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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第1章 出立編 -水竜が守護する地-
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第6話 ≪クローズドウォーター≫、それは祝福


『――やぁ、よく来たね、我が子供たちよ。今日は我の気まぐれに付き合ってもらってすまないね』


『おまえたちの主が声を掛けているというに。返事もせずにダリをじろじろとねめつけるとは。教育がなっていないであるな』


 二体の神の言葉を無視し続ける形になってしまっていることに、最初に気付いたのはエリナだった。


「――大変失礼いたしました」


 エリナが弾かれたように跪くと、蓮たちも慌ててそれに倣った。


 それぞれの立ち位置(跪き位置)は、左から順にエドガー、敦也(あつや)千草(ちぐさ)美涼(みすず)(れん)、エリナとなっていた。いつも必ずこの順番を意識している、といったことはない。それでも何人かによって敦也と千草、蓮とエリナがそれぞれ隣り合うように配慮されている可能性はあるが。


(悪役令嬢が出てくる乙女ゲー作品の王子じゃあるまいし、自分の婚約者を最も丁重に扱うのは当たり前だよな)


 とは、うんうんと頷きながらの、エドガーの思考だ。彼はいつも幼馴染組の間に軋轢が生じないよう、バランスを見極めてひっそりと調停している。正直、かなりデキる。もっとモテていいくらいだ。仮に養子でなければ引く手あまただっただろう。どうか、いい結婚相手が見つからんことを。


「メロア様。……そしてそちらの……、」


 エリナはそこで言葉を止めていた。その褐色肌の少女もまた、ただならぬ実力と身分を持つ高貴な存在であると。


 いかにそう確信しているとは言え、それを軽々しく表明していいものなのか分からず。エリナは判断を仰ぐようにメロアを見た。


『ああ、彼女は……いや。悪いが、彼女を紹介する前に済ませておかなければならないことがある』


 水竜メロアは寝台に左肘をついて横向きになった格好のまま、自分の前で丸くなっている≪ミル≫……カラテアを撫でていた右手を止めると。


 その手をひょいと持ち上げて……美涼のことを指差したのか。そのままちょいちょいと手招きをした。


『美涼、立ち上がって一歩前に』


「は、はい……?」


 何が起こるのかが分からず疑問符を浮かべながらも、美涼は即座に従った。


『ダリ、力を貸してくれ』『――ふん』


 メロアと、ダリと呼ばれた少女の声。


 美涼が立ち上がって一歩前に出たところで、「蓮、補助を」メロアの声。そして、美涼の身体が仰け反り、後ろに倒れかかる。


「――いきなりですかっ!」


 その時には既に蓮が叫びながら飛び出し、倒れかかった美涼を抱きとめていた。


「――はっ! ……ええっ? ちょっ、蓮……?」


 自らが倒れかけ、蓮に受け止められている状況を今自覚したというように、素っ頓狂な声を上げた美涼。


 その頬は僅かに紅潮していたが……周囲の視線を認識した瞬間、自らに宿る自制心の全てを動員して、即座に平静を取り繕った。


「あぁ。もう離すよ」


 もう大丈夫そうだと判断すると、蓮は美涼を離して下がり、再び跪いた。


「あ、ありがとう、蓮。でも、これは……一体何が……?」


 美涼は何が起こったのか分からず、おろおろしている。自分は何か悪いことをしてしまったのだろうか。それによって何らかの罰を受けたのだろうか?


 実際、美涼以外の面々も混乱している。蓮だけは、既に知っていたようにも見えるが……。


(さっき、蓮が出てくるのが遅かったのはこれに関係しているのか?)


