第3話 宝竜功牙のお説教とエリナ・リヴィングストン
「あの男だけどね。急いで処置しないと死んでしまうところだった、と……救命医の方が仰っていたよ」
菫色の着物を着た男性……宝竜功牙がそう、蓮に向けて諭すように言った。
現在位置は水竜教会の中、来客用に当てられた部屋の一室である。
橙色の照明が優しく照らす空間は、窓から覗く青空もあって明るいものだ。
白い壁紙と、建築の要となっているヒノキの色に合わせて揃えられた木製の調度品たちが、古典的で牧歌的な印象を与える。もっとも、ヒノキは高級なのだが。
来客に心安らぐ空間を提供するために作られた内装。ニッチ壁の中にはラヴァンドラのドライフラワーが並べられ、ほんのりと香っている。心を落ち着かせる香りだ。
しかし当然と言えばいいのか、その程度では容易く払拭できないほどに、ベッドに腰かける蓮と千草の表情は沈痛なものだった。
「せんぱい……わたしのために怒ってくれるのは嬉しいですけど。冷静に……」
右隣に腰かけた蓮の左の掌に自らのそれを重ねながら、千草が言った。
功牙はそれを見て僅かに眉根を寄せたが、それに関しては何も言わなかった。今は別な、もっと大切な話をしている最中なのだから。
「……やらなければ、やられるかもしれない。そう思ったんだ」
少し不貞腐れたように零した蓮に、功牙はこっそりとため息をついた。
「いくらわたしが危なかったからって、せんぱいが獣になる必要はないんですよ」
そう言いながら、千草はいとおしむように蓮の頭部を引き寄せて、抱きしめた。
(いや、それはさすがに距離感がおかしいだろう……)
蓮には別に婚約者がいるんだぞ、と既に何十回も言っていることをもう一度繰り返すべきかとも思ったが……やはり今は別の話が優先だ。功牙は左手の親指で、己のこめかみをぐっと押した。
「千草に聞いた話だと……男たちが曙の娘を本気で害することは無いと分かっていたんだろう? なら、見逃しても良かったじゃないか。……というか、千草なら来ると分かっている弩なら避けることもできたと思うし」
「もしでも傷つけられるのは嫌だったんです! ……それに、どうせこの世界じゃ、オレだっていつかは人殺しを経験することになるワケだし……今の内から慣れておいて、悪いこたぁないでしょ」
「蓮っ!」
減らず口を叩く蓮に、功牙が語気を強めた。
「――冷静に戻れたら、君もそんなことを言うはずはないんだと信じてる。……君たちはまだ子供なんだ。相手が悪人だとしても……殺しは大人に任せなさい。必要があれば、僕が斬る」
「……オレだってもう成人してます」
「旧暦じゃあ未成年じゃないか」
「師匠だって……帝国人を斬れるんですか? うちもそうですけど、宝竜家だって吹けば飛ぶようなもんでしょ、帝国にとっては」
自虐を含めつつ、師匠の身分の低さを揶揄する蓮。“龍に仕える一族”として宝竜家は遥か昔にこそ名家として扱われていたものの、何百年も前に水竜メロアが永い眠りについて以降は名声を失い、現在では一族が大陸中に散って久しいという。
メロアラントに残る宝竜は功牙のみであり、その功牙自身、この国に身を置くことになったのは四年前のことだ。それ以前は浮浪人として各地を転々としており、生まれもイーストシェイドだった。
「僕のことはいい。確かにこの国では名前が売れてきたけど、ここに居られなくなったら、それはそれで……また別の国へ行くだけさ」
その血に宿る力と持ち前の剣術を買われ、メロアに重用されているという功牙だが……あまりに欲のないことを言ってのけると、少し冷たさを増した眼で蓮を見降ろす。
「ま、そうなれば誰かさんに剣を教えることは当然できなくなるけどね。誰かさんはそれを気にしていないようだし、心残りもないかな」
「あっ……」
別に、師匠が居なくなってもいいなんて言いたかったワケじゃない。蓮はそう思ったが、思考は鈍重で、上手く声に出すことができなかった。
