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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第3章 冒険者編 -坩堝の王都と黄金の戦士-
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第45話 とある集団の引っ越し

 まだ連続投稿は出来ない段階なのですが、生存報告がてら導入だけ更新しておきます。今年もよろしくお願いします!


 八月四日の早朝。


 道を行きかう商人たちはせわしないが、まだ多くの人々は朝食の準備をしている時間帯のこと。


 王都ロストアンゼルスの東側の大通り、ロック・ストリートを進む一つの荷車がある。

 荷台には山と積まれた荷物に加え、そこから更に一段上がって最大四人もの成人が座ることを想定した台座があり……そこには二人が座っている。


 マルクという名の初老に見える男性と、その隣に寄り添うように座っている、フローラという女性だ。

 左手の脇に杖が立てかけられていることから、マルクという男性は足を悪くしていることが察せられる。

 フローラの方は左手でマルクの身体を支えつつ、興味津々といった様子で街並みを見渡している。王都の街並みを目にするのは初めてなのだろうか。その暗めの緑色をした髪はウェーブ掛かっており、非常に長い。彼女が座っている台座に触れそうなほどだ。


 特に原動機の類が積まれている訳でもないその荷車を動かすのに、ただの人間一人では足りないだろう。


 荷車から伸びた梶棒(かじぼう)を外から左手で軽く引いているのがロッテという少女。くすんだ金髪を後ろで無造作に纏めている。もっとも、彼女は余り力に秀でているとは言えないため、気持ちだけの手伝いだ。


 梶棒の中から支木(しもく)を支えるのは、フードを目深に被って顔を隠した二人組だった。


「本当にすまないね……私たちまで乗せてもらっちゃって。フォーゲルバイトさんに、コーレシュタインくん……疲れているようなら、そろそろ一旦休憩にしないかい?」


 二十四時間営業の飲食店など存在しないため、この早朝ではカフェで一息つく、とまではいかないのだが。

 申し訳なさそうに声を掛けたマルク。実際、彼の足では本代(モトシロ)公爵領の屋敷から本代家の旧邸まで移動するのは大変だろう。


 彼の身の回りの世話をしている(というよりは持ちつ持たれつなのだが)少女たちも、彼女らだけで大荷物を伴う引っ越しを完遂することは困難を極めた。どの道誰かしらに協力を仰ぐことになっていただろう。

 そこに「自分たちもその日に引っ越しの日程を合わせられますので」と名乗りを上げてくれた、心優しい二人組。


「あー……長いですから、あたしのことはルカでいいですよ。普段から鍛えてるんで、これくらい何てことないです!」


 フォーゲルバイトと呼ばれた少女……改めルカはそう明るく返したが、もう一人の少年は半目になって彼女をねめつけた。


「お……っまえなぁ。……はぁ、マルクさん。こいつこんなこと言ってますけど、殆ど力入れてないんスよ? もう全部俺。あ、俺も長いんで是非、マキトと呼んでいただければ……」


 コーレシュタイン改めマキトの言う通り、荷車はほぼ彼一人の力で動いていた。その速度は普段歩く際よりも少し遅いくらいまでしか落ちておらず……時速二キロメートルほどだろうか。とんでもない怪力の持ち主だと言える。

 人間は瞬間的には二馬力を超える瞬発力を見せることも現実的に可能だが、継続的な仕事量では及ぶべくもない。

 実際、この状態のまま走り、更に移動速度を上げることは彼にも難しいが……既に三時間以上こうして荷車を引き続けているのだから、人間としては規格外の域に達している。背格好からはそこまで大男には見えないが、フードとマントで隠されたその肉体は、どれほど鍛え上げられているのだろうか。


 まるで夜逃げをするような時間帯に出発していた彼らではあるが、別に犯罪者という訳でもなければ、やましいことをしている訳でもない。ただ、あまり身分を大っぴらにひけらかさない方がいい面々であることは確かだった。


「そうなのかい? マキトくんは本当に頼もしいね」


 マルクは特にルカを責めるようなことは言わないが、ルカは勝手に危機感を覚えたのか、


「いやでも戦闘になればあたしの方が強いんで! もし戦闘に巻き込まれてもあたしが完璧に守り抜きますんで!」


 と捲し立てた。


「そもそも、巻き込まれるような状況にならないように配慮するけどな、俺なら」

「んっとに、ああ言えばこう言う……」


 マキトとルカはライバル関係にあたるのか、己の有能さを誇示し合うのが日課になっているようにも見えた。

 マルクは年長者として、若者二人の様子を微笑ましく眺めながら口を開く。


「さすがに屋敷の中は埃まみれだろうけど、そもそも屋敷に入れないなんてことにならないように、外だけは今でも定期的に手入れがされているらしいんだ。到着したら、庭でティータイムにしようか。屋根もちゃんとあったはずだから、日差しの心配もないはずだよ」

「ロッテの紅茶〜、おいしいからすき〜……」


 マルクの言葉に素直に喜びを露わにしたのはフローラだった。年齢的には成人女性なのだが、その間延びした話し方からは頼りないというか、ぽわぽわした印象を受ける。好意的に言い換えれば、人を安心させる要素ではあるかもしれない。


「あ、ありがとフローラ。……そういうわけで、フローラのお墨付きのあたしが入れる紅茶をモチベにして、残り四十分くらいもお願いするわよ!」


 外側から微力を注ぎながらのロッテの台詞だ。ガワだけ聴いているとツンデレキャラの声色な気がするが、内容はまともなので話していると脳が混乱するかもしれない。「あんたのためなんだからねっ!」とか言いそう。


「やったー! 茶菓子も所望しますー!」

「現金なやつ……」


 急に張り切りながら力を込めたルカに呆れつつ、マキトは片手を休めて額の汗を拭うのだった。


 ……そして、彼らが本代家の旧邸に到着し、休憩の後に内部の清掃に取り掛かり始めた正午の頃。

 向かいの屋敷であるトレヴァス家から、この街における新参者……神明蓮(じんめい れん)が元気よく、冒険者ギルドに向けて出発する。


 いや、それは元気よく、と言うよりかは……肩を怒らせて、かもしれなかった……。

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