 と、敦也は考えていた。


『もう終わったよ、これで安心だ。……美涼、最初に言っておくが、君は悪くない』


「えっと、あたし、何がなんだか……?」


 混乱している美涼を、とりあえず安心させるように声を掛けたメロア。


『単刀直入に言おう。美涼は二ヶ月間、見合いの為にここを留守にしていただろう。その間に、幻術を掛けられていた』


「「なっ!?」」「えーっ!!」


 子供たちの驚愕の声が響く。美涼もまた、声も出ない程に驚いていた。


「え、え、え。……じゃあ。もしかしてあたし、無意識のうちに皆やメロア様の不利益になるようなことをっ!?」


『落ち着きたまえ。君に掛けられていた幻術は、君を操って従わせるものではない。……その類の術を掛けられていれば、幼馴染であれば違和感を覚えるほどには、性格に変化が出ていただろう』


 そのメロアの説明を受けて、美涼はようやくほっとしたように胸を撫でおろし、いそいそと膝をついた。


『≪クローズドウォーター≫の中で、美涼に何かが付けられていることが分かったのでね。蓮を捕まえて事情を説明し、協力してもらったのだ』


 メロアの言葉もあり、幼馴染組の視線が蓮に集中する。敦也はやはり、と確信を得た。蓮は照れくさそうに後ろ頭を掻いた。水竜が創造する不思議な水は、≪クローズドウォーター≫というらしい。


『簡単に言えば……美涼を通して、術者はメロアラントの動向を観察しようとしていたようだね』


「えっ……じゃあ、オレたちが神殿に入る前に解呪した方が良かったんじゃないですか?」


 とは蓮が口にした疑問だ。それは尤もだろう。この場に美涼を招き入れなければ、術者にダリの存在を悟らせないことも出来たのではないか?


『それは問題ないさ。術者にはダリの存在を認識できないように……我とダリでそうした。それに、ダリの力を借りて術者に攻撃できたのでな。今頃は激痛に苛まれ、後遺症にも苦しむことになるだろう』


 龍による報復を受けたその術者とやらは、それは恐ろしい目に遭っているのだろう。蓮はうへぇという顔をした。


『美涼が見合いをしたのはオールブライト領だったね』


「……や、俺は何も知りませんよ?」


『君を疑ってはいないさ、エドガー』


 緊張した面持ちで口を開いたエドガーが、安堵の息を吐く。


『美涼、君が見合いをした相手は何人だったか?』


「……二十三人ですね」


 多いな、と蓮は思った。いや、二ヶ月もあればおかしいペースではないのか? いや、やっぱり多い。蛍光院(けいこういん)に生まれなくてよかった。


『……それはご苦労だった。それだけの人数に、その周囲にいた全員が容疑者となれば……術者の特定は難しそうだね』


 では話を戻そうか、とメロアは佇まいを整える。起き上がって、寝台の上に正座をする形となった。


『今日この集まりは、我の気まぐれによって突発的に決まったものだが……』


 そもそもメロアが気だるげだったのは、この集まりの前に、帝国の使節団の相手をしていたからだろう。


『丁度、こちらの……我が友人であるダリが来ているところに、蓮が悪漢に襲われる事件まで重なった。君たちは一週間後に旅立つ予定な訳だし、積もった話をしておくにはいい機会かと思ってね』


「なるほど」


 幼馴染組を代表して、エリナが相槌を打つ。メロア正教における次代のハイプリースティスとも目される彼女こそが、この場では子供たちを束ねるに相応しいだろう。


『ダリについてだが……本名ではないし、それを教えることもできない。皆も感じているだろう通り、我と同格以上の龍なのだが……少なくとも今日は、彼女の素性……属性なども詮索することはよして欲しい』


 はい、分かりました、と口々に答える子供たち。


『彼女は怒らせると怖いからね。我も正直、勝てるかどうかは怪しいから、丁重に扱うように』


 少しだけいたずらっぽく付け加えると、子供たちは震えあがった。それに満足そうに頷いたメロア。


『べつに、ダリはその子らに相手をしてもらうために尋ねてきた訳ではないぞ……』


 ダリと呼ばれた少女は、拗ねたように小声でぼそぼそと言った。


 高めの身長以外は子供らしい外見に見える龍だが、「メロアと同格以上」というのが本当であれば、もしかするとメロアよりもずっと年上な可能性もある。


 子供たちは「絶対にダリさんに失礼な態度を取らないようにしよう」と心に誓った。


『いや~、話したいことが沢山溜まっていてね。まずは……そうだね、蓮を襲った悪漢について話そうか』


 メロアがそう言うと、床に溜まっていた≪クローズドウォーター≫が集まり、宙に浮かんだ。


 それはまるで水のキャンバスのように広がって、メロアと子供たちの間に屹立した。


 勿論透明感があるため、向こうにいるメロアの姿は見えたままだ。


 水のキャンバスに切れ込みが入ったかと思えば……どうやらそれは、人の姿を描き出しているようだ。立派な体格の、成人男性。


(あ、オレが戦った(いしゆみ)の男だ……メロア様、めっちゃ便利な力の使い方してる……っ!)


