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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第1章 出立編 -水竜が守護する地-
19/93

第18話 神明家と、教会騎士長エルヴィス・アルジャノン・ハンフリー・ドナフィー


 功牙と共に傭兵ギルドを訪れ、Sランク傭兵であるガーランドとビルギッタに出会ってから、更に二日後。


 旅立ちの日まで残り三日となった今日、蓮は生家を訪れていた。


 最後に帰ったのは一か月近く前。その際には、父親と顔を合わせてすらいない。


 リンドホルム学園の学生寮にあった荷物を、エドガーに手伝ってもらいながら、自室へと運び込んだだけの僅かな帰省だったためだ。


 和風建築であり、二階建ての屋敷。主に杉を使って建てられており、青く塗装された瓦屋根が目を引く。


 縦に長い長方形の曇りガラスがはめ込まれた、スライド式の扉。滅多に使うことのない鍵を取り出し、鍵穴を回す。


 扉を右に向かって開けると、相も変わらず閑散とした廊下が広がっている。


 大きな屋敷である割に、執事やメイドといった使用人の類もいない。


 当主である神明堅、その妻であった浄見(きよみ)が存命だったころは、この屋敷の雰囲気はもっと明るく、使用人も大勢雇われていたのだというが。


 浄見が二人目の息子となる蓮を産むと同時に体調を崩し、そのまま亡くなってしまったことを皮切りに、神明家は落ち目の一途を辿っていった。


 堅は息子たちだけには当たらないようにしながらも、確実に精神を病んでいた。


 水竜メロアが眠りについて久しい白猿湖(はくえんこ)は観光地としての役割を失いかけ、神明家が新たに着手していた新事業となる海水浴場の整備も、海から現れた未知の怪物によって頓挫した。


 襲い掛かる災厄に、精神的に消耗していた堅が適切に対処できるはずもなく……。


 結果として、神明家は家財の殆どを売り払い、使用人たちも解雇することになったのだった。


 今では二週間に一度、屋敷の掃除を業者に依頼しているのみとなる。


 汚職――≪ミル≫の密売のことだ――にまで手を染めて金を手にした堅ではあるが、それは私腹を肥やす為ではなかった。あくまで事業の失敗によって抱えた負債を補填するため、また、解雇することになった使用人たちの当面の生活費を工面してやるための、苦肉の策だった。


 ……そういった善の側面が無ければ、蓮もまたとっくに父親に対して愛想をつかし、縁を切っていただろう。


(オレが産まれたのを期に家が落ちぶれたのは事実だから、オレを疫病神のように揶揄する連中がいるのも、まぁ理解できなくもないんだよな)


 だが、蓮だって別にわざと母親を殺そうと思って生まれてきた訳ではない。というより、蓮を産んだのは母親の意思だ。


 ならば、それを気に病んで委縮し続けるよりも、自らの力で落ち目の神明家を再興させてやりたい。蓮はそう考えている。


 もっとも、功牙という師に出会うより以前。敦也に対して負け続けていた頃の蓮は、もう少し意思が弱かったのだが。


「お前、母親を殺して産まれてきたんだってな!」と上級生に煽られたのは、いつのことだっただろうか。蓮は最早覚えてすらいない。その上級生の顔面に、千草の拳がめり込んだことだけは記憶に焼き付いているが。あれはまさにスカッとメロアラントという感じだった。


 ――自分を産んでくれた母親には、何とかして報いたい。


 ――だがしかし、覇気を失った今の父親と顔を突き合わせるのは苦痛だ。


 という相反する想いを抱え、蓮は理由をつけては家に帰らないことが多かった。問題を先送りにしていることを自覚しつつも……この家にいても、息が詰まるだけだから。


(いっそ他の国で手柄を立てて爵位でも貰って帰って来れれば、オレの心的負担が少ないまま神明家を再興できる気もするけど……)


