エピローグ (中)
ノートを読み終えると外出の準備を先生がしていた。
「黙ってついて来てくれるとうれしいかな?」
なぜか疑問系で先生が言う。
すぐ近所のバス停からバスに乗る。駅前のターミナルで乗り換えて3つ目のバス停、僕も知っている場所だった。大きな総合病院でクラスの友達が交通事故にあった時、ここに救急車で運ばれたと聞いた事がある。
前にも来たことがあったのだろう、先生は迷いなく進んでいく。たまに僕がついて来ているか振り返るその顔は、僕の見た事のない、緊張した様子だ。
「ありがとう、1人では怖くて来る事ができなかったかも・・・・・・」
先生がポツリとつぶやく。同時に僕も怖くなる。
・・・・・・先生、病気だったの?
僕は先生の日記を見た。だから、先生がオシモの病気が原因であんな事になっているわけではない事を知っている。
でも先生と病院を結び付けるものがわからない。
そんな事を考えている間にエレベーターや通路、渡り廊下を通って1つの病室の前にたどり着く。先生が3回ノックする。
先生が病気じゃなかった事にほっとした。病室の方から「どうぞ」と言う声がする。
「詩乃だよ」
「帰って」
病室に入った瞬間、拒絶された。僕は相手をチラリと見る。声の感じでわかっていたけど、先生と同世代の女性だった。先生よりも髪が長く伸びて、左右に結びピンクのパジャマのせいで少し幼く見える。隠すこともない表情で怒っているのがわかる。
「聞こえなかったの?帰れって言ったの。ここに来るなら、私と同じになってから来てって言ったよね?」
「うん。聞いてるし、わかってる。今日は、だから来た」
少し緊張した様子の先生はゆっくりとスカートをめくる。あの日の夜のように。
相手が目を剥いて、それを見る。
「これを見せたくてね