 驚く蓮の前で、見覚えのある男と、それに比べればあまり記憶に残っていない男の二人が描かれた。直接戦った相手に限り、脳内に強く焼き付いている。もう一人の方は、千草が気絶させた男だろう。


『まぁ、こうしてわざわざ描いてみせるほどの重要人物では無かったのだけどね、この二人は。どちらも帝国から送られてきた工作員……分かりやすく言うと、スパイだったようだ。それも、雑兵だね』


「スパイと言うと、かなり優秀そうな……エリートのイメージがありますが」


 エリナがそう言うと、メロアは『確かにそうかも』と頷いた。


『どちらも戦闘能力は左程でもないが、スパイとしての教育は受けていたようだ。どちらかと言えば裏方向き……この国に住み着いて、国内の情報を本国に届ける役割を担っていたのだろう』


「それがなぜ、今日になって蓮を捕縛する役に使われたんですか?」とはエドガーの問いだ。


『大方、一週間後に蓮たちが旅に出ることを知ったのだろう』


「……旅に出てからの方が襲いやすくないです?」


 千草の疑問は尤もだ、と幼馴染組の全員が思った。


『それが、そうとも言い切れない。そもそもこの国は帝国の人間を拒否できる立場にはないし、むしろメロアラント内での方が、多くの帝国人が蓮に近づきやすい環境なんだ。実際、我らは君たちが旅に出る際、強力な護衛を雇うつもりであるし』


「強力な護衛……と言いますと?」とは蓮。


 帝国人の男たちの絵が水に飲まれるようにして消え、代わりに傭兵ギルドを象徴する、盾の上に剣が描かれた紋章が浮かぶ。


『敦也はもう知っていると思うが、傭兵ギルドに話を通して、信頼できるクランを前々から探していてね。敦也と……エドガーに美涼が同じ組だったね。そちらにはもう専属となるクランが決まっているという訳だ』


 となれば残りの蓮、千草、エリナの三人が同じ組となるのだろう。何故この三人の組み合わせになったのかは、何となく想像がつかなくもない……蓮が敦也へと視線を向けると、敦也はそれを避けるようにメロアの方を向いた。


 わざわざ敦也の側だけに専属の傭兵クランを決めたのが、蓮側への嫌がらせだとは思わない。何か意図があるのだろうし、と蓮は黙ってメロアの言葉の続きを待った。


『この曙による傭兵探しの動きによって芋づる式に今回の旅の計画がバレ、焦った帝国人が蓮を襲撃した……という次第だろうね。そもそも蓮の身柄を抑えたかった理由は単純で、我を……コホン。……我に対して、交渉を持ちかけるためだろう』


 それは蓮も千草も既に検討をつけていたことだ。二人で顔を見合わせて、得意げに頷き合う。


『蓮側のチームに特定の傭兵クランを決めていないことについてだが……それに関しては、功牙から説明してもらおう』


 メロアの言葉を受けて、みなの視線が左へと逸れる。


「ま、それに関しては僕から蓮たちへの試験の一環だね。数日以内に一緒に傭兵ギルドに行って、信頼できる人を見つける機会を設けようってさ。知らない国へ行く訳だから、人を見る目をチェックしておかないとね」


 最後にウィンクを付け加えた功牙に、蓮は不満こそないものの、少し首を傾げた。


「なんで敦也のチームにはそのチェックがいらないんですか?」


「それは、敦也にもエドガーにも美涼にも、人を見る目がちゃんとあるって分かってるからさ」


 人にものを教えることが苦手で、剣術に関しては蓮しか見ていない功牙だが、決して他の子供たちを蔑ろにしている訳ではない。


 大人として彼らを導くために、その素行や友人関係などはしっかりとチェックしていた。その師匠が言うことなのだ、蓮は素直に受け入れられた。


「なるほど」


 それに、蓮(ともしかしたら千草とエリナにも)には足りないものがあって、敦也にはあるのだと大人から言葉にしてもらえれば、それは何より敦也の心を癒してくれるだろうと思ったから。


