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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第2章 悪路編 -サバイバルな道中と静かなる破壊者-
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第33話 続々女子会……表じゃできないBSSトーク

 本日は3話に渡って更新しています。第31話、32話を先にどうぞ。



「――要するに、恋愛はタイミングらしいわ」


 セリカがそう纏める。


(未だに恋すらしたことない二十七歳が何言ってんだか)


 と思いつつも、ヒルデはセリカの言葉に異を唱えようとは思わなかった。


 ――あれから五分ほど経過しても、未だ恋愛トークは続いていた。


(アニマという種族の女性は、恋バナが好きなのでしょうか?)


 それも、ドロドロめなやつが……と、エリナは辟易しつつ、遠くの景色を眺めていた。それでも話はちゃんと聴いている。聴いているというか、意識しないことは難しい。これが恋バナの妙か。


「うあー、その“恋愛はタイミング”ってフレーズ、嫌な話を思い出すんですけど~……」


「まぁ、そのシリーズならクレアのを超えるものはないわよね」


「ちょっ……ヒルデ姉! だからもろにそれなんですって~! アニマの歴史上最強の“私が先に好きだったのに”案件やめてください! 私、それ聴くと何度でも脳が破壊されるんですよ~!」


 ヒルデが挙げた、クレアというらしい人物の失恋話。それにトラウマを抉られたというように、ルギナが両手で後頭部を抑えて悶絶した。


(これは、嫌がっているようでいて、実はその話を皆でしたいやつ……でしょうか?)


 遠くの牧場跡の景色に目をやりながら、エリナはそう考える。庶民の間では、他人の恋の話だったり、失恋話だったりはいい酒の肴になるという。趣味が悪いことこの上ないな。



 ――テュラン城は族長の屋敷であると同時に、親を失った子供たちを受け入れる、孤児院のような役割も持っていた。


 現在の炎竜グロニクル……本名レンドウは、先代族長……つまりは先代グロニクルであったシャラミドが、自分の祖父にあたるとは知らされないまま成長した。


 意図せずして炎の初代龍ルノードが生み出してしまった分身のような存在……≪龍の落とし子≫たるレンドウを、シャラミドは息子であるカイとサンドラ夫婦の、二人目の子供と偽って育てることを決めた。それにより族長シャラミドの実の息子であったカイは、親を亡くしテュラン城で暮らす孤児の一人とされた。


 生まれながらにして強大すぎる力を備えた、次代の指導者として見込まれたレンドウを、増長させないための措置だったらしいが……それはまた別の話。


 一方でクレアとは、本名をシンクレアというアニマ。


 レンドウの幼馴染として、このテュラン城で暮らしていた女性である。


 もう十四年も前のことになるが、サンスタード帝国と無統治王国時代のアラロマフ・ドールによる連合軍から仕掛けられた戦争により、多くのアニマは死亡、もしくは負傷していた。


 レンドウもまたその戦争で大怪我を負っており、十歳以前のエピソード記憶を全て失ってしまっていた。実際には、炎竜ルノードによって意図的に記憶をブロックされていたのだが……それもまた、別の話。


 とにかく、記憶を失ったレンドウのことを、他のアニマの子供たちは敬遠した。それは必ずしもその子供たちが悪かったかというと、そうでもない。


 記憶を失った後のレンドウ少年は、かなり荒々しい人格をしていたためだ。記憶を失う以前の好青年はどこへ行ってしまったのかと、大人達でも混乱してしまうほどに。


 そんなレンドウからも距離を置かず、献身的に支え続けたのがクレアと、レンドウの兄貴分であったゲイル少年だった。


 そのまま時が過ぎれば、レンドウと結ばれるのはクレアだと、里の誰もが思っていた。レンドウがどうだったかは不明だが、少なくともクレアはレンドウに好意を抱いていた。


 だが、ある日クレアが己の過失から人間に囚われ、それを救うために身代わりになったレンドウは、人間界で暮らすことになり。


 それから一年が経つ頃には、人間界から魔王城までの旅路で仲を深めた兎耳の魔人に、クレアはいつの間にか“BSS(僕が先に好きだったのに)”を味わわされてしまっていた。クレアの一人称は僕ではないので、正確にはWSSかもしれない。


