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【3章終了後に修正予定】黄昏のイズランド  作者: カジー・K
第3章 冒険者編 -坩堝の王都と黄金の戦士-
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第71話 エルフはどこから来たのか、何者か、どこへ行くのか

「どうぞ。ゴゴゴ紅茶です」


 執事のレーヴがティーワゴンを押して現れ、一同に紅茶を配膳していく。


「……強そうな名前のお茶ですね。ありがとうございます」


 お茶の名前への感想は、エリナによるものだ。

 レーヴはティーポットの中身をカップに注ぐ前に、右手で持ったカップの底から左の掌を当てていた。紅茶を注ぐ前にカップを温めておくと風味や香りが長持ちするとは言うが、数秒掌を触れさせた程度で何かが変わるものだろうか。彼は清潔そうな白い手袋を着用しているため、不衛生ということはないだろうが。


(何か、魔法の類で温めた……のか?)


 蓮が持ち上げた際には全体が暖かかったティーカップに口を付けると、名前の割に柔らかみのある味わいが疲れた身体に染み渡るようだった。“心眼”を使えばレーヴがカップを温めたからくりに気づけるかもしれないが、やはり初対面の相手の秘密をいきなり暴くような真似はできなかった。かといって、この顔を隠す銀色の仮面と同じように冷たい印象を受ける謎めいた執事と、これから先仲良くなることがあるのかは甚だ疑問だが……。


「すみません、お待たせしてしまって」

「いんや~、別にいいよ。俺は話を聴いてるだけでも楽しめるし」


 あれこれ話している間に新しい人物がどんどん入り口に溜まってきているため、副局長アドラスはどこかで一旦話を切り上げるべきか思案しているようだった。

 まだ自己紹介を済ませていない、金髪の美丈夫が明るく言った。


(もしかして、あの人が本代ダクトさん?)


 と蓮は想像していたが、まだ答えは出ない。


「……では、私の要件をお願いしたいのですが」


 いち早く訊いておきたい事柄があるのか、警察官のアルヴィドが手を挙げていた。


「アルヴィド君、なんでしょう?」


 アドラスが発言を促した。


「はい。その、そちらのスカルセドナ……さんにお尋ねしたく。エルフとは、一体いかなる種族で、何か目的としているものがあるのか。そして、多くの人命が失われた≪ランドセル襲撃事件≫……あれが起きた理由。それから、くだんの襲撃をしかけた≪パストラー≫なる組織の首魁であったエルトリルというエルフが、軍師ニルドリルと妙に似た響きの名前であることなど……質問が多くて申し訳ないが。あの事件で親戚を失ったものとして、真実を知りたいのだ」


 アルヴィドの長い質問を受けながら、スカルセドナが居住まいを正していた。元々おかしな姿勢で座っていた訳ではないが。


「……分かりました。分かる範囲でお答えします」

「――お待ちください」


 覚悟を決めた顔でスカルセドナが語り出すところをアドラスが制止したものだから、何人かは「んっ?」という顔になった。


「一応、確認させていただきたいのです。炎竜グロニクル……レンドウ君は暗黒大陸の大森林にて、エルフと、彼らを守護する木竜ぼくりゅうストラウスと対話しました。しかし、そこで話した内容を、その場に居合わせなかった我々に伝えることまでは許されなかった。スカルセドナさんには、エルフ側の事情を話すことで罰を受けるような……呪いの類が掛けられてはいないのでしょうか?」


 え、エルフの守護者、木竜ストラウスに謁見したレンドウ・グランバニエ一行って呪われてたの? とぎょっとする蓮たち。

 だが、スカルセドナは首を横に振った。


「いえ……私はその木竜ストラウスとは面識がありませんが、親代わりから教わったところによると、彼女は慈愛に満ちた存在だとされています。炎竜たちの一行にも、そして私の祖先たちが大森林を出た際にもいくつかの約束事が設けられただけで、酷い呪いのようなものは掛けられていないかと」

「なるほど。つまり、あなたは大森林を出たエルフの子孫……ということになるのですね。それ以降は、大森林のエルフのことは分からない……いや、帰らないことを条件に出奔している?」