(師匠がどういう人か……オレはよく知っているはずなのに)
技術を教わる者として、とんでもなく失礼なことを言ってしまった。深い後悔が蓮を苛み、ただ「すみません。すみません……」と呟いた。
「……謝ることができるメンタルならまぁよしとしよう。それより、蓮ばかり責める雰囲気になっているけど。僕は千草にも言いたいことがあるよ」
「えぇー……っと」
千草は蓮の頭を抱いていた右の掌を開いた後、蓮の頭部を指差した。一応はその行為が、婚約している訳でもない男女のものとして相応しくないことは理解しているらしい。
「これですか?」
「っ……いや、それじゃあないけどさ。問題だって分かってるならやめなよ」
功牙は一瞬苦笑しかけたが、自制心を総動員して抑えた。自分はもう二十六歳だ。子供たちに対して教え導く側にあるのだから、こういう場では毅然とした態度を取り続けなければならない。
説教中に子供の言葉に笑わせられるなど、威厳が消えてしまう。
ちなみに、千草は蓮をあやすように抱きしめる行為を再開した。このガキ。
「蓮、それに千草。僕が止めなければ蓮がやりすぎてしまうところだったのもあるけど、そもそも二人だけで悪漢に挑む作戦を立てたことがよくない。……相手は優れた技術力を持っているんだ。拳銃が飛び出して来る可能性もあったんだよ」
君たちはまだ拳銃の恐ろしさが身に染みていないのだろうけど、という言葉を功牙は飲み込んだ。
実際、あのスタンガンも威力を更に引き出すことが可能で、それを当てられれば何らかの後遺症が残ってもおかしくなかったのだ。
そこで一旦功牙の台詞が途切れたと判断すると、眉を寄せた千草が口を開く。
蓮が気落ちしているならば、自分が代わりに反論してやるとでもいうような表情だった。
「……えっと、だったらどうすればよかったんです? ケータイで連絡しようとしましたけど、ご存知の通りここら辺は電波が不安定ですし、二人でやるしかないと思うのは当然じゃないですか」
千草は「ご存知の通り」のあたりで語気を強めた。まさか忘れてるんじゃないだろうな、と念押しするような言い方だった。
功牙は「僕の眼光を受けても戦意を喪失しないとは中々やる」と思いながらも、
(一回、叩きのめしておくか……)
と、悪い大人になる覚悟を決めた。
「本当に二人きりではなかったはずだね。周囲には観光客をはじめとした人間が沢山いたからこそ、君たちはそれが少なくなる頃合いを見計らった訳だし」
「えー……と、それはつまり…………周囲の人間に助けを求めろと……部外者を巻き込め、って言うんですか?」
気落ちしている蓮と違って、千草の頭は反論ができる程度にはまだしっかりと働いている。
しっかりと働いている状態でも、大人と同じ思考には到底至れないのだから、神童などと持て囃されていても結局は子供なんだなぁ、と功牙は思った。
「そりゃあ女子供を巻き込めとは言わないよ? 君にも曙家としての誇りがあるだろうし、できるだけ周囲に助けを求めたくないだろうってこともわかる」
でも、と功牙は前置きし、
「……僕に言わせればそれはエゴだね。曙家としての誇りを守るために、できる努力の内のいくつかを捨てて、結果自分の身を危険に晒してしまっている。君が自分の身を危険に晒すことは、未来のメロアラントにとっての損失であり、結局は周囲の人々の不幸に繋がるんだよ」
未来を担う華族が自分の身を周囲に守らせないでどうする、と功牙は言う。だが、千草は到底納得できない様子だ。
「――いやそれでも観光客を巻き込むのはおかしいでしょって! 余所の国の人たちをもてなす側の国、その華族が「命を狙われているんです助けてくださいー、あなたの命をかけてでも」なんて言えるわけないっ! 馬鹿なんですか功牙さんっ!?」
千草にヒートアップした口調でまくし立てられても、功牙が怯むことはない。
ただ、耳元で大声を出される蓮を、少し気の毒に思っただけだった。