 ……という、伝説級の脳破壊コンテンツは、恋愛に奥手になっている全てのアニマの少年少女を震え上がらせた……という歴史がある。


 それによって、勇気を出して告白するアニマの少女が増えたとかなんとか。≪氷炎戦争≫終結後、アンリエル・クラルティも物凄い回数告白されて、同じ回数断ったとかなんとか。


 ちなみに件の兎耳の魔人が、現在「炎王妃」と呼ばれている、カーリー・グランバニエである。


「大きな障害としてはマリーだけ、それも吸血鬼とアニマが分かたれたことによって安泰……そう思っていたでしょうにね。……信じて送り出したレンドウが、一年後には兎女に堕とされるなんて――、」


「あ~! もうやめてくださいって~!」


 芝居がかった口調で高らかに語るヒルデに、ルギナの悲鳴が重ねられる。だが、ルギナが本気で嫌がっているようには、エリナには見えなかった。


(本人がいないところでこうやって盛り上がるの、どうなんでしょう。いえ、本人の目の前で言うのはもっと駄目でしょうけど……)


「――イヤほんとに、そこら辺でやめておきなヨ。エリナに性格悪いと思われてるっテ。イヤ、アタシもそう思ってるし」


 苦い顔をしていることを察されてしまったのか、エリナは引き合いに出されてしまった。だが、ビルギッタ自身の気持ちも添えられたことで、使われた感はあまりない。


 しかし、一番遊んでそうな外見をしているビルギッタが他の人物の暴走を止める側というのは、なんだか意外だった。


「そうね、こんな話をクレアの前でしたら殴られても仕方がない。あまり面白がるものじゃないと思う」


 更に、ビルギッタに加勢するようにセリカにもボソッと言われたことで、ヒルデとルギナは恥じ入るように俯いた。


「……確かに、調子に乗ってたわ。ごめんなさい」


「ご、ごめんなさい」


 なんとなく、ヒルデとルギナはエリナの方に向けて謝るしかなかったが、


(実際に尊厳を傷つけられていたのはクレアさんという方なんですよね)


 と思うことは止められなかった。いや、その人に遠隔から謝罪できる訳でもないので、仕方ないのだが。


「……こほん。あたしは今でも、クレアもマリーもまとめてレンドウが娶った方が、丸く収まると思ってるわよ」


「まぁ、他ならぬ炎竜様が、自分の子孫を繁栄させることに興味がないみたいですからね」


 ヒルデは炎竜グロニクルのことをレンドウと呼ぶが、ルギナは炎竜様と呼んでいる。ルギナは年齢が若いこともあって、あまり関わりが無かったのかもしれない。


「それも全部、里の子供たちは全員が自分の子供みたいなもの、っていうシャラミド様の思想がレンドウに受け継がれたせいよね。いや、良い考え方だとは思うけど」


「そもそも龍の能力が子供に受け継がれる訳ではないし、レンドウが子供を沢山作るメリットは薄い」


 セリカはレンドウと呼べる側らしかった。


「てか、ハーレムを推奨されてますけど、ヒルデ姉だって、自分の恋人が自分以外の女も同じくらい愛してるんだ~ってなったら、嫌なタイプじゃないんです?」


 ルギナによる疑問。ちなみに、こうしたハーレムという言葉の使い方は、元々は誤用である。詳しくはゴゴってみよう。もっとも、最早元の意味で使われることはほぼないため、新しい意味の方しか知らずとも問題ないが。