 蓮はいつしか、不仲な家族との関係を改善しようとすることを諦め、会社での地位向上のみに傾倒した俸給受領者(サラリーマン)のような思考に陥っていた。なんかキャバクラにハマりそうなタイプ。


(和風建築の……玄関で靴を脱がないといけない感じ、もう落ち着かないんだよな)


 三和土(たたき)の上で、座り込むことなく靴を脱ごうとしながら蓮は考えた。


 まず右足で軽く左のブーツを踏んで、左足を僅かに引き抜……こうとして、やめる。


 つい昨日、功牙に送られたばかりである新品のブーツを、雑に扱うことに躊躇いを覚えたのだ。


 どうせ旅に出ればすぐに汚れることになるのだろうし、功牙も全く気にしないのだろうが……せめて旅立ちの日までは、綺麗に保っておきたいという想いがあった。


 今のメロアラントは戦乱の世という訳ではないが、功牙の教えを受け、“いつ何時(なんどき)戦いに巻き込まれても対応できる精神性”を鍛えられている蓮には、屋内に入る際に靴を脱ぐという行為そのものが、大切な防具を手放しているようで落ち着かないのだ。


(このブーツを盗まれるのは絶対に嫌だし)


 平和な国に生きる者でも、こういう風に考えれば理解しやすいかもしれないという例を一つ紹介する。


 家の中で泥棒に遭遇し、最初は逃げるそれを追いかけようと思える、心身ともに壮健な人物であったとしても。


 いざ玄関に到達したところで、そこにあるはずの自分の靴が隠されていたとすれば、その時点で追いかけることを諦める者が多いのではないだろうか?


 自分の足を守る防具が無い……つまり裸足の状態で家の外に出るということに、多くの人間は抵抗を覚える。蓮のように戦闘訓練を受けた者であれば、尚更という訳だ。


 入り口で脱ぐことを強制されたとしても、本当は有事に備え、屋内でも常に靴を携帯し続けたいところだが……儀礼的に、それが許されない場合も多い。


 余所にお邪魔している場合は、家主より「君は今からこの場所で戦いが起こると考えているのかい?」と取られかねないためだ。


 となれば、蓮のような戦闘民族(必ずしも戦闘狂という意味ではない)は、訪れる全ての建物が洋風建築であってくれ……と祈るしかない。


 結局玄関に尻を付け、座り込む形でブーツを脱いだ蓮。それを揃えて脇に寄せる際、家主のものではなさそうな黒い半長靴(はんちょうか)が既にちょこんと置いてあることに気付く。


 軍靴(ぐんか)と言ってもいい。複数のベルトでしっかりと締めて固定する、戦闘に耐える上質な代物だ。


(……メロア正教から教会騎士が来てるのか?)


 最初になぜ、と疑問を抱き、でもまぁ別におかしくもないか……と蓮が腰を上げたところで、廊下の向かいから人影が姿を現した。


 廊下の突き当りを右に曲がった先に、堅の書斎はある。そこから出てきたということは、つい今まで堅と何かしらの話をしていたのだろう。


 堅の姿がなく、一人で神明家の屋敷内を歩くことを許されていることを見ても、その人物が堅に信頼されていることが分かる。


 というか、殆どの人間は、メロア正教に所属する聖職者というだけで無条件に信じてしまうだろう。


 そして蓮の“心眼”もまた、その人物が悪人でないと判断している。


 身長は蓮とそう変わらない。百七十センチくらいだろうか。聖職者というイメージに相応しい、線の細い男性だ。回復魔術とかが得意そう。いや、別にゴリマッチョだと教会に所属できないなんてことはないが。


 水色の髪をミディアムに、左右に流すように分けている。丈の長い灰色の聖職衣は、腰の部分でベルトによって締められ、そこにはメイスが吊り下げられている。


 メイスはただベルトに吊り下げられているだけでなく、石突の部分から伸び、ベルトとの間に垂れさがっているチェーンによっても固定されている。それによって、メイスを敵に奪われることを防いでいる形だ。