「君こそ視野が狭すぎる。光明社のガイドさんは蛍光院傘下の人間だし、戦闘訓練も受けている。それに、かなり親しみやすい人柄でしょ。彼に近づいて、助けを求めればよかった」
「それはっ……それじゃあ、ガイドさんに案内されてたお客さんは結局巻き込まれてることになりませんか……!」
「なら、模擬戦が終了した後の公園で、周囲の同級生から協力者を見繕えばよかった。リンドホルム学園の高等教育生なら全員がそこそこ戦える訳だし」
「あいつらはせんぱいに辛辣だから……危険なことを手伝ってくれる保証なんてないですし」
「だったら、敦也に協力を仰げばよかっただろう。君の兄である彼が拒むはずがない」
「兄さんはせんぱいとの相性が悪いから……」
「――いい加減にしてくれ」
そこで功牙は声のトーンを一段落とした。
そして、子供たちには気づかれぬように、こっそりと部屋中に充満させていた≪クラフトアークス≫に働きかけ、蓮と千草の身体から≪クラフトアークス≫を奪い始めた。
ゆっくりと。だが、当人たちからしてみれば、突然悪寒に襲われたような感覚に陥っている。
急に部屋の温度が下がったような。目の前の人物の言葉によって、自分の心が怯えたように錯覚する。
――そこに、功牙は畳み掛ける。
「聞いてれば、学園の生徒たちに助けを求めることができないのも、千草が兄である敦也に助けを求めることができないのも、蓮が原因じゃないか。最も理に適ったそれを選択できなかった理由を、なぜ僕に推し量れと言えるんだい。そして、君たちはなぜその問題を放置している? 諦めているのかい? どうせ何をしても、改善なんてされることはないと? 違うね、千草。君にとっては今の状況がそう悪くないものだから、現状を維持しても構わないと思っているんだ」
「……えっ」
「学園の生徒たちから蓮が爪弾き者にされている間は、自分こそが蓮にとっての女神になれる、と。そういう考えが自分の奥底にないと言い切れるかい?」
「あ……」
「蓮も蓮で、面倒だから……もしくは幼馴染たちさえいれば余裕で生きていけるから問題無い、と。そう考えているのかもしれないけど。それが今回の事件で問題になったことを自覚してくれ」
「……………………」
「君たちが今と違う態度で生きていれば、多くの仲間たちに囲まれて、共に今回の事件に立ち向かっていたはずだよ。はぁ……僕がこれまで遠回しにしか言ってこなかったのが悪かったのかな? これからは、もっと直接的に指導するよう心掛けてみるよ」
……そこで功牙は、自分が千草を泣かせてしまっていることに気付いた。
「……うっ……っく……」
大粒の涙が、蓮の髪を濡らすようにぼたぼたと流れている。
(まずい……さすがに洪水のように叩きつけ過ぎたか……?)
だけど、前から言いたいことが溜まり過ぎていたからなぁ……と功牙は後ろ頭を掻いた。
(泣けば説教がそこで終わって、逃げられるって覚えられるのも嫌なんだよなぁ……)
功牙は、都合が悪くなるとすぐに泣いて逃げるタイプの人間を内心で嫌悪している。次代のメロアラントにおいて民を導く立場となるかもしれない子供たちのことは、そうならないように育ててやりたいものだが……。
もっとも、完全論破は既に済んでいる。凝り固まったプライドを粉砕してやることは出来た訳だし、これ以上いじめてやる必要もないか、と思い直す。
こほんと咳ばらいをした後、功牙は奪っていた≪クラフトアークス≫を二人に還すと同時に、声のトーンを上げる。これによって、二人からしてみれば突如としてプレッシャーから解放されたように感じるだろう。
いつか彼ら自身の方からこのからくりに気付き、「あんときゃよくも摩訶不思議な力を使って脅してくれやがったな」と反抗でもしてくれれば、その時こそ免許皆伝が近いのだろうけど……と考えながら。
「切り替えが早いのが君たちの強みだ。自分の間違いは理解できただろうから、もう僕が怒る必要もない。ただ……」
