前編
開いていただき、ありがとうございます。
『もういいかい?』が聞こえたら、
必ず『まぁだだよ』と答えなければならない―。
子どもの頃からずっと言われ続けてきた。
なんでも俺のじいちゃんのじいちゃんのじいちゃんの…とにかくずっと前のご先祖さまが悪さをしたらしく、その相手に呪われているんだそうだ。
初めて“声“を聞いたのは、幼稚園に入る前くらいだったようだ。
“ようだ”というのは俺が覚えてないからで。
急に『もういいかい?』と言うようになったから、多分聞こえてきたのだろうと母は言っていた。
よく聞く言葉を覚えるってやつだろうな。
そしてその頃からきちんと『まぁだだよ』と答えるように教えられ、俺はずっと、その通りにしてきた。
“声“は常に聞こえているわけではないが、時を選ばず耳に届いた。
朝だったり夜だったり、食事中でも入浴中でも、寝てる時だって聞こえていたようだ。
もちろん寝てる時には答えられないんだけど、答えられないこと自体には別に問題がなかった。
なんて言うかな。
『だるまさんがころんだ』ってあるじゃん?
あれの押し戻せるバージョンって感じ。
声は答えないと近付いてくるけど、『まぁだだよ』でまた遠くなる。
とにかくちゃんと答えてる限りは大丈夫だった。
そんな感じで俺は特に問題なく呪いとのかくれんぼを続けてきた。
そう、あの日までは―。
あの日の俺は荒れていた。
手応えバッチリ!と思っていた本命の会社からお祈りメールを受け取り、慰めて欲しくて立ち寄った彼女の部屋で、半裸の知らない男に出迎えられた。
情けないよな。
「間違えました!すみません!!」なんてひっくり返った声で謝罪して、帰りのコンビニで強めの酒を買って帰った。
部屋で一人、飲んだくれてグズグズ泣いてたらさ、来たんだよ、あれが。
いつも通り、なんか空気がピーンってなって、耳鳴りみたいな感じで周りの音が消える。
そして聞こえる。
『もういいかい?』
ため息をついて俺もいつも通り口を開く。
『まぁだだ…。』
そこでふと考える。
―もういいんじゃねぇかな?
就活も失敗、彼女にまで裏切られて。
『死にたい』とまでは思わないけど、『殺してくれる』なら…?
酔っ払った頭で必死に考える。
それに俺がここで犠牲になれば、もしかしたら俺ら家族への呪いも終わるんじゃねぇの?
『…もういいよ。』
その途端、耳鳴りが消えた。
マジで無音。
そしてすぐに、まるで後ろから抱き締められたような距離で嬉しそうな声が聞こえた。
『みぃつけた…!!』
あ、これで終わりか。
なんか呆気ないなぁ、なんて思いながら、俺は静かに目を閉じた。
引き続き、後半をお楽しみください。