 年齢は……かなり若く見えるが、成人していないとは思えない。


 突然現れた端正な顔立ちをした見知らぬ男性、その気品さによって醸し出される気迫のようなものに、蓮が一歩引き気味になっていると。


 蓮の前で立ち止まった男性が、右手を自らの胸に当てるようにしながら会釈する。


「堅様のご子息の、蓮様ですね? お初にお目にかかります。私はメロア正教にて教会騎士長の十位を務める、エルヴィス・アルジャノン・ハンフリー・ドナフィーと申します」


 ――名前なっが! ……と一瞬面食らいつつも、蓮は即座に口を開く。


「……あ、はい。オ……私が蓮です。よろしくお願いします……ドナフィー卿」


 言葉遣いと相手の呼び方、これでいいんだよな……? と、言い終わってからも不安が拭えない蓮に、聖職者はふっと柔らかい笑みを浮かべた。


「そう緊張なさらずとも大丈夫ですよ。私の位は高くありませんし、どうか普段通りの口調で。私のことは、気軽にエルヴィスとお呼びください」


「は、はぁ……では、エルヴィスさんと」


「ええ」


 エルヴィスの言葉は、謙遜と取っていいのかは微妙なラインだった。


 メロア正教において戦闘を担う教会騎士は、まず一番上に教会騎士団長を頂く。


 その下に、数十名の教会騎士を束ねる、十人の教会騎士長が存在する形だ。


 教会騎士団長ですらもメロア正教の主教たちに使われる立場であることを考えれば、確かに騎士長の一人とは、そこまで多くの権限を持つものではない。それに、第十位ということは、最も新しく任命された騎士長なのだろう。


 もっとも、その年若い外見にして既に部下を持つ立場にあるということは、類まれなる能力を窺わせるが。


 そもそも騎士とは“護るべき君主に仕える者”を意味し、帝国では五等爵の更に下にあたる、準貴族として扱われている。


 メロアラントでは貴族(華族)制度がそこまで厳密に定められてはいないため、騎士に対して大袈裟にへりくだる一般市民は少ないが……。


(一番扱いに困るタイプの人じゃん)


 相手に同じく、高位の貴族という訳でもなければ、まったく無名の家柄という訳でもない蓮としては、即座にどういう態度を取ることが相応しいのか判断に困る。


 ここ蛍光院領にも、婚約者であるエリナが暮らす水竜教会の総本山があるため、蓮は騎士団長とは面識があった。


 にも関わらずエルヴィスの姿と名前には覚えがないので、長らく他の領地で任に当たっていたのだろう。リヴィングストン支部あたりだろうか。


 ちなみに、水竜教会の総本山が蛍光院領にあるのは、当然そこに水竜メロアが居を構えているためである。地上にある水竜教会自体はそれほど大きな建物ではないし、大聖堂と言えるような建造物も見受けられない。強いて言うなら、メロアが眠っていた水竜の神殿そのものが、大聖堂に当たるのだろう。


「エルヴィスさんは、今日はどうしてうちに?」


「この度、晴れて蛍光院領に赴任することになったもので、近々メロア様にご挨拶する機会を賜っております。その際に必要な礼儀作法や留意点などを、何度かに渡って堅様にご教授していただいているのです」


「なるほど……」


 エルヴィスはどうやら、既に何度かこの屋敷に訪れていたらしい。まぁ、初めて訪れたのであれば、一人で屋敷内をうろついているのは相当におかしいので、妥当なところだが。


 もしかしなくとも、エルヴィスはこの地に赴任してくる以前から、堅と面識があったのだろう。


(ってことは、オレが全然この家に帰ってきてないことも、親父との仲が良くないこともバレてそうだな……)


 知られているからとって、それを大っぴらに態度や口に出すほど、蓮は子供ではないが。


「では、私はこれで失礼します」


「はい」


 再び会釈した後、蓮の横を通り過ぎるエルヴィス。蓮はその背中をつい追ってしまい、彼が半長靴を履くところをぼーっと見つめていた。


 大量のベルトに苦戦している……という程でもないが、一瞬で履き終わるタイプの靴でもない。


 早々に視線を外し、さっさと父の書斎へと歩きだしても良さそうなものだったが、――あるいは父親に会う時を遅らせたかったのか――蓮は、エルヴィスの背中に向けて口を開いていた。