泣いている千草を慰めるように、蓮は自分を抱いていた千草の手を払い、今度は自分から千草の頭を撫でていた。
その様子を見て、功牙はさすがに言及しない訳にはいかなくなった。
千草だけが一方的に蓮を慕っているなら、まだいい。
――だが、蓮の方がそれを受け入れてしまえば、行きつく先は泥沼だ。
「君たちはさすがに距離が近すぎる。僕が今の状況を君らの親御さんに報告すれば、確実に千草は蓮と違う場所に行くことになるだろうね」
行く、とは一週間後に控えたビッグイベント。蓮と四華族の子供らがこのメロアラントを出て、周辺国家を旅することを指している。
「……ぐすっ、それは……困ります! 諸国漫遊は数年間に渡るじゃないですか! そんなに長い期間、せんぱいに会えなくなるなんて……!」
「そんなに長い期間、祖国から離れた状態で君たちを一緒にしているのは問題だって、大人たちがそう考えるかもって話」
別に必ずしも僕がその一人とは言ってないよ、と功牙は注釈した。
「そうやって四六時中ベタベタしていると――」
と、功牙がそこまで言った時だった。
廊下側から扉が引かれ、新たな人物が姿を現した。
喋っていた功牙をはじめ、突然の闖入者に口を噤むのは、人間としてそう珍しい行為ではない。
だが、気落ちしていた蓮と千草の二人は、素早く行動することができなかった。
その結果、そこに現れた人物……蓮の婚約者であるエリナに、それまでのその部屋の状況が、ありのまま伝わった。
――エリナ・リヴィングストンは、四華族のうちの一つ、リヴィングストン家の次女である。
腰まで伸ばした鮮やかな金髪に翠緑の瞳は、帝国人の血を色濃く残している。
上に後継ぎである兄が一人、アラロマフ・ドールへと嫁いだ姉が一人おり、彼女自身は蓮と同い年の幼馴染である。
三年前に双方の親によって蓮との婚約が発表されたが、それは長らく伏せられていただけであり、実は昔から許嫁として親世代には認知されていたらしい。
その美しい容姿には勿体ない、表情からは感情を読み取りにくい性質の少女に今日もまた、
(まるで柔らかい笑みを、意識的に張り付けているみたいだ)
と功牙は思った。
水竜教会に寝泊まりし、この場にあった修道服を身に付けている彼女は……絵にはなるが、絵のようで異質だ、と。
エリナは弱冠十八にして優れた≪クラフトアークス≫の使い手であり、メロア正教においてプリースティスの位を持ち、本来ならば純白の神官服を身に付けるべき立場だ。
それでも彼女が黒い修道服を常用しているのは、この水竜教会において色の調和を乱さない為か、それとも……彼女自身が、未だにプリースティスという立場の自分に慣れていないからか。
功牙は蓮以外には剣術を教えていない――それ故に千草も功牙のことを師匠とは呼ばない――のだが、蓮の幼馴染たちの中でも、エリナとの関わりは特に薄い。
彼女は剣を持つこともなければ、いつも蓮の傍にいる訳でもなかったためだ。
(正直、この子が蓮のことをどう思ってるのか、僕にはよく分からない……)
まぁ、分からないからこそ焦るのだが。無知と言うものは恐怖だ。
親世代が勝手に決めた関係だ、エリナ自身は蓮のことをどうとも思っていない可能性はある。
しかし、例え恋愛感情を持っていなかったとしても、だ。
婚約者が自分以外の女性とベタベタしている場面を目撃すれば、自分という存在が蔑ろにされていると感じ、憤るものなのではないか。
同じベッドに隣り合って腰かけ、お互いの方を向き、まるで抱き合っていたようにも見える状態の蓮と千草。
今になってようやく「やばい」と思い至ったのか、蓮と千草はベッドの上に座ったままでもとりあえず身を離し、エリナが口を開くのを待っているようだった。特に言い訳はしないらしい。
(はー……あと十秒早くやめさせていれば……)
と功牙は悔やむ。エリナが騒ぎ立てれば、先ほど言った「蓮と千草は離れ離れにされる」という話がいよいよ現実味を帯びる。