 エドガーに関しては自分でも大人たろうとした結果、名実ともに幼馴染組のまとめ役になれている。


 美涼もまた、人を見る目をしっかりと養っていたからこそ、見合いの席で甘い言葉を囁かれても、容易くなびくことなく帰宅することができたのだろう。まぁ、何者かによって幻術には掛けられてしまったが。


 敦也に人を見る目が備わったのは、もしかしなくとも、妹に近づく輩に対し、猛禽類のように鋭い視線を向け続けたせいかもしれない。そこまで考えて、蓮は口元に笑みが浮かぶのを気合いで抑えた。


『では、話を戻そう。この国を出た後も、君たちには何者であっても危害を加えられぬよう、最大限に配慮したいと考えている。傭兵もそうだが、我からも……祝福を授けたい』


「祝福……」


 敦也の呟きに、メロアは右手の指を鳴らして応えた。


 巨大な水のキャンバスが全て弾けて消えたかと思えば、床から宙に向けて水の球体が浮かび上がる。


 幼馴染五人の前に、それぞれ一つずつ。自らの頭部よりも大きいくらいのその球体をどうすればいいのかとまごつく子供たち。


『各々、好きなタイミングで手を伸ばしてくれ。もっとも、別にそれを体内に取り入れる際に痛みなどは生じないが』


 メロアがそう言うと、エリナがすっと右手を差し出し、球体に触れる。それはエリナに向けて弾け、身体を包み込むように広がり、馴染んで、染み込むように消えていく。その服が濡れる様子はない。


「なるほど、これが……祝福として与えられる水翼(すいよく)なのですね」


(私が以前から身につけていた総量には僅かに劣りますが)


 エリナはそう感じたが、それは彼女が規格外なだけである。他の者がこれを受け取れば、元から自分に備わっていた力の数倍にも感じるだろう。


『そうだ。蓮などは今日の時点で発現させていたようだが……この場所に満ちる≪クローズドウォーター≫を、君たちも創造できるようになる。それだけの力を……そう簡単には死ななくなるための力を、君たちには持っていてもらいたい』


 既に水竜メロアが目覚めてから、彼女の意思によって≪クラフトアークス≫に目覚めている清流人は少なくない。立場ある者から優先して目覚めていると蓮が感じていたそれは、やはり生存率を高めるためのものであったらしい。


 それでも、一定以上の才能を持つ者でなければ、独力ではたどり着けない領域……力の応用もある。


 メロアは今回の旅に先駆けて、それを無理やりに突破させようと考えたらしい。


 エリナの様子を見て恐れを払拭したのか、我も我もと球体に手を伸ばしていく子供たち。


 それはかつて……炎竜ルノードが自らが創出した種族、アニマに対して与えていたものと同一の祝福であった。


 己が眷属に命を落として欲しくないが故に。


 ――この険しい世界を、どうか生き抜いてくれ、と。


(水翼か。……水だけど、あたたかい力だ)


 と蓮は思った。いや、単にお湯だとかそういう、温度の話ではなく。


 水竜メロアが、清流人を大切に想っていることが分かるあたたかさだった。



『――ガ、ガキ過ぎる……。二十にも満たない人間とは、このようなものであるか?』


『いや、これはさすがにちょっと珍しいね。人間は、突然不思議な力を身に付けるとこうなる傾向にはあるけど』


 とは、ダリとそれに応えたメロアの呆れ声だ。


 自らに宿った新たな力にテンション爆アゲマッークス! 確認せずにはいられないッ! とばかりに、蓮たちは手のひらに≪クローズドウォーター≫を生成、思い思いに発射して遊んでいた。


「クウ!」カラテアが自分も混ざりたい! と言うかのように鳴いたが、「子供たちに大人気の神獣が参加してはいよいよ収拾がつかん」とばかりにメロアがその尻尾をがっしりと掴んだ。


