第46話 冒険者ギルド編が始まるのかよ?
最終的には本作のページを削除(もしくは誘導リンクを残すか)して前作に統合する計画を立てていますが、とりあえずは当初の予定通り、2月になったので第3章を週一回くらいのペースで更新していけたらと思います。
まーた馬鹿みたいに新キャラが沢山出ますよ(苦笑)。
名前だけなら前作のうちから登場していたキャラなんかもいますが。
(ああ、ちっくしょう。イライラさせやがるぜ……)
昨日、エリナの姉であるラナ・リヴィングストン・トレヴァスが現当主の妻となっている、トレヴァス家に世話になることが決まった蓮たち三人。そこまでは非常に順調だったのだが……。
(なんなんだよ、あのリバイアとかいう女局長は……!)
一時間と少し前、王都ロストアンゼルスの準貴族街に居を構える新生≪ヴァリアー≫にて、蓮は入隊を拒否されてしまった。他の二人……千草とエリナには入隊許可が下りたにも関わらず、だ。
「――なんでオレだけが落とされるんですか!? 二人とオレで何が……」
まさか、性別で採用を決めてるんじゃないだろうな。そんな視線で局長リバイアに食って掛かった蓮だが、返答は予想外のものだった。
「この二人は家柄的にも申し分ねェ、うちに加えてやるだけの価値があると分かるんだが、ジンメイはなァ……。水の≪クラフトアークス≫にそこそこ精通してるっつっても、エリナ・リヴィングストンには大きく劣るらしいじゃねェか? それなりに戦えるってだけの人材なんて、この王都にゃいくらでもいるからなァ……」
三人は王都に到着しさえすれば、≪ヴァリアー≫の人たちからは無条件に歓迎されるものだと思っていた。まさか入隊審査があるとは……そして、蓮が落とされることになろうとは。
蓮は苛立ちのあまり、他の二人には無い力……吸血鬼由来の黒い≪クラフトアークス≫を見せつけてやりたい衝動に襲われたが、なんとか堪えた。
(いや……まさか、知ってるのか? 昨日、どこかのタイミングで……アシュリーさんたちがこの人と接触してたとしたら、既にオレたちの事情を……)
――フェリス・マリアンネとの約束。
純血の吸血鬼が持つ最高峰の≪カームツェルノイア≫を身に着けたことを、秘匿し続けなければならないこと。
神明蓮という人間が信頼できる人物なのかどうか、試されている段階の可能性がある。そう考えた連は、じっと耐えた。
(きっとオレを試してるだけなんだよな? 本当は素晴らしい人格者なんだよな?)
……だが、耐え忍んだ先に「よく我慢したな! 今のは君たちを試しただけだ、ようこそメロアラントの子供たち!」といったイベントは存在しなかった。蓮はそのまま≪ヴァリアー≫から叩き出されそうになった。
「あなた方≪ヴァリアー≫の誰かと模擬戦をしたっていい! オレの実力を証明する機会をくれたっていいじゃないですか……!」
玄関口でそう喚いた結果、最終的に引き出せた譲歩が……、
――冒険者ギルドにて、Bランクに到達すること。
「今のうちは昔とは違って、少数精鋭でやってるからな。その辺の山賊や“危険種”くらい、一人で余裕を持って討伐できるくらいじゃねェと話になんねェんだわ」
局長リバイアのその言葉は、実際のところ嘘ではないのだろう。
五年前、エイリアの崩壊によって≪ヴァリアー≫は基地を失い、今はこの王都の準貴族街にて、とある貴族の屋敷を間借りすることでなんとか存続している。隊員の全員がこの屋敷に住んでいる訳でもなく、内部の雰囲気は閑散としていると言ってもいい。
(Bランク、Bランクか……確かに強者の指標にはなるか。いや、オレなら余裕で行けるあたりだろ……?)
Sランク傭兵として認められていたアシュリーとビルギッタの実力を思い返してみる。確かにあの二人の経験からくる行動選択と技術は凄まじかったが、「人間をやめている」という領域にまで到達していたかと言えば……そこまででもなかった気もする。少なくとも、魔道具や≪クラフトアークス≫の使用を縛っていれば、Sランクに認定されることはなかったのではないかと感じられる程度には。
それは自分も同じことではあるが、少なくとも水竜メロアに与えられた水の≪クラフトアークス≫に関しては大手を振って使える訳で、現段階でもAランクあたりの評価が下されてもおかしくはないのではないか……と蓮は考えた。もっとも、傭兵ギルドと冒険者ギルドでランク評価の方法が同じとは限らないだろうが。細かい依頼の積み重ねや周囲からの評判、在籍期間なんかでも評価が上がっていく可能性は高いだろう。
(飛び級みたいなシステムが無ければ、かなりの時間を食わされる可能性はあるけど……それしかないんなら……)
有り体に言えば、蓮は調子に乗っていた。
「んじゃあ……今の言葉、忘れないでください! オレ、即行でBランクまで駆け上がりますんで! ちゃんと≪ヴァリアー≫にオレの席を取っといてくださいね!!」
「おー……別に席がいっぱいだから入れねェワケじゃねェがな。期待しないで待っててやるから、せいぜい頑張りな」
蓮に対して興味が無さそうな顔で彼を外へと追い出すと、女局長はドアをバタンと閉めてしまった。閉まる寸前に聴こえた、千草の「せんぱい頑張って、また後で……っ」という声だけが救いだった。
という経緯で、一度トレヴァスの屋敷に戻って準備を整えた後、蓮はその日のうちに冒険者ギルドに向かって、冒険者登録を済ませるつもりでいた。
(兄貴の手紙に書いてあったことと全然違うじゃねーか。可愛くて純粋な女の子じゃなかったのかよ。いや、あの手紙の頃から五年も経ってるから、人は変わるってことなのかもしれないけどさ……)
確かに美人ではあったが、あの破滅的な喋り方はあり得ないだろうと蓮は憤る。客人を迎えるべき態度でなかったのは確かだ。
それに、五年前に比べれば年を重ねているとはいえ……あの局長リバイアは、せいぜい蓮の一つか二つ上、旧暦では成人しているかいないかといった年頃に見えた。
奥の机で作業していた、赤い眼鏡をかけた象牙色の髪の成人男性。彼がかの有名な≪ヴァリアー≫副局長アドラスなのであれば……本来ならそちらが新しい局長に就任しているべきではないのか?
考えても答えが出ないことを考え続けるより、さっさと答えを聞ける立場になった方が手っ取り早いだろう。蓮はストレスを抱えながらも、一時間以上の早歩きの間に少しずつ落ち着きを取り戻していた。
(まぁ、考えてみれば……このあたりで一回、冒険者生活を経験しておくのも悪くはないよな。今までの厳しい修行の成果を遺憾なく発揮する時っていうか、ニュービーの冒険者たちの中で無双する時が来たっていうか。魔力測定の水晶とかあんのかな。魔力が高すぎて割れたりして……くくっ)
エドガーに借りて読んだ小説たちのお約束を思い出し、内心で笑う蓮。
怒りの名残もあってか、緊張はしていない。精神的には、新しい物事に挑戦するのには相応しい状態かもしれない。
そうして蓮は、冒険者ギルドのロストアンゼルス支部へと足を踏み入れるのだった……。
(ああ、ちっくしょう。イライラさせやがるぜ……)
という蓮の思考から始まりましたが、これは前作第一章冒頭の主人公による、
「ああ、ったく。イライラする……」のセルフオマージュですね。