「……それは……まぁ。相手の女による……としか言えないわね」


 少なくとも、あんた達であれば嫌だとは思わないわよ、とヒルデは気持ちを視線に乗せた。視線だけでそこまで伝えるのは難しいと思われるが。


「私から見てだけど。カーリー、マリー、クレアは……全員、相性最悪」


 セリカの淡々とした言葉に、そういえばそこまで考えたことなかった、まさに天啓だ、という表情を浮かべるヒルデとルギナ。


「言われてみればそうだわ……」


「じゃあ、初めから一人しか幸せになれない運命だったんですね……いや、他にも炎竜様のことを好きだった女性、うじゃうじゃいそうですけど」


 恋に破れた乙女たちに黙祷する女性たち。


 ようやく恋バナによる暴走が終わりを告げたか……と判断し、ビルギッタはエリナに向けて口を開く。


「ゴメンね、エリナ。こういう話題、苦手そうだよねん」


「え、あ……は、はい。アニマの方々は、進んでいらっしゃるのですね」


 なんとか褒める形で収めようとしたエリナだった。


「ン、まァ、別に全員が全員そうってワケじゃないと思うケド」


 一般の人間たちとそう変わらないヨ、どうかアニマを嫌わないで欲しいと取り繕うビルギッタに、


「そういうビティは、若い子供たちの前でアシュリーとイチャイチャしてたんじゃないの?」


 再び爆弾をブッ込んできたヒルデ。


「――ンだァァッ、イチャついてネーワッ!! カネを貰って護衛任務を引き受けて、護衛対象の前でイチャつくほど恥知らずじゃねンだワ!!」


 ビルギッタはくわっと目を見開き、即座に食って掛かった。


 烈火のごとく怒り狂っているのかと思ってエリナは当初こそ引いたが、手を挙げていないあたり、ビルギッタはブチ切れているという訳ではないのかもしれない。どちらかと言うと、恥ずかしがっているのだ。


「つーか、アッシュと関係を持ってることを今まで子供たちに知られずにやってきてたンだワ!! 何なんだよマジでこの色ボケどもガァッ!!」


 吠えるビルギッタ。アッシュとは、かつて無統治王国で活動していたアシュリーが傭兵となってから偽名として使っていた名前だが。ビルギッタの場合は、既に愛称のように愛着が湧いているらしい。


(ビルギッタさんとガーランドさんは、お付き合いされていたんですね……)


 エリナには全く気づけなかった。上手く隠していたというか、先ほどビルギッタ自身が言った通り、子供たちに対する配慮があったのだろう。本当に、第一印象からは考えられないほど、優れた人格を持つ人物だった。


「“ども”ってまとめられた……今は私は何もしてないのに……」


 と、後ろでがっくりしているルギナ。


(ヒルデさんとルギナさんはヒートアップしやすいというか、秘密を隠すことには向いていないみたいですね)


 良く言えば素直で表裏がない、しかし悪く言えば失態を犯しやすいということでもある。


 あまりにもヌルっと明かされていたものだからスルーしそうになっていたエリナだが、よく考えると、いつの間にか「フェリス・マリアンネもまた炎竜グロニクルに恋していた」という情報まで手に入れてしまっていた。とんだ情報漏洩マシーンどもではないか。


 エリナは、自分と千草、蓮周りの混沌とした恋愛状況だけは、この人たちに漏らしてはならぬと決意した。エリナには恋愛がわからぬ。激怒はしていない。


「でも、普段は隠してないじゃない。今回の旅が終わる頃には明かすはずだったんでしょ」


 ビルギッタはかなりヒートアップしたが、今回のヒルデは悪びれなかった。


「そうだけド。エリナは聖職者なんだよん。汚れた大人だっテ、嫌われたくなくテ……」


「それだけ仲良くなれてるなら、もう大丈夫よ。そうよね、エリナ?」


 ヒルデのその判断が間違っているとは、エリナも思わなかった。


「はい。別に、ビルギッタさんがガーランドさんと二人きりの時に……その、何をされていようが、私は何も……気になりませんよ」


 ただ、その台詞を言いながら、顔面は再び真っ赤になってしまっているが。最早湯気すら出そうな有様だ。


「――イヤ絶対気になってるジャン!! とりあえず今回の旅の最中は、何にもやましいコトは無かったヨ!?」


 ちなみに、水竜メロアを神とするメロア正教では、「汝、姦淫することなかれ」といった戒律は存在しない。故に、若いうちから恋愛にかまけている学友を見ても、エリナは特に悪感情を抱いたことはなかった。ちゃんと勉強しろよと思ったことは何回もあるが。


 吸血鬼とアニマのハーフであるビルギッタと、ただの人間であるガーランドの間に子供が出来るとは思えない。それは即ち、子孫を残すこととは関係なく好き合えたということであり、エリナはむしろ尊いことだと思った。


 顔を赤くして、両手を振り回すオーバーリアクションと共に弁解するビルギッタを見て、エリナは(可愛い人だな)と思うのだった。……顔面は、エリナの方が赤いが。



 女子会が想像以上に長くなって、何度も分割することになりましたわ!(お嬢様)


 少しは成長したものの、それでもやっぱり失態を演じてしまうヒルデも好き。反省を繰り返して大人になっていこうね。……好き好んでクレアの失恋を描いてた作者が言うことじゃねーなこれ。


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