 いや、最初こそ遊びの意図はなく、単純に能力を確認しようとしただけだったのだが。


 千草がまず兄の顔に向けて容赦なく発射し、それが敦也の顔を濡らすことなく垂れていくだけだということを確認すると。


「すごい! これなら服が濡れる心配なく、水の掛け合いが楽しめますねっ!」


 と、喜びの声と共に蓮の顔面に向けて大量の≪クローズドウォーター≫を発射した。


「――いやちょっと千草ごぼっ! いや、目にも口にも入っては来ないけどさ、ぶふっ、なんか! なんかが当たってる感覚はあるからっ!」


 やられっぱなしは癪だったのか、ならお前もこれを味わってみろと、蓮もまた千草に向けて≪クローズドウォーター≫を発射する。


 千草が素早く立ち上がって美涼の後ろに隠れると、「ぶはっ! ……やったわね!」美涼が顔面でそれを受ける結果となった。


「いや、立ち上がって移動するのはズルだろ! メロア様の前で!」と蓮は言うが、そのメロア様の前で水の掛け合いをすることは不敬に値しないのだろうか。


 問題無いのか。水竜メロアはそれを見て呵呵(かか)と笑っていた。


 子供たちはブチアガってしまったようで、千草と美涼、蓮とエドガーの二人ずつに分かれて水の掛け合いが始まってしまった。チェケラ!


『一応言っておくが、今君たちがお互いにそれを掛け合っても濡れないのは、お互いが味方だと認識しているためだ。敵へ攻撃しようという意思と共に振るえば纏わりつくから、その場合は同士討ちには気を付けたまえ』


「……だそうですよ皆さん、ちゃんと理解できましたか」


 メロアの言葉のあとに、心配そうにエリナが注意(チェケラ)した。


 即興の水遊びに興じている四人は「はーい!」と元気よく返事をすると、ノリが悪いぞ~とばかりに敦也とエリナの顔に≪クローズドウォーター≫を掛けた。


「……どうやら一度、理解(わか)らせる必要があるみたいですね……?」


 エリナがそう言ったかと思えば、四人の足元から大量の≪クローズドウォーター≫が沸き上がり、それに足を取られた全員が転倒する。


 転倒した四人を受け止めてくれたのもまたそのエリナが操る≪クローズドウォーター≫だが、触手のように絡みつくそれに手足の自由を奪われ、四人は宙に一塊になって、ぶら下げられたような状態で固定された。静かにブチ切れたエリナによる、チェケラ(ちゃんと聴きなさい)ッチョ(YO)だった。


「――うわ! なによこれっ!」


「拘束されるのは最悪ですけどっ! 自分で自分のことをこうやって浮かべられたら便利そうですねっ」


「いや、この状態からでも敵に向けるように鼻や口を水で塞げるんなら、拘束攻撃としてめちゃくちゃ強くないか? いや、最早そりゃ拷問か?」


「……なんでオレだけ逆さまなんだよ……!」


 美涼、千草、エドガー、蓮のそれぞれの感想を聞いた後、エリナはふぅと息をついてから、能力をゆっくりと解除する。


 優しく床へと降ろされた四人だが、頭は冷えたらしい。というか、エリナの強大すぎる≪クローズドウォーター≫捌きに恐れをなしたようだ。


 ――雪合戦を始めたつもりだったのに、一人だけが除雪車に乗っていたようなものだ。どんな状況だ。排雪口から勢いよく飛び出す雪を、人に向けてはダメ絶対。


 それにしても。


(お前らもさっきは「絶対にダリさんに失礼な態度を取らないようにしよう」か、それに準ずる内容を考えていたんじゃないのかよ)


 アホほど失礼だったぞ、と敦也は両のこめかみをそれぞれの親指でぐっと押した。



「……メロア様。お聞きしたいことがあるのですが」


 童心に帰った仲間たちが正気を取り戻した様子を見せたことを確認してから、敦也が口を開いた。


『なんだろう』


「――今回千草と蓮が戦った相手は、()()()()()()()()()と同じ連中だったんですか?」


 その真剣な質問に、蓮たちも一気に意識を引き戻され、水竜メロアの次なる言葉に注目し。


 その日のことを思い出していた。



 ――あの時の誘拐事件。


 もう、五年ほども前になる。


 幼馴染の五人全員が一度に拉致され……結果として千草が大怪我を負った事件。


 そして、全員が千草を幸せにしようと誓った、あの日のことを。


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