「あの、エルヴィスさん」


「なんでしょう?」


 右の半長靴を履き終わり、左足に手を掛けながら、エルヴィスが振り返らずに応じた。


「…………うちの父親は、汚職に手を染めていた訳ですけど。メロア正教の人たちは、それを罰しようとかは考えないんですか?」


 神獣≪ミル≫の密売は、蓮の倫理観に照らし合わせれば、とんでもない重罪だ。


「ふぅむ」


 エルヴィスは左の半長靴のベルトを締める手を止めた。かといって蓮の方を振り返るでもなく、左手を顎に当てると、


「――それが、蓮様が堅様に対して感じている、わだかまりの原因なのでしょうか」


「……いや、それだけとは言い切れませんけど」


 汚職に手を染めたこと。


 それによって兄が家出してしまったこと。


 兄が家出したからこそ、自分が跡継ぎになり、千草と結ばれるのが難しくなってしまったこと。


 それらの全ては連なっていて、その元凶とも言える父親に対してばかり恨みを向けてしまう蓮。


 その内情の全てを、エルヴィスが正しく推察できるはずもないが。


「メロア正教としては、堅様を罰しよう、罰するべきだなどとは考えません。彼の行いは止むに止まれぬ事情があったためのものであるとメロア様が判断し、不問にしているのです。あの方の元にいる者たちが、それに異論を唱えることなどありません」


(さすがメロア正教って言えばいいのか。学園の奴らとはえらい違いだ……)


 別に蓮はリンドホルム学園において、父親の汚職の件でいじられたり、悪質ないじめを受けたりしている訳ではない。というか、そもそも神明堅の汚職行為は一般人には周知されていない。


 ただ、蓮の輝かしい才能に嫉妬した生徒たちの一部が、蓮と敦也の対立を煽ったり、水風船を投げて来たりなど、ささやかな嫌がらせを続けてくることと。


 如何に教師陣がそれを諫めようとしても、閉鎖された環境では中々払拭し切れない雰囲気が形成されてしまっていることをよく知る蓮は、そうした線引きがしっかりと徹底されている、メロア正教の在り方が信じられないのだろう。


 子供には子供の社会があり、大人には大人の社会がある。そして蓮は、大人の世界をまだ知らない。


「その、エルヴィスさん個人の意見としてはどうなんですか?」


 本来ならそこで引き下がっても良かったのだが、蓮はこの年若い聖職者なら、もしかすると子供の立場に近い観点から物事を捉えられるのではないかと思った。


 歯に衣着せぬ言い方をするなら、頭の固いおっさんなら絶対に漏らさないようなことも、彼ならポロっと零してくれるのではないかと考えた。それはそれで、エルヴィス騎士長を下に見ているようで、あまり褒められた行為ではないのだが。


「私個人ですか? ……私個人としても、堅様の生き方に大きな間違いがあったようには思いません。確かに、堅様がお金を工面するために最終的に行った行為こそ、悪に属するものでしたが。……ですが、金銭を稼ぐということは、最早人の生活から切り離せるものではありません。自分の一族をより繁栄させるために。不慮の事故に備えるために、貯金を殖やそうと考えることは悪ではない」


 蓮は意外そうに目を見開いた。なんとなく、宗教家というものは金に無頓着というか、「貧しくともよいのです」みたいな精神性をしているものだと思っていた。


「結局は海水浴場を整備しようとした計画……つまりは金銭を儲けることには失敗し、その負債に追われてしまった訳ですが……。失敗することは、悪ではありません。堅様が汚職に手を染めたのも、使用人の方々の生活を保障するためのものだったと聞いています」


