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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第1章 出立編 -水竜が守護する地-
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第20話 今はまだ出会う時ではない魔王


 ――場所はイェス大陸、紛争地帯。……その、更に南部。


 特に険しいオリエンタル山脈に遮られた、人類未踏の地。


 帝国が定めたこの一帯の呼称は≪アネクスプロード≫。


 固有の種族名すら付けられていないような、人類との戦闘記録もほとんどない異形の怪物が闊歩し、“危険種”の魔人がその日のねぐらを求めて徘徊する地。


 その奥深く、荒涼とした半砂漠。遠くには森林部も見えるが、それは年々縮小し、砂の大地へと変貌していく。その現状を憂いるような人類も、この場所には存在しない。


 ――今までは、存在しなかった。



「……レ……ン……」


 その鳴き声が時折、夜空を裂くように響き渡るようになったのは、ここ数年のこと。


 この半砂漠という他の生物が好んで利用しない環境に目を付け、隠れ蓑として生活することを決めた集団が現れてから。


「…………レェェェェェェェェェェン…………!!」


 絶叫の主。気が狂ってしまったそれを()()するための場所として、彼らがこの地を選んでからのことだった。


 一度目に封印された際、それは実に半年近くにも渡って眠り続けていた。


 が、その()()()()()が一度破られてからは、再度封印を施しても三ヶ月で目覚め、次は一ヶ月で目覚め……と、段々と効き目が薄くなっていることは、誰の目にも明らかだった。


 ――それを殺さずに解決するための時間は、刻一刻と失われている。


「……ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 喉が避けるような絶叫。それは、内なる破壊衝動に抗おうとしている故に迸るものだった。しかし、傍から見ている者にとっては、悪魔が快哉を叫んでいるようにしか見えない。


 それを見て、同情を浮かべる人間は存在しないだろう。殆どは身の危険を感じて逃亡するか、その脅威の消滅を願うはずだ。



「どうするの?」


 砂漠の中にぽつんと建つ古代遺跡。そこから姿を現し、吠え猛る怪物の鳴き声。遠く、周囲に背の高い木々が生い茂っている台地の縁に立つ、一人の魔人が問いを放った。


 長い白髪の間から、兎を思わせる長い耳が天を突いている。女性の魔人だ。


「とりあえず、また一回大人しくさせるしかないだろうな」


 応じたのは、赤い髪を持つ魔人。


 高い身長に、黒で統一された威圧感のある衣服。自信を窺わせる表情を浮かべたその顔の造形は、敵対者が悲鳴を上げて逃げ出す程度には凶悪だと、仲間内で揶揄されている。


 その身体から立ち上るオーラは、最早意識して隠し通せる類のものではない。


 人ならざる者。それだけに留まらず、尋常な魔人ならざるもの。


 目にした生物全てに畏怖を与える存在感は、まさに“魔王”という言葉こそが相応しい。


「……その後のことは、皆で考えようぜ。この方法での対処は、今回で限界かもしれないしな」


「うん、私もそう思う」


 ――俺たちの強みは、あらゆる悩みを共有できる、最高の仲間たちに囲まれていることだ。


 兎耳の魔人と頷き合った後、魔王は跳躍した。


 台地を駆け下り、地面が砂へと変わる手前で跳ぶ。地を蹴り出すことによって生まれた推進力が減衰してくると、今度は背中から実態を持っているようにしか見えない黒い翼を生やし、飛行した。


 見る見るうちに彼我の距離は縮まり、初めは百メートル以上あった絶叫の根源は、既に目の前と言ってもいい距離にあった。


 十メートルと離れていない位置に着地すると、魔王は両手を広げ、そこに紅蓮の炎を噴出させた。


 雲一つない夜空に浮かんでいた満点の星々が、地上付近で発生した光の奔流にかき消される。


 その明るさに、正気を失った怪物ですらも目を奪われた。


 炎に着色され、橙色に輝く怪物の髪。その元の色は、白色。


 ――否、その更に元は、水色であった。


 ()()()()()()()()()()()()、とある龍との対決に敗れ、心を壊されてしまう以前には。


 明るさに目を細めていた怪物が、その炎の奥にある魔王の姿を視認し、理解した瞬間。



「……レェェェェン……ドォォォォォォォォォォッ!!」



 目を剥いて、唾液を撒き散らし、両腕を振り回した。その両手の先に、白く光る双剣を出現させ。魔王へと迫る。


「――なんだよ、途中まで愛しの弟の名前を呼んでるのかと思ったぜ」


 乾いた笑みを浮かべると、魔王は指揮を執るように両腕を振り上げた。炎が踊り、それだけで怪物が手にした白い剣はかき消された。


 大砲のような音が響き渡る。魔王の右の靴裏が、怪物の胴体のど真ん中を捉えた音だ。


「……俺はまだ悲観しちゃいないぜ」


 吹き飛ばされ、地面に伸びた怪物を悲し気に見下ろしながら、それでも魔王は笑ってみせた。


「俺はまだなんにも諦めちゃいない。この世界のことも、俺達のことも。それに、お前のこともな。――――(まもる)


 それでいいんだろう、ルノード?


 今は亡き先代の“焦土の魔王”のことを想いながら、炎王は怪物を抱き上げた。



【第1章】 了



 お読みいただきありがとうございました! これにて第1章は終了となります。


 ここまでで本文が15万文字を超えているため、余裕でライトノベル一冊分以上を読んでいただいた形になりますね。


 とりあえず、風呂敷を広げられるだけ広げてみました。前作まで含めて十二年ほど考え続けている世界の物語となるため、細部まで設定を練り込んでいる自信はあります。物語がどういった方向に進むのか予想しづらい、混沌とした群像劇が好みな方にこそ刺さるといいな。


「前作のキャラに頼りきりになりたくない」という想いがあるため、しっかりと新キャラを軸に物語を展開していくつもりです。既に何人か前作から引き継がれたキャラが登場していますが、その殆どは元チョイキャラです。出番が少なかったキャラにこそ、今作では活躍して欲しいので。


 また、一部のキャラは「前作とは異なる名前を名乗っている」場合があります。答え合わせが出る前からどのキャラが偽名であり、どの前作キャラなのかを予想できた方は、千草よりも探偵の才能があるかもしれません。


 本編第2章も、第1章と同じようにある程度書きためた状態から投稿を開始したいと思っています。最速でも2022年10月以降になりそう。


 この後に「設定資料:世界地図」が既に一つ同時公開されており、一日後に「設定資料:イズランドにおける人種1」、更に翌日に番外編が一つ予約投稿されています。よろしければそちらもお楽しみください。


 ではでは、またお会いできる日を楽しみにしています。バイバイ!


(前作を読んでいない方はそちらも是非……)


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