 アドラスの見立ては殆ど正解らしく、スカルセドナが首肯する。


「はい。外の世界への興味を抱いた私たちの祖先は、“故郷に暮らす同胞に迷惑を掛けないよう努める”ことと、“木竜ストラウスの血に連なる力を捨てる”ことを条件に、森を出たのだと。二度と帰って来るなと明言された訳ではないそうですが、故郷に迷惑を掛けないこと……という条件を、二度と帰るべきではないと解釈する者が多かったようです」

「ふむ……」

「森を出たエルフの集団に、確固たる目的意識はないはずです。個体や派閥によっては人間と敵対する者もいたようですが……あいにく、私は森に暮らしていた世代ではありません。それに、≪ランドセル襲撃事件≫の折、私はまだ幼かったので……エルトリルがなぜ人間を大量虐殺してしまったのかも、分からないのです。ごめんなさい」


 思案し黙り込んだアドラスに代わり、複雑な表情でアルヴィドが口を開く。


「そうか。……“双槍の騎士”ヴィンセントの報告によれば、エルトリルが“セドナ”なる人物に呼びかけ、現場から逃がそうとしていたとされている。それは……?」

「それは……私のことで間違いないです。エルトリルたちが何をしているのかが気になって、後を追ってしまったので……」

「エルトリルと貴公の関係は?」

「……彼は、親代わりでした」


 スカルセドナは何も隠し立てしない。自分が疑われる要因になるようなことを、次々と明らかにする。信じてもらえると思っているのだろうか。それとも、他者を騙すことができないのか。

 アルヴィドは彼女の返答に目を見開いた後、拳を軽く握りしめた。


「……では、親代わりのエルトリルが敗れ、命を落としたことで……人間への恨みはあるか? 人間全体か、もしくはヴィンセント・E・パルメへの」

「ありません。非があるのはエルトリルの方だと」


 スカルセドナはきっぱりとそう言い切った。

 アルヴィドはたっぷり五秒以上も目を瞑った後、おもむろに開き、壁にもたれてため息をついた。


「ふー……そうか。では信じよう。私も、私の親族を直接殺めた訳でもないスカルセドナさんに、怒りをぶつけることはしないと誓う。貴公が人間に敵対せず、女王を護る計画に協力する限りは」

「……ありがとう、ございます」


 スカルセドナも安心したように、胸の中央に左手を当てた。

 一触即発、というほど剣呑な空気が漂っていた訳ではないが、アルヴィドとスカルセドナが敵対しないと言葉にされたことで、場の緊張感が緩んだ。


「……いや、待って欲しい。重ね重ね、疑り深いようですまないのだが。木竜ストラウス由来の力を捨てることが、大森林を出る条件だったと言ったな」

「はい」

「では、エルトリルたちが……そして貴公が使っていた、若葉色に輝く、あの植物を芽吹かせる力は何なのだろうか。あれは木竜ストラウスの血に連なる、ドラグナー特有のものではないのか?」


 確かに、アルヴィドの疑問はもっともだった。枯れ枝を含めた植物を操る能力については、木竜の血に関係なく、エルフという種族の血に宿る固有魔法だと推察できていた。だが、あの若葉色に輝く力の方は、明らかに≪クラフトアークス≫だった。その点に関しては、スカルセドナが語った内容とは明確に矛盾している。


「私も詳しくはないのですが……木竜ストラウスによって木属性の≪クラフトアークス≫を扱う権限を没収された者たちも、その後の人生によっては、それを取り戻すことが多々あったようです。それがストラウス本人の仕掛けによるものなのかは分かりません」


 スカルセドナは特に焦った様子もなく、淡々と事実を伝えて理解を求めた。


「――なるほど」


 その内容に頷いたのはアドラスだった。


「もしかすると、吸血鬼と関わったことが原因かもしれませんね」

「……どういうことです?」


 当の吸血鬼であるシラスが、アドラスの言葉に反応した。しない訳にはいかなかったのだろう。


「あくまで仮説ですが。エルトリルなるエルフは“双槍の騎士”ヴィンセントとの会話で、人間が吸血鬼の里を焼き払ったことに言及していたと聞きます。それは、エルトリルら≪パストラー≫が、里を捨てて散り散りになった吸血鬼たちの一部と接触した可能性を示しています」

