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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第2章 悪路編 -サバイバルな道中と静かなる破壊者-
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第43話 後方彼女面ドラゴンである


 蓮とエリナの活躍により、ワイバーンの群れのリーダーは討伐された。


 残るは飛行能力を奪われた烏合の衆であり、それらの落下地点にセリカ、ヒルデ、ルギナのアニマ組が向かった以上、遠からず全滅することが確定していた。


 肉体の傷はすぐに癒えようとも、精神的疲労が限界に達していたのだろう。尻から崩れた蓮は、そのまま俯いてしまっている。


 エリナは蓮の様子を心配そうに見つめていたが、ただ単に休憩しているようだと把握すると、使い終わった水の大蛇を手元に引き寄せた。


 体内の魔力を消費し生み出す≪クローズドウォーター≫の場合は、あらゆる汚れを受け付けないようにも設定できるのだが。


 今回は井戸に溜まっていた天然の水を掌握し、大蛇の形をした巨大な武器として振るった形となる。この場合、何もないところに自分で純水を生成するよりはよっぽど省エネで行動できるものの、絶縁体として雷に対する防御手段として使うことも出来なければ、敵の血液などによって汚れることを回避することもできない。


 さすがにワイバーンの血が混じった水を井戸の中に戻す訳にもいかないため、エリナはそれを背後にあった林の方へと流した。



(――結局、ダリが手を出すまでもなかったであるな)


 そんな蓮とエリナ、そしてラ・アニマ全体の様子を、上空から密かに観察している人物がいた。


 水竜の神殿においてはダリ、魔王軍のジェットに対してはリアと名乗った、謎多き龍である。


 現在は人型の形態(褐色系童顔女子)を取り、先ほどまでワイバーンが滞空していたよりも更に高くから、戦場の様子を俯瞰していた。


 まるで地面に足をつけているかのように空中に直立しているが、人類未到の隠密魔術を操るダリの姿を認識できる者など存在しないため、奇怪に思われることはない。


(エリナはどこかの文献で“ヤマタノオロチ”を知っていたのであるか?)


 先ほどエリナが操ってみせた、八つの首を持つ水の大蛇。その首の数の一致が偶然でないとするなら、地球の日本神話における八俣遠呂智を前もって知っていたのかと勘繰りたくもなるが……。


 いきなり『エリナ、おまえはヤマタノオロチを知っているのであるか?』と念話を飛ばして聞く訳にもいかず。そんなことをすれば、突如として現れた強烈なプレッシャーに、エリナは平静を失ってしまうだろう。子供たちは水竜の神殿で記憶に操作を受け、最早ダリのことを全く覚えていないのだ。


 あの時は、彼らの神であるメロアより紹介されたから良かったのだ。突然こんな強大な存在が現れれば、常人なら精神が崩壊してもおかしくはない。


(それにしても、幻竜……もしくは帝国勢力からのアクションが想像以上に多い。これは、幻竜の憑依体が現れるのもそう遠い話ではないかもしれん)


 ダリは謎多き龍ではあるが、少なくとも水竜メロアと友好関係にあることは確定している。どうやら、無敗の幻竜に一矢報いるためにメロアと共に作戦を練り、こうして長い隠密行動に着手しているようだが。


 ――だが、例えメロアと同盟を結んでいようと、それはイコールでメロアラントの子供たちの味方ということにはならない。


(齢十八にして、あの能力。……エリナはまさに、次代の水竜として相応しいであるな)


 エリナに関しては、間違いなくメロアの後継となれる器を見せているため、ダリからの評価も高い。隠密行動の問題にならない範囲でなら、助けられる部分で助力をしてやってもいいと彼女は考えている。


(しかし、あのガキは……危険である)


 対して、ダリが蓮に向ける視線は厳しかった。


 まだ水竜メロアより特級の≪クローズドウォーター≫を振るう権能を与えられてから、二週間と経っていないというのにも関わらず。


 エリナよりは劣るそれに早々に見切りをつけ、純血の吸血鬼に尻尾を振って≪カームツェルノイア≫に手を出すとは。


 逃した魚の大きさを理解していない、その達成感すら感じさせるような蓮の表情が、ダリを苛立たせる。


 ――己が身分を与えられた場所で研鑽を積むことをやめ、別の場所で別の力を求める。


 より効率よく、楽をして他者を虐げられるようになる力を渇望し、主を代え、仲間を代え、己の心の在り方すら代える。


 世を混乱に陥れる、世界史に残る悪逆の魔王というものは――世界史から抹消された者もいるが――得てしてそうして生まれるものなのだと。ダリはそれをよく知っていた。


(レン。もしもおまえが世を乱す存在になろうとしたならば……)


 冷たい視線を落とすダリの右手で、黄金の錫杖の遊環がシャン、と音を立てた。


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