の≪クラフトアークス≫を身につけたというだけで、罪に問われる訳ではないはずだ。現に、マリアンネは指名手配されていないのだから。

 蓮がこの黒い力を隠さなくてはならないのは、おおやけになればあらゆる権力者が「その血をよこせ」と群がって来ることが定められている、呪いとも言えるレベルの不死性を持つ血だからだ。


(人類に対して敵対しないことと、この人たちにもオレの力を秘匿することを約束してもらえれば、まだ終わりじゃない。まだこの大陸から逃げ出さなきゃいけないと決まった訳じゃない。……帝国に首輪を着けられるのは避けたいけど……)


 蓮は高速でそこまで思考を巡らせ、冷や汗を垂らしながらもなんとか普段通りの表情を取り戻した。

 半ばから折られたロングソードは捨てずに、今も右手で握っている。レオが次の瞬間には攻撃を再開してくる可能性があるためだ。左手も、いつでも藍色の短剣を引き抜けるように準備していた。そのまま、口を開く。


「……確かに、秘匿していたこと自体は問題かもしれねー。でも、この力は悪人から貰った訳じゃない。旅路の途中で偶然出会った吸血鬼の姫、フェリス・マリアンネ様に貰ったものなんだ。失われたオレの右腕を復活させるために……この強大すぎる力を身に着けたことを、あらゆる人間に秘密にすることを条件に……」


 全てを正直に開示したとは言えない内容だったが、嘘はない。

 セリカ、ヒルデ、ルギナという炎竜一派の者たちと出会ったこと、そしてマリアンネも炎竜グロニクルに裏で協力している人物だということを隠している以外には、本当のことを言ってやればいい。


「――なるほど、言い分は理解した。まぁ、彼……蓮君のことは一旦置いておき、先に残る二人の話もしておこう」


 ギルドマスターであるバルタザール・ベックマンの声が降って来て、蓮とレオの戦いを制した。レオはそれに従う意思を見せるように、数歩後ろへと下がって蓮から距離を取った。先ほどの間合いの詰め方を見るに、十メートル以上空いていても油断はしない方がいいだろうが。


「では、スカルセドナについての報告を私から」


 次に口を開いたのは、警察の幹部だと思われる短い金髪の男、アルヴィド・ファイロンだった。


「うちの手の者に調べさせた結果……恐らく魔道具で偽装しており、その正体はエルフ……そう呼称されている“危険種”であると推察される」

「……っ……」


 その言葉に痛いところを突かれたというように表情を歪めたスカルセドナに、蓮も目を見開いた。


(エルフって……アシュリーさんが昔通っていた帝国の教育機関……≪ランドセル≫を壊滅させたっていう連中の……? 肌はあんまり白くないけど……)


 いや、そもそも≪ランドセル≫を襲撃したエルフなる種族たちは、物語に語られるようなイメージとは違い、黄色人種のような肌色をした好戦的な種族だったという。ならば、蓮よりも濃いめの肌色をしているだけで、スカルセドナがエルフであることを否定する理由にはならないのか。魔道具で隠しているのは……耳の形あたりだろうか? 吸血鬼と同じように、エルフにも耳に特徴があったはずだ。


「現状、全てのエルフは敵対勢力と見なさざるを得ない。≪ランドセル≫襲撃事件の裏についての情報を持っているのか、他のエルフはどこに拠点を持っているのかなど……聞かねばならないことは無数にある。人類にとっては未知である、植物を操るという≪クラフトアークス≫についても解き明かさねばならない」


 滞ることなく、まるで台本を読み上げるようにスカルセドナに関する情報を並べたあと、腰のサーベルをゆっくりと引き抜いたアルヴィド。スカルセドナが素直に拘束されるとは思っていないようだった。


「……私個人としては、人類と敵対する意思は毛頭なかったのだがな。……残念だ、ここで捕らえられる訳にはいかない」


 抵抗させてもらう、とばかりに……スカルセドナは背中から黒樫の剣を抜いた。

 木剣を愛する女騎士。だが、それは戦場を舐めている訳ではない。彼女が植物由来の武器に拘るのは、恐らくエルフ特有の能力の真価を発揮するために、植物が必要不可欠なためなのだ……。


「――じゃあ最後に、俺からシラスの調査結果を」


 疲れたような声色で、大きなゴーグルを額に押し上げている青年……マキト・コーレシュタイン・カムナギが言った。


「こいつは相当ヤバいぜ。二ヶ月後に迫った……魔国連合の魔王ナインテイルを迎え、うちの女王様と共に両国の友好と発展について語るDB(ディービー)サミット……それを襲撃する計画を立てている吸血鬼どもがいやがる。……このシラスって野郎も、その集団に勧誘されていることを確認したぜ」

「なっ……」

「……………………!?」


 マキトの報告に、驚愕の声を漏らしたのは蓮だけではなかった。

 なんだ、その特級の情報は。

 その場の誰もが自らの耳を疑った。


 アラロマフ・ドールを統べる若き女王、エヴェリーナ・イスラ・ドール。

 そして、ベルナティエル魔国連合を統べる狐耳の女王、ナインテイル。


 ――その両者が出席する一大イベントを、襲撃するだと……!?


 前代未聞のテロ計画だ。

 もしその悪行にシラスが関与しているというなら、とんでもないことだ。

 仮に彼が関与していなかったとしても、襲撃を計画している吸血鬼を調べ上げ、対処しなければならない。


「……違う、俺はそんなものに関わりはない。関わりたくもない! 一部の馬鹿が勝手にほざいているだけだ……!」


 強い口調で否定したシラスだったが、状況が既にそれを許さない。

 蓮にも分かることだった。一部の吸血鬼が本当にテロを計画しているというのなら、それに参加しなかったからという理由でその他の吸血鬼が見逃されるとは、到底思えない。


「だが、現にお前は同胞から持ち掛けられた計画に乗らなかったというだけで、ドールの司法にそれを通報しなかった。テロ計画の存在を知っておきながら、それを秘匿するという協力をしたんだ」

「……………………」

「……分かるぜ? そりゃ、同胞を売るのは精神的にキツいよな。だけどな、自分と家族を守るためには、バカな同族は切り捨てなきゃなんねえ時もあるんだよ。お前はそれを怠った。だから今、こうして断罪されるんだ」


 高台から飛び降り、マキトは両腰それぞれに帯びた剣へと手を伸ばした。

 どうやら、彼がシラスに対処するつもりらしい。未だ底の見えない、変幻自在な黒い≪クラフトアークス≫を操るシラスに対処できるのは……なるほど確かに、この場で最も強そうな気配を放つマキトが適任だろう。


 離れた場所で、蓮とレオ、そしてスカルセドナとアルヴィドがそれぞれ向かい合う。


「えー、おれもあのマキトってやつと戦いてぇんだけど……」

「お、大人しくしときなさいって!」


 遠く、壁際ではクスタバルが愚痴り、そんな彼の腕を掴んでニーナゼルが動揺していた。仲間がやらかして、せっかく問題なしとされた自分たちまで悪者にされてしまっては困る。


 彼らに加え、言葉をなくしたディルクとヨランが見守る中。そしてギルドマスター・バルタザールが見下ろす中……三者三様の激闘が、幕を開ける!

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