表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第3章 冒険者編 -坩堝の王都と黄金の戦士-
84/96

第55話 謎の遺剣

「向こうにずっと行ったところ……あの突き当りを右に曲がると、コボルトの洞窟が見えてくる。まぁ、まずはこの周辺を軽く見て回って安全を確保してから、集合写真を撮るぞ。洞窟に向かうのはそれから……狩りに出てる兵隊コボルトに出くわす可能性もゼロじゃないからな、一応警戒はしておいてくれよ?」


 コボルトの洞窟からほど近いという地点で馬車を停めさせると、ディルクは一同にそう要請した。いや、御者や護衛……そしてヨラン少年は含まれていないため、一同ではない。新人冒険者組に対してだ。


 蓮は目をしばたたかせながら、「写真?」と疑問を発した。

 ご存じの通り、この世界においてカメラは高級品である。蓮は今回の旅が始まる際にアンリのカメラを見たのを除けば、今までエドガーの家以外でカメラを目にしたことはなかった。ディルクの言葉に漏らした疑問には「どうしてこんなタイミングで写真撮影を?」の他に、「そんな高価な品、よく持ってますね?」というものも含まれていた。


「あぁ……これは俺個人のじゃなく、ギルドからの借り物さ。今期の新人冒険者が、冒険者として活動する前はちゃんと五体満足だったぞ、ってことを記録をしておくんだよ」

「……こ、こわっ……」


 五体満足じゃなくなることもあるのか、と犬系ケモミミ獣人のニーナゼルが恐れおののいた。

 もっとも、そうなるのはいつか危険な任務に赴いた際であり、今日この日に大怪我する可能性が高い、という意味ではないのだろうが。それより、眼帯の女騎士スカルセドナは……五体満足に含めてもいいのだろうか? いや、あの眼帯を取れば、無傷の目が出て来るだけの可能性もまだゼロではないか。


「んじゃさっさと戦いてぇし、おれがパパっと見て来てやるぜ!」


 狸系ケモミミ獣人のクスタバルが元気よく宣言し、膝に触れる程度の背丈の草を踏みつけるように、さっさと歩きだしてしまった。ディルクがそれを制止しないので、蓮もシラスにちらりと視線を向けてから、クスタバルとは違う方向へと歩き出す。今こそ、シラスと二人きりで話せるタイミングかもしれないと考えたのだ。

 シラスもそれを察したようで、蓮に続いて歩き出したのだが……彼らにとっては余計な人物が更に追従して来ていた。


 帝国人の外見的特徴を持つ、レオと名乗った女だ。


(…………)

(いや、でも付いて来ないでくれとも言えねーしな……)


 面倒だな、と考えるも沈黙を保つシラスと、直接的な話は諦めるしかないと考える蓮。

 先頭となった蓮がロングソードを抜き、草むらを掻き分けながら背後のシラスに向けて口を開く。


「……シラス君。多分、君がオレに興味を持ったのは……オレから知り合いに似た気配を感じたから……じゃないかと思ってるんだけど……合ってるかな?」

「……ああ。いや、名前は言わなくていい。……最近、共に行動していたのか?」


 男性陣二人は後ろを付いて来たレオを未来の敵だとまで断定している訳ではないが、帝国人が敵になりやすい人種であることは確かだ。シラスが「名前は言わなくていい」と言ったのも、レオに情報を与え過ぎないためだろう。かつて吸血鬼の姫扱いだったというフェリス・マリアンネの名前は、あまりにも重い。

 蓮は内心で深く頷き、「あぁ、メロアラントからロストアンゼルスに来るまでの旅路で世話になってさ……」と答えた。


「そうか。元気そうだったのなら、それでいい」


 そう言いながら蓮の後ろを歩くシラスは、おおよそ武器と言えるものを所持しているようには見えない。今は日差しを避けるために、黒の日傘を差している。それ故に、武器で草をかき分けているのは蓮一人だけだ。レオもロングソードを帯剣しているが、今は抜くつもりがないようだ。もっとも、特に「草を低い位置で切り揃えろ」とディルクより指示された訳ではないため、蓮がただ勝手に草を斬りながら歩いているだけなのだが。


(吸血鬼たちは、よっぽどマリアンネさんが大切なんだな)


 それが愛ゆえなのか、彼女の血に宿る力目当てなのか計りかねるため、蓮はシラスの態度に対しどういう感情を抱くべきなのかはよく分からなかった。


(はーっ、抽象的な会話ばっかり。こりゃ既にあたしのことを相当警戒してるわね……やり辛……!)


 周囲にそれとなく視線を向けつつ、当然男性陣の会話を聴いていたレオだが、分かったのは帝国人の特徴が強い自分が最初から強く警戒されていること……だけでもなかった。


(吸血鬼のシラスが、レン・ジンメイの中に知り合いの気配を感じた……? どういうことかしら。レンがロスに来てから何日も経って、当然風呂も洗濯も済ませてて……それでも察せられる知り合いの気配って、つまり……≪クラフトアークス≫……ってこと?)