「それは、まぁ……」


 そうでなければ、水竜メロアも堅を許した筈が無いだろう。


「もっとも、失敗してしまうことが悪ではないとしても。それによって迷惑を被った蓮様に、父上に対しての恨みがあるのもまた、仕方のないことかと私は考えます」


「…………」


 エルヴィスは言うことが纏まったのか、再びベルトを締める作業を再開していた。


「私が思うにですが……メロア様に許されたとしても、堅様は既に罰を受けています。いえ、既に罰を受けていると考えたからこそ、メロア様は許されたのかもしれません」


「えっ……と、それはどういう?」


 謎かけのような言葉にも感じられ、蓮は混乱した。


「長男である守様は家出され、蓮様からは常に厳しい態度を向けられ続ける。そんな生活に、堅様は酷く苦しんでおられます」


 いよいよ半長靴を履き終わり、立ち上がったエルヴィスが振り返って、蓮に向けて寂しそうな笑みをたたえた。


「――蓮様、どうか……あの方が立ち直る為にも、長らく家を空けることになる今回の旅の前には。彼を前向きにさせられる別れをお願いできませんか」


 真摯な視線を向けられ、蓮はたじたじになりながら、ゆっくりと口を開く。


 エルヴィスの言うことが正しいことは理解している。罪を犯したとしても、既に堅は充分に反省している。反省を促すために罰を与えるという工程が省かれているだけなのだ。そして、それを決めたのはメロアラントの最高指導者。


 誰も問題にしないようなことで、()()()()()()()()


 ……いや、むしろ公的に許され、誰もそれを理由に神明堅を責めることが出来ない世の中だというのに。息子であるというだけで、自分だけが合法的に堅に対して悪感情を向けられる立場に甘んじている。


 ――メロアラントの為にならない行動を取っているのは自分の方だ。


 そこまで考えた時点で、蓮は何も言えなくなり、一度は開いた口を閉じていた。


 どちらかと言うなら、蓮が態度を軟化させることで堅の精神面が回復することを狙い、よりメロアラントの為に精力的に働ける状態へと戻してやることを目指した方がいいに決まっている。


 それは理解できる。理解することができた。


(ただ、オレはストレスの捌け口に親父を利用し続けていただけ……なのか……?)


 エルヴィスの最後の言葉は、蓮に対しての問いかけになっていた。にも関わらず、彼は軽く頭を下げてから扉へと手を掛け、屋敷を後にしていた。


 当然その一連の動作は蓮にも見えていたが……呼び止めることはしなかった。考えることで忙しかったためだ。


 それに、考えても尚、自信満々に「分かりました、言われた通りにやってみます!」と返せたとは思えない。


 しばらく落ち着きそうもない心臓を左手で押さえながら、蓮は屋敷の中をゆっくりと歩き、辺りを見渡した。


 兄と共に父の腕の中で笑っていた日々。その記憶に後押しされることを望むように。



 ――やがて、父親の書斎の扉をノックする頃には、既に蓮の心は決まっていた。


 どういう話の切り出し方をするのかも。父親がそれに対してどう返して来るのかも、いくつものパターンを脳内シミュレートした。


「親父」


「……あぁ、蓮か……」


 蓮の第一声は、ぶっきらぼうな感じになってしまった。


 堅の方は、息子に嫌われることを恐れている様子を隠せていなかったが。


「親父、聞いて欲しいことがあるんだ」


「……何だ……?」


「オレの、目的について。この旅でオレが何を成そうとしているのか。その為には、最終的に親父の協力も必要になると思うから」



 ――結論から言えば、この日の親子の対面は、そう悪い終わり方にはならなかった。


 七年近くにも渡って冷え切った関係が続いていた両者にとって、転機とも言える日だったと言える。


 それを助けた若き教会騎士長、エルヴィス・アルジャノン・ハンフリー・ドナフィーには、蓮は後々まで深く感謝している。


 ――名前が長すぎて、エルヴィスとドナフィー以外の部分は正確に覚えられてはいないのだが。


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