果たして。
「蓮、それに千草ちゃん。二人に怪我はないみたいで、とりあえず安心しました」
――エリナは、蓮と千草の近すぎる距離感については言及しなかった。
(本当に読めないな、この子)
卓越した剣士である功牙だが、こういう戦闘とは無関係な分野では恐れを感じることがある。色恋などの話題に疎いのかもしれない。
だが、エリナの登場による話題転換は、ある意味では功牙に叩きのめされたばかりの二人には救いだったのだろう。
「……あぁ、オレの本気についてこれるような相手じゃなかったしな」
「わたしがいれば、敵もやりづらいことこの上なかったでしょうし」
蓮と千草はポーズであろうとも普段の調子を取り戻し、エリナに応じることができた。
功牙は内心で「ちょっと容赦なく痛めつけすぎたかな」と反省していたので、二人がエリナを聖母のように思い、結果幼馴染三人の仲が深まるならいいか……自分が悪役になるくらい、と思った。
「部屋の外で聴いてましたけど、功牙様は少し言いすぎでしたね」
エリナの言葉に、功牙は内心で舌を巻く。
(こっそり部屋の前まで来て、ずっと聴いてたのか! 道理で足音が聴こえなかったはずだ。……どこから聴かれていたんだろう)
この分だと、この少女にだけは≪クラフトアークス≫を使って対話相手の心を操作していることもバレているかもしれない。
「責め立てるような口調になったのは申し訳なかったけど、一応正論しか言っていないつもりだからなんともね……」
「確かに蓮と千草ちゃんは仲が良すぎるように見えるかもしれませんけど。これは私たち幼馴染のことですから」
外から入ってきたあなたには理解できないこともある、とエリナは言いたいのだろう。
「……いや、僕だってここには四年前からいるし。あの頃の君たちの様子も知ってるよ?」
「そうでしたね。でも、あの頃の二人を見ていたなら、今の状況も分かるのでは……?」
四年前。まだ蓮とエリナの婚約が正式に発表されていなかった頃。蓮と千草もそれを知らなかった頃。
当時の光景を脳裏に浮かべるより先に、功牙は首を横に振った。
「――この話はやめようか。僕じゃどうすることもできなさそうだ」
「そうしていただけると助かります」
しとやかに言い、僅かに頭を下げて見せるエリナ。
(まいったな。当の本人様がこれじゃあ、僕が何を言っても無駄じゃないか。いや、親御さんに告げ口することはできるけど……)
そうしたらそうしたで、このエリナという少女は裏から手を回して自分に報復してきそうだ。
一回り近く歳が離れているというのに、なぜこの子はこうも扱いづらいのだろう。
率直に言って、宝竜功牙はエリナ・リヴィングストンが苦手だった。
表情は柔らかく口調も丁寧なのに、この少女からは年齢にそぐわない迫力を感じる。蓮と千草とはまた違うベクトルで才能を開花させている。帝国人の血が影響しているのだろうか?
「美涼と敦也、エドガーもこちらに向かっています。二人の無事を確認したいのもあるのでしょうけど――、」
そこでエリナは壁に掛けられた時計へと顔を向けた。
「もう、帝国の使節団はメロア様への謁見を済ませた頃会いです。それで、メロア様が空いた午後の時間を使って、私たちに話があるそうです」
私たちとは、四家の子供であるエリナ、美涼、エドガー、敦也、千草に蓮を加えたものであることは功牙にも分かった。
その面々こそが幼馴染の集団であり、次代のメロアラントの為に功牙にも守り人を担って欲しいと、他ならぬ水竜メロアより頼まれている。
(水竜メロア……いよいよ直接祝福を与えるのか)
人間などその吐息だけで殺せるほどに圧倒的な存在であり、このメロアラントを満場一致で専制君主制へと変えてしまった、力の権化。
「勿論、功牙様もいらっしゃれば出席して欲しいとのことです」
久方ぶりにお呼ばれして、それでも「バックレようかな……」と冗談交じりに考える程には、プレッシャーを感じる功牙であった。