 一瞬、鋭さを増した視線を蓮の背中に向けてしまい、すぐに消し去るよう努力したレオ。彼女の抱いた疑いが事実であれば、確かに蓮はロストアンゼルスで大手を振って歩けない性質をしている可能性がある。


(やはりレン、シラス共に要警戒対象ね……向こうも気になるけど……)


 レオは付いていくことを選べなかった者たちにも気になることがあるようだ。

 どうやら、今回集められた新人冒険者の面々には何かがあるらしい……。



「――お前らも見てくれよっ、おれが見つけてきたお宝をよぉ~!」


 まるで珍しいカブトムシでも捕まえたかのようなテンションで、戻ってきた蓮たちに対してクスタバルがえっへんと胸を張った。


「そんなイキり散らせるような成果でもないでしょ……」


 わざわざ言わなくてもいいような、棘のある呟きをしたニーナゼルに、(ん、この獣人二人は元から知り合いとかなのか)と蓮は考えた。第一印象では臆病そうだと感じたニーナゼルが、クスタバルに対しては自然な様子で毒づいていたため、そんな印象を受けたのだ。


「けっ……お前はほんと、つまんねぇ女になったよなぁ」

「ふんっ……」


 どうやら元からの知り合いで確定のようだ。ここまでの段階では、まだ仲がいいとも悪いとも決めつけられないような雰囲気ではある。俗に言う、自称腐れ縁というやつなのかもしれない。


 お宝と言った割には、クスタバルの足元に無造作に放り投げられているように見えるそれは……どうやら長らく放置された刀剣のようだった。

 鞘に納められてはいるが、かなり錆びているのだと思われる……嫌な臭いが蓮の鼻を突いた。恐らく、一度抜いてみたばかりなのだろう。ずっと鞘に納めたままであれば、もう少しマシだったはずだ。


「これ、抜いてみたら古い血がベットリ付いてたんだぜ。こういうの、物語を感じていいよなぁ。伝説の武器っぽいじゃん? きししっ」

(……言うほど伝説の武器っぽいか……? よく分かんないな。台座とかに真っすぐに突き立ってる、新品みたいに輝く剣とかの方がそれっぽいような……)


 蓮はそれには同意出来ぬまま、地面に置かれた鞘付きの剣を観察する。これがゲームであれば、この手の古びた武器を鑑定してみた場合、思わぬお宝だと判明する展開なんかもあるのだろうが……。

 特に“心眼”を使う必要性も感じない。大きく湾曲した刃を持つだけの曲刀だ。


(でもなんか、最近似たようなものを見た、ような……)


 蓮がそれに思い至るより前に……腕を組んだシラスが、呆れたように口を開く。

 寡黙な人物という印象だが、他人が勘違いしているのを見れば訂正したくもなるのか。


「……それはアニマのものだろう。特に珍しい素材でもない筈だ」


 シラスのぼそっとした言葉に、ディルクがぽんと手を打った。


「あぁ、なるほど……ここは≪氷炎戦争≫の最終局面で、アニマどもが潜伏していたあたりだからな。そいつらが捨てて行った武器が落ちててもおかしくはないな」

(……あ、アニマの双剣術の片割れか! ビルギッタさんが緋翼ひよくで再現したのを見たんだ)


 一、大きく湾曲した、威力特化の右の曲刀。

 二、対人戦を想定した、相手のガードをすり抜けて急所を狙うための左の曲剣。

 これらを織り交ぜて振るうのが、アニマの戦士におけるオーソドックスなスタイルだったはずだ。また、彼らと共に生活していた、吸血鬼の一部にも扱う者がいるのだったか……と、蓮は気持ちよく思い出すことが出来た。


「それにしても、草木が繁茂した中からよく見つけたものだ。君には何か、金属を探知する能力でもあるのだろうか?」

「いんや? ただ鼻が利くだけさぁ」


 スカルセドナの問いに、あっけらかんとした様子で答えたクスタバル。


「これって、発見者のおれが貰ってもいい感じ?」

「んん、まぁ……ものによっては国に報告する必要があるだろうが……アニマが使っていた武器の資料なんて、今じゃ特に珍しくもないしな。馬車に積んでおけばいいだろう。まだ少し臭うから、積むのは帰る時にしてもらいたいが……」


 珍しくもない。それはそうだろう。五年前の≪氷炎戦争≫にて、エイリアにはアニマたちの死体が大量に生まれた。人間勢力は大敵アニマの戦闘能力の資料として、戦場に残された武器群を今も保管している。


「あいよ~」


 クスタバルは気の抜けた返事と共に、馬車の脇の草むらへと曲刀を放った。投げつけたという訳ではない勢いだったが、扱いが雑である。コボルトの洞窟から帰ってきた際に曲刀が消えていても、あまり気にしなさそうだと感じてしまう程度には。


(なんか捉えどころのないやつだな、この黒タヌキ……)


 蓮が怪訝な視線を向けていると、ディルクが手をパンパンと叩いた。


「よし、じゃあ冒険者の皆はそこに並んでくれ。写真を撮るぞ! 一枚写真を撮る度に千スタルくらい掛かってるらしいからな、あんまふざけて映ろうとするなよ」


 釘を刺された形になり、うげ……とクスタバルが声を上げた。蓮も、まさかそこまで一枚の写真が高価だとは思っていなかったため、内心驚いていた。ふざけて映るつもりはなかったが。


 その後、いざ写真を撮る段階になってスカルセドナがぶるぶると震え出し、理由を尋ねられると「……カメラなるものに写されると、寿命が縮まると教わったのだ」と答える珍事件があったが、些細なことだろう。


「魂が抜かれると信じてるおばあちゃんかっ!」と、レオが思わず空中にチョップするようなツッコミを抑えられていなかったが。

 それを見た蓮は、(やっぱり帝国人ってオーバーリアクションというか、身振り手振りをしながら話すのがマジで癖なんだな……)と思うのだった。


 何でもない一幕でキャラの性格や世界観を描写している……ついでに、そこそこの伏線を撒いています。次回、お待ちかねの戦闘・無双シーンがある予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