後編
数年後―。
俺は大手の企業に就職し、平穏な日々を過ごしている。
周囲から羨ましがられるほどの素敵な彼女も出来て順調だ。
呪いなんて忘れて幸せに生きている。
―ように、見えているはずだ。
家族はあの夜に死んだ。
人生の終わりを覚悟して目を閉じた俺だったが、数時間後に知らない電話番号からの着信で目を覚ました。
『家族が交通事故で亡くなった。』
電話の主はそう告げた。
詳しいことは覚えていない。
ただ父さんも母さんも、妹までも一気に失ったことだけが事実だった。
葬式の時に、呆然としたまま喪主を務める俺に隣のおばちゃんが教えてくれた。
「『病院からあなたが事故に遭って重体だ』と連絡を受けたようだ」と。
それで急いで俺のところへ来る途中、電信柱に突っ込んだらしい。
その時、俺はやっとわかった。
あいつは俺自身の命を取るわけではなく、俺を辛いと思う状況に陥れることが目的だったんだと。
狙い通り、俺は絶望の中にいた。
生きていてもしょうがないと、色んなことを試した。
でもどれもダメだったんだ。
縄が切れたり、人に発見されてしまったり…。
その度にあいつのクスクスという笑い声が聞こえ、耳元で囁かれる。
『まぁだだよ。』
俺は最近、もう一つの予想を立てている。
あいつはただ俺を苦しめるだけじゃなく、俺たちを永遠に呪い続けるつもりなのではないだろうか。
俺たちの血を絶やすのではなく、呪うための血が続いていくように仕組んでいる。
そんな気がしてならないのだ。
声はまだ聞こえる。
あの頃とは違い、クスクスという笑い声とともに近付いてきて嬉しそうに囁く。
『みぃつけた。』
多分俺は、今の彼女と結婚することになるのだと思う。
あのクスクスという笑い声を聞いていたら、そうしないといけないという強迫観念が止まらなくなる。
きっと、子どもも無事に産まれるんだろう。
自分を守るために呪われる家族を増やそうとするなんて、俺はすでに狂っているんだと思う。
でももう限界だ。
俺に出来るのは、きちんと伝えていくことだけ。
あの声が、『もういいよ。』と囁いてくれるその日まで。
読んでいただき、ありがとうございました。