「……確かに。ですが、ほぼ全ての吸血鬼はシャパソ島に渡り、剣氷鉱山に住むことになったはず……」

「そうですね。もしかすると、ですが……その吸血鬼の集団に馴染めなくなって分かたれた、純血の吸血鬼たちの生き残りに出会った可能性もあるのでは、と」

「…………」


 アドラスの仮説に、シラスは瞠目する。

 純血の吸血鬼はフェリス・マリアンネとその妹アウルムを除いて、全て死に絶えたと考えられていた。だが、まだどこかで生き残っている者がいるかもしれないのか。


「エルトリルたちが黒い≪クラフトアークス≫を操っていたという報告はないので、必ずしも吸血鬼の血を貰ったという訳でもないのでしょうが。属性に関係なく、≪クラフトアークス≫を身に付けたものと接触することで、自らの血の中に眠っていた≪クラフトアークス≫が目覚める……そんな現象があるように思います」


 再び机に腰掛け、腕を組んで目を瞑ったアドラス。

 局長リバイアがそちらに目を向ける。


「妙に確信めいた口調じゃねェか、アドラス?」

「いえ……ただ、レイスの件を想起させるのです。彼は記憶喪失であり、その出自は謎に包まれていますが……かつてレンドウ君と接触したことで、レイスもまた白い≪クラフトアークス≫を取り戻した。そういうことだったのだと、今なら確信が持てます」


 謎めいた白き魔人、レイス。

 この世界でたった一人だけ、白い≪クラフトアークス≫を振るったとされる、今はイェス大陸を離れて行動する≪ヴァリアー≫隊員の一人だ。

 その名前が出るとリバイアは露骨に顔を歪め、舌打ちと共に身体を後ろに傾けた。「不愉快な名前を聞かせんな」とでも言いたげだ。五年前は常にレイスの後ろを付いて歩きたがっていたというのに、今のリバイアはレイスをよく思っていないらしい。蓮もその様子に(あれ? レイスさんとリバイアさんって仲良いんじゃなかったっけ?)と疑問を浮かべていた。


 アドラスはリバイアに対し小さく「すみません」と謝った後、一同を眺める。


「とにかく、私はスカルセドナさんの発言を信じます。軍師ニルドリルも、わざわざフェリス・アウルムの血を取り込んで≪クラフトアークス≫を身に付けたのです。レンドウ君たちとの激戦の最中においても、一度も植物を操るような力を見せたことはない。エルフの方々が木属性の力を一度は捨て去ったというのは事実でしょう」

「ありがとうございます」


 副局長の結論にスカルセドナが礼を言うと、アルヴィドも異論はないようだった。


「ああ……それより、エルトリルとニルドリルの名前が似ている件に関してはどうでしょう?」


 アドラスが思い出したように問うと、


「それに関しては、かなり単純だと。エルフにはかつてエルドーラという名前の英雄がいたらしく、彼女にあやかって付けられた響きの名前が多いのです。故に、エルトリルとニルドリルの血が近いとも限らないのではないかと」


 スカルセドナは何でもないことのように答えた。


「まぁ、逆に近しい親戚と似た名前は避けるような気もするよな!」


 そう言ったのはクスタバルだった。

 そうしてエルフという種族の謎に大体の推論が立てられ、話は次の段階へと進む……前に、少しだけ。


「……どいつもこいつも最後に“バル”って付くやつが言うことなの?」

「いや、おまえんとこだって全員“ゼル”で終わんだろ!」


 アゼル族とゼバル族を勝手に代表するかのように、どうやら腐れ縁らしいニーナゼルとクスタバルの口論が始まりそうだったので、アドラスが「まぁまぁ」と諫めることになるのだった。


 エルフという種族に関しての多くの謎がほぼ解決!

 しかしレイスに関しては謎は謎のまま。さて、あと何年以内にその辺の設定を公開できるのだろうか……。

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