プロローグ -“IZ”land of twilight-
――≪イズランド≫。
それが、新世紀になってから使われ始めた、この惑星の名称である。
現在この星の大半に分布し、掌握している霊長は人間だ。
しかし千年前まで遡ってみれば、その人間たちは元々、本来異なる惑星である≪地球≫から入植したものであり、この惑星における原住民は別にいる。
魔人。
人によく似た、しかし特異な性質の数々を持つ知的生命体。
それとの間に血みどろの抗争を繰り返してきた確執は、小康状態とはいえ未だに根強く残り、燻っている。
それでも、両種族の共存を実現している街も増え始め、魔人への人権を保障する人間の国も存在する。
何かにつけて人間と魔人を区別することをやめ、「人」として括る流れが出来たことも、共存を望む彼らにとっては幸いだった。
黄昏の時代六年、人々は新たな時代の平和さを噛みしめていた。
もっとも、人間社会との融和を求めない種族も未だにおり、それらは“危険種”として人間のテリトリーへの侵入を厳しく取り締まられている。
……また、過去に犯した大罪により、あらゆる人間から恐怖され、排斥される種族もいた。
そんな中、イェス大陸にあるどの国家よりも急激な躍進を見せた国がある。
古くは“清流の国”。現在ではメロアラントと呼ばれる、地方豪族たちが共同で治めていた連合国だ。
――五年前。今では世界に八体しか存在しないという、“龍”なる管理者のうちの一角、水竜メロアが目覚めたのがこの地だった。
かねてから伝承の存在として敬われていたメロアは“清流の国”を統一して名前を改めると、永い時を生きる自らの知識と能力を、広く喧伝した。
曰く、この世界には自分たち龍よりも上位の存在がいる。
それこそが全ての頂点となる、真の“神”なのかは定かではない。
ただ、自分たちはそれを黒竜イズと呼んでいること。
龍と、その血を与えられた者たちが振るう、≪クラフトアークス≫と呼ばれる超常の力が存在すること。
五年前に貿易国家アロンデイテルと、当時は無統治王国と呼ばれていたアラロマフ・ドールに大打撃を与えた災厄は、炎を司る龍の暴走がもたらしたものであったこと。
そして、文字通り命を捧げてそれを止めるために尽力した、氷竜アイルバトスという龍がいたこと。
アラロマフ・ドールに隠れ住み、人類へ人知れず貢献し続けていたという龍……金竜ドールもまた、その戦いで命を落としていた。
半年に渡って断続的に繰り広げられ、終戦までに三体もの龍が命を落としたその戦いは、現在では≪氷炎戦争≫と呼ばれている。
世界中から憎しみを向けられた炎の龍は、名をルノードといった。
その戦争では炎竜ルノードこそ討伐できたものの、結局その龍としての力は、彼の眷属の一人に受け継がれてしまったのだという。
炎竜グロニクルと名乗るその新しい龍が先代ほどの力を有していないことが幸いし、氷竜アイルバトスの遺志を継ぐ龍……氷竜ナージアの活躍もあって、炎竜とその眷属たちはイェス大陸から退いた。
現在では暗黒大陸の奥地において、魔王ナインテイル率いるベルナティエル魔国連合との間に戦争を起こしているという話だが……少なくとも、以前よりも人間側と魔国側との連携が密になった今、不意を打つようにイェス大陸まで侵攻されることはないだろう、と。
その安心感と、長らく続いた戦乱の時代に飽いていた人類の多くは、メロアラントへと注目した。
永い時を生きるという彼女が持つ知識を求めて、様々な国から、多種多様な立場の人間が引っ切り無しに訪れる日々が続いている。
――つまるところ。
現在メロアラントは観光地として名を馳せており、国の経済は大変潤っていた。