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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
番外編2 帝国教育機関≪ランドセル≫
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崩壊

 一ヵ月も空いてしまいました!



 当初こそ帝国の教育機関である≪ランドセル≫しか存在しない地帯ではあったが、その重要性故に、時がその場所を発展させてきた。


 多くの学生を飢えさせないために、食料を運搬する団体が。長期保存の利く食料を管理するための冷蔵倉庫の業者が。


 それらを調理する料理人が。学生の服を制作する仕立て屋が。


 子供の様子を見に来る父兄に向けた、宿を営む者が。


 一つの重要施設を取り囲むように、数多の人間が移り住んで来るその流れは、アラロマフ・ドールの≪エイリア≫に通じるものがあった。


 総人口四千人ほど。集落という表現を超える規模の、そこで学ぶ生徒たちにとっては第二の故郷だった。


 ――だが。


 十一月九日、それらの文明は大打撃を受け、一度崩壊することとなる。



 午前の講義を終えた後、午後の訓練に備えて一旦寮へと戻り、ジャージに着替えていたアシュリーとロビン。


 彼らはこれから食堂へと向かう……はずだった。本来なら。


 ペイントガンによるピンク色の染み。中々完全には消えてくれない、胸元にあるそれを引っ張るように擦っていたロビンは、突如として鳴り響いた警報に目を見開いた。


 確実に避難の必要がある、火災級の緊急事態を告げるけたたましいベル。それが鳴ったかと思えば、すぐに停止した。


「なんだろう……?」


「…………」


 これが誤報でないとすれば、すぐさま切迫した状況を伝える教官の声が響き渡るはずだ。アシュリーはロビンに対して小さく首を振って見せ、何も喋ることはしなかった。


『――緊急事態宣言を発令する! これは訓練ではない、一度目で確実に聴きと――』


 拡大されているはずの女性教官の声が、爆発音によってかき消される。


 ロビンが部屋の窓へと走り、躊躇なくカーテンを全開にした。グラウンドの向こう、初等部の校舎……その裏手から煙が立ち上っている。宿場町で何か事故が……いや、攻撃を受けているのか。


 それだけではない。グラウンドの黒っぽい土を塗り替えるように、黄金の穂波のようなものが蠢き、この校舎へと迫っている!


「な……に……!?」


 唖然としたロビンに叩きつけるように、教官による放送が再開される。


『――のモンスターの暫定名称は“電気羊(でんきひつじ)”とする! 奴らは角に強力な電気を纏えるらしく、その突進を受けた何人もが、既に黒焦げになって命を落としている! 正面から相手をするには危険すぎる、全く未知のモンスターである!!』


 既に死者が出ているのか。恐らく、この校舎で放送しているマドリン教官は、先に被害を受けた初等部の校舎から連絡を受け、その内容を元に話しているのだろう。


 この黄金の穂波は、群れなのか。人類が今までに確認したことのないモンスターの。


(……恐ろしい侵攻速度だな。この校舎の入り口を目指して……いや、もう入ってきていると見るべきか。この三階に到着するまで、下手すればあと一分もない)


 震えるロビンの後ろから窓の外の景色を覗き込みながら、アシュリーは顎に手を当てていた。


(デンキヒツジ……角に電気を纏う、だと? 四足歩行の生物が電気を用いて、自分は感電せずにいられる理屈はなんだ……?)


 そこに突破口があるかは不明だが、考え続ける姿勢は立派だ。思考力を失うよりは余程いいだろう。問題は、そう長く考えていられる時間がないことか。


『既に我々が遠隔でロックを開錠している、戦う意思のある者は武器庫から好きなものを持っていけ! 戦う意思を持てない者は、屋上へと避難し集団で籠城せよ!!』


 階下から、小さく悲鳴のようなものが聴こえた気がする。いや、恐らくその場所ではそれなりの声量で発されたのだろうが。教官の声と、宿場町で断続する爆発音にかき消され、アシュリーはそれに確信が持てなかった。


 時間はない。次の教官の声を聴いたら、身の振り方を決めよう。


 生存することに執着の薄いアシュリーの脳内に逃げの選択は元より無かったが、どこへ向かうかは決めかねていた。とりあえず、実戦に耐えうる武器が欲しいことは間違いないが……。


『報告によれば、電気羊に高度な知性と言えるものが備わっているかは怪しいとのことだ! もしかすると、奴らを統率する指揮官のようなものが……魔人がこの人里のどこかに潜んでいる可能性がある!! それも一体とは限らん、生徒諸君、一切油断せず行動し――、ガッ!?』


 耳をつんざくような破裂音。それから物が倒れる音がして、


『……………………』


 放送は沈黙した。



「ア、アシュリーくん……」


 何が起きたのかを理解できない。いや、脳が理解することを拒んでいる。そんな様子で恐る恐るこちらを振り返ったロビン。


 その小柄な体躯を押し退け、


「カーテンを閉めろ。マドリン教官は攻撃……狙撃された可能性がある」


 閉めろと命令しつつも、アシュリーは既に自分の手でカーテンを閉めていた。ロビンの思考が緩慢になっていることを悟り、自分が指標を提示するべきかと考える。


 人生に目標を持てずにはいるが、自分よりも努力して生きている同級生くらいは助けてやりたいと思う。それも、ルームメイトであれば尚更だ。


 リチャードとクラークの姿は周辺にはない。アシュリーとロビンとは異なり、着替えずにそのまま食堂へ向かったのだろう。


 食堂がある一階部分には既にモンスターが大挙して押し寄せていると思われるため、生存を確かめに行く余裕はないが……。


「とりあえず、積極的に戦うにしても籠城するにしても、武器がいる。この階の武器庫に向かうぞ。もう、敵がこの階に来るまでそう時間は残っていないはずだ」


「う、うん……!」



 そうして、入り口の扉をスライドさせ、勢いよく廊下へと飛び出した二人の視界に。


 ……ついに三階へと足を踏み入れた、黄金の毛並みを持つ猛獣が姿を現した。


「あ……っ……」


 ロビンが言葉を失ったのも無理はないだろう。


 ――その猛獣のねじれた角は真っ赤に染まり、貫いてきた何かの肉が大量に付着していたからだ……。



 次回部分より始まる、久しぶりの戦闘描写に苦戦しています。


 でも書いてて楽しい!


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