詩乃と優奈 その2
「お〜い!優奈!ビチョビチョだよ!」
詩乃の声で目が覚めた。スマホを見る、そんなに寝ていない。20分ぐらいか。詩乃の言う通り、オムツは濡れてしまっている。無理もない、1年近くオムツのお世話になった私はオムツを着けると簡単におもらし・おねしょをする。身体が出していいとサインを送るのだ。詩乃にシャワーを借りるとことわって、全部脱ぎ、シャワーで酔いを醒す。
「じゃ、次はコレにしようか?」
「詩乃はホント、呑むわね。着替えぐらいさせてよ」
「おねしょしたから、次もオムツね!」
「ハイハイ、コレでいいんでしょ」
そう言いながらオムツを着ける。さらに持って来たジャージに袖を通す。
「優奈、私も交換して」
「あら、了解」
交換をお願いされた。テープタイプはあまり得意ではないけど、詩乃のせいで慣れつつある。
「そういえば昨日、綾ちゃんにも交換してもらってたでしょ?」
「いつもだよ。『健太くんにさせるわけにはいかない!』ってさ」
「で、健太くんと綾ちゃんはうまくいきそうなの?」
健太くんが詩乃を好きなのはわかる。詩乃は健太くんのおねしょを治した。貴子さんから健太くんの話を聞いて、詩乃は貴子さんから健太くんを2・3日離せば良いと思ったらしい。貴子さんがプレッシャーだったようだ。それで夏休みを利用して、詩乃の部屋に泊める事にした。そして、詩乃の悪い癖が出た。健太くんに詩乃の服を着せて、楽しんだのだ。
(ちなみに私には今のようにオムツをつけろと言ってくる)
挙句、その格好で外出までしてしまった。ドキドキしただろう、完全に吊り橋効果である。まあ、詩乃の受け売りだけど。
「それがさ、なんかね、私・・・・・・」
「あんた、まさか!」
照れくさそうにモジモジする詩乃を見て、呆れた。
「初めは、弟ができたつもりだったの。でも、綾ちゃんと出逢って、二人をくっつけようとしたら、なんか変な気持ちになって・・・・・・」
綾ちゃんは健太くんの同級生である。健太くんを託せると見込んだ相手が綾ちゃんだ。詩乃が挑発するように健太くんと仲良くして、負けじと綾ちゃんが健太くんにアタックする。その繰り返しだった。
「この間、健太くんと綾ちゃんがチューしてたの。それを見て何でか泣いちゃって、健太くん、優しいから私にもしてくれて」
「詩乃がキスするようにし向けたんでしょ?」
そうじゃなきゃ、健太くんが綾ちゃん相手に積極的にキスする画が浮かばない。
「そうなんだけど!でもそれを見た時、胸が刺されたみたいに痛くなって、気がついたら涙が出てたの」
「そんな状態でどうするつもり?」
「わかんない。でも、私より綾ちゃんの方が健太くんに相応しいと思うの。思うし分かっているんだけど、多分、私は健太くんが好きなの」
ハッキリと「健太くんが好き」と言った詩乃に今度は私の胸が苦しくなる。自分でも、なぜこんなにショックを受けているのか分からない。私の事など気づかず、詩乃はストロング酎ハイで乾きを潤し、続ける。
「好きなんだけど、綾ちゃんは良い娘だし、私はこんなだし、健太くんには迷惑をかけたくないし、どうしていいかわからないよ!」
そういえば、悩む詩乃を初めてみた。
「飛び級」「チート」・・・・・・中学、高校時代の詩乃のあだ名だ。そう影で言われてきた詩乃。見た目小学生で成績は学年で常にトップ、スポーツもできない訳ではない。そんなだから、高い所の物が取れないとかで困る事はあっても悩む事などなかった。それに気づいて私は少し嬉しくなる。ついでに詩乃が気づいてない事を指摘しておこう。
「詩乃、それ自業自得というか、しっぺ返しよ」
「え?」
私の言葉に何言ってるかわからないという表情をする。珍しい。
「詩乃は前に健太くんが詩乃を好きになったのは、『吊り橋効果』だって言ってたでしょ。そして、綾ちゃんと会って健太くんを好きな事を自覚した。ここまでは合ってる?」
「うん。それがどうして自業自得なの?私は綾ちゃんと言う比較相手ができたからかと思ってた」
「そこまで分かっているならもう少しよ。綾ちゃんと会う時は綾ちゃんに詩乃は小学生だと思わせてる。ここまで言ってわからない?」
私はヒントを与えて詩乃の反応を待つ。黙って考え込んでいるが急に顔が赤くなった。
「まさか!」
「気がついた?綾ちゃんにバレないかドキドキしたでしょう?『吊り橋効果』よ」
「うわぁ〜!じゃあ、今年の秋、教育実習で嫌でも歳バレするけど、そこで終わるかな?」
盲点を突かれた照れ隠しで、詩乃が早口で言う。かわいいと思いながら、私は冷静に返す。
「健太くんを見てわからない?そのままよ」
それを聞いた詩乃が急に酔いから醒めたように
「じゃあ、この気持ちはニセモノなの?」
真っ直ぐに私の目を見て言った。
「それを鑑定するのが、自分でしょ。私が『ニセモノですね』と言って、詩乃は納得できるの?」
私も目を逸らさず、返す。数秒、見つめ合う形になった。
「わかんない。だって、初めてだもん!」
見た目相応の小さい子の駄々の様に詩乃が言って、プィと目を逸らす。詩乃の視線から解放された事にホッとして、思う。私って詩乃の事・・・・・・
少しして、詩乃の恋愛相談にはつき合わないと決めて、飲んでいたワインを飲み干す。飲んだ分が下から出てきたように温かい。おもらしだ。恋愛相談につき合って、それに慣れると健太くんを好きな詩乃を認めてしまう。このオムツのように。
オムツを換えるために立ち上がって、ここにはいない男の子に願う。
どうか、どうか詩乃を幸せにしてあげてよ。
私にはできそうにないから。




