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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第2章 悪路編 -サバイバルな道中と静かなる破壊者-
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第32話 続女子会……リーオン公レイネについて

 本日2回目の更新です。第31話を先にどうぞ。



 今回レイネが公爵位を授かる以前から、≪氷炎戦争≫にて英雄の一族となった氷竜は、王国から好意的に受け入れられていた。


 もっとも、その多くは炎竜グロニクル率いる炎竜一派を追撃するために暗黒大陸へと渡り、ベルナティエル魔国連合と共に行動していた(まぁ、これは建前なのだが)。そのために、長らく恩賞の授与が先送りにされていたのだ。


 この度、氷竜のナンバーツーとも言えるレイネが戻ったことにより、王国は正式に彼女に対して公爵位を授け、領地を与えることにした。


 王国の民の中には「その位は、龍である氷竜ナージア様にこそ相応しいのでは」という意見もあったが、他ならぬ氷竜たちが納得しているので、そこに関しては問題はないだろう。


 氷竜からすれば、氷の初代龍アイルバトスから龍の座を引き継いだナージアは自分たちが頂くシンであり、それはすなわちメロアラントを治める神、水竜メロアと同格だ。


 人間の王であるエヴェリーナ・イスラ・ドールがナージアに対して公爵位を進呈するとなれば、それはむしろ「王に対し神を隷属させる意思がある」とも取れてしまう。


 あくまで魔人の範疇にある、ナンバーツーである氷竜レイネを公爵にした方が、氷竜にとっても王国にとっても、収まりがいいという話だった。


 ――レイネに与えられた領地、リーオン島。


 かつてライオンが王者として君臨していたというその島は、三百年前の魔王レメテシアとの戦争に巻き込まれ、既存の動植物の殆どが一度滅んでいる。故に、今はライオンは一匹も残っていないらしいが。


 王国の首都ロストアンゼルスの東の海に浮かぶ、面積にして六百平方キロメートルほどの孤立大型離島。現在はそこにレイネを城主とするための城と、氷竜たちが暮らす城下町を建設中だという。


 リーオン島全体が公国扱いとなり、国名は既にリオ・デ・ネレイドに決定している。通称リオ。世界大会を開催しそう。


 そして、公爵位と共にリーオン島という領地を与えられたことを踏まえ、レイネは己の名前をリーオン・デ・レイネへと改めた。≪獅子のレイネ≫という意味だ。


 元から氷の竜族なのに獅子とはこれ如何にといった感じだが、領地の名前から取っているので仕方がない。まぁ、ゴネればリーオン島の名前自体を別のもの……バトゥス島やナージア島、レイネ島等に変えさせることもできただろうと思われるが。


 そんな現在の彼女を、一般の民草が非礼にあたらないように呼ぼうと思うと、「リーオン公レイネ」となる……という話を、ヒルデはつらつらと述べた。


「──ふぅ。この下手くそな説明で、なんとか伝わってるといいんだけど」


 地頭が悪いわけではないのだが、幼い頃から戦いに明け暮れ、勉強の類を苦手としているヒルデには、これだけの情報量を整理して伝えるのは大変なことだった。


 この場ではエリナとセリカが学力がある方に分類されるが、エリナは情報を受け取る側で、セリカは無口だった。さもありなん。


「えーっと、アタシの頭でちゃんと理解できてるカナ……。つまり……次にレイネに会った時は、「リーオン公レイネ様」って呼ばなきゃダメってことカ?」


「いや、あんたはそもそも帝国にアニマ混じりだってことがバレたんでしょうが。なら、もう表でレイネに会える訳ないでしょ。裏でこっそり会うなら、今まで通りでいいと思うし」


「それもそーカ」


 ヒルデという女性は気の強さをありありと窺わせる喋り方をしているが、ビルギッタはそれを意に介した様子が無い。今までもずっと、この二人はこんな感じでやってきたのだろう。


「――公爵サマになったってことは、レイネはすぐに結婚するってコト? 政略結婚っつーノ……友好関係を保とうと思えば、やっぱり相手は人間になるのカ?」


「いや別に、貴族になるイコール、即結婚って訳じゃないんじゃない? それに世継ぎの問題があるから、子供が出来ない相手との結婚は、基本的にはないと思うけど」


 ヒルデの言葉に、ビルギッタは「ン?」という顔をした。


「氷竜と人間ってガキができねーのカ? 氷竜って元々、≪名無しの種族(ネームレス)≫だったんだロ? だったら、フツーにハーフが生まれそうなもんだけど」


 己が身を置いた環境に即座に適応する≪名無しの種族≫なら、確かにどんな種族との間にも子供をもうけられる可能性は高いだろう。人間社会で暮らすようになった“名無し”が、一晩にして人間と見分けのつかない姿にまで変化したという話もある。


 しかし、


「今の氷竜についてを一番よく知ってる、他ならぬ氷王ナージアの見立てよ。長らく閉鎖的な環境で暮らしていたから、今はもう完全に氷竜っていう種族として定着しちゃったんでしょ。今更あいつらが別の姿に変わるとは思えないし」


 かつては……二百年程前には、どこにも帰属できない苦しみを抱える、≪名無しの種族≫であった魔人アイルバトス。それがある日、氷の初代龍として上位存在に認められ、己の同族となる氷竜を創出できるようになった。


 それが今では数百を超える人口を誇る、固定化された≪名有りの種族(ネームド)≫となり、氷竜の一族は英雄として人間界に迎え入れられ、仲間たちと楽しく暮らしている。


 何とも心温まるストーリーだ。「氷竜アイルバトスと英雄たちの成り上がり」というタイトルで本を出版してもいいかもしれない。


 成り上がりというタイトルの割に、一族が英雄になる寸前で主人公が亡くなってしまう、なんとも物悲しい本になってしまうだろうが……。


 とにかく、そうして元から世界に存在する、吸血鬼や妖狐といった種族に匹敵するほど固定化に成功した結果、逆に他種族との間に子供が出来にくくなったのは……まぁ、仕方がないことだろう。


「こう言っちゃアレだけど、たった二百年程度で他種族とガキが出来ない程に定着すんのナ」


「本当に、二十年そこらしか生きてない奴がいう台詞じゃないわね……」


 己が生きてきた十倍ほどの年月を「たった」と表現したビルギッタに、それは充分“悠久”の範疇に含まれる時間だろう、と呆れたヒルデ。


「でも、炎竜様は“名無し”のカーリー様を王妃として迎えて、子供も問題なくできてますよね?」


「――ちょ、このバカ……ッ」


 そこで失言したらしいルギナの頭部を、ヒルデがバシッと叩いた。


「ご、ごめんなさい~!」


「……えっと、エリナ。今のは聴かなかったことにしてもらえるかしら?」


 妙に神妙な面持ちでそう言われるものだから、


「はい……」


 エリナとしては、そう返すより他なかった。


(炎竜グロニクル様には、既にお子様がいらっしゃるのですね)


 確かに、それは他勢力には隠しておいた方がいい事柄なのかもしれない。特に、世界から悪とされている炎竜一派の場合は。


 小さな子供など、常に人質として狙われる可能性を持つものなのだから。実際に誘拐された経験があるエリナは、そこに思い至るのが早かった。


「コホン。とにかく、あそこの夫婦に子供が出来たのは、龍の力で特別に色々やった結果だから。普通は出来ないわよ」


 それだけ聞くと、まるで生命の倫理に反する邪悪な儀式でも執り行ったように聴こえてしまうが……。特に件の夫婦に怪物の子が産まれている訳では無いので、読者諸君は安心してほしい。


「でもでも、吸血鬼と人間のハーフ……ほら、ヴァンパイアハーフってよく聞きません? その理論なら、普通にできちゃいそうな気もしますけど」


「それは創作の中の話。現実ではあり得ない」


 人間界の娯楽小説でも読んだのであろうルギナの台詞に、セリカがボソッと反論した。


 吸血鬼はルーツが不明で、もしかすればアニマや氷竜のようにどこかの龍が太古の昔に創出した種族なのかもしれないが。


 それを為した神が姿を現したことがない現状、吸血鬼という種族を創り変える方法もまた、存在しない。


 同族か、良く似た遺伝子配列であるアニマとの間にしか、吸血鬼は子孫を残せないのだった。


 それにしても、吸血鬼を創った龍が存在するというなら、多くの弱点を設けたのは一体どういうことなのか。よっぽど性格の悪い神だったのだろうか。


「まぁそもそも、氷竜と他種族で恋愛関係になる奴がいくつも出ない限り、氷竜とそれ以外に子供が出来るのかどうかは、本当の意味じゃ確かめられないでしょうね」


「試しにヤりまくってみろ、とは言えないっすもんね~」


 ヒルデに同調するようなルギナの言葉は、余りにも配慮がないというか、直球だった。


(ヤっ…………)


 その下品な響きに、耐性を持たないエリナは真っ赤になってしまった。


 女性しかいない場所では往々にして下の話題が横行することは何となく分かってはいたが、エリナは実際にそういう場面に遭遇することは非常に稀であった。メロアラントの四華族であるエリナに向けて、礼節を欠いた話題を振る学生は存在しなかった故だ。


「でも、他ならぬヒルデがその第一号になる可能性はあった。ナージアはあなたに好感を抱いていたし」


 落ち着いた雰囲気のセリカは怖いものがないのか、普段通りの口調で話を振る。


 このヒルデという自信家のアニマは、かの氷王ナージアに口説かれた経験を持つのか。エリナは驚きの目を向けた。


「……あのねぇ、どうしてあんたたちはそう、他人の個人情報をバラ撒くことに躊躇いがないのよ。――まぁ、別に? あいつがあたしを好きになっちゃったってだけで、あたしはあいつのことをどう思ってたって訳でもないけど?」


 ジト目になったかと思えば、言葉の半ばから腕を組み、そっぽを向きながら言ったヒルデ。照れているのだろうか。ツンデレの波動を感じる。


「ううっ……本当は憎からず思っていたのに、自分と一緒になれば英雄たる彼の迷惑になると思い、泣く泣く身を引いたヒルデ……うう、可哀想」


 無表情なまま、両手で目を覆うようにして、芝居がかった口調で言ったセリカ。分かりにくいが、どうやらヒルデで遊んでいるらしい。感情が薄いように見えて、意外と楽しい性格をしているのかもしれない。


「今からあんたを殺すわ!!」


「ちょ、ステイステイ……!」


 宣言してから両手を振りかぶったヒルデを、後ろから羽交い絞めにしたビルギッタ。


 なぜ、初対面の相手に囲まれたアウェイな状態で、恋愛についての話を延々と聴かされなければならないのだ。拷問か、とエリナは顔を赤くしながら押し黙るのだった。



 少しずつ前作キャラの近況を明かしていき、悦に入る作者です。


 前作では主人公から「やっぱり俺は圧倒的にセリカお姉さん派だ。こいつ、ヒルデはガキ臭くて敵わねェ」などと思われてしまっていたヒルデ。前作187話ではとんでもなく子供っぽい行動を取ってしまっていたヒルデ。


 それが今では、ビルギッタやルギナに対してお姉さんぶった態度を取っているのが好き。


 まぁ、更にお姉さんであるセリカには、結局いじられてしまう運命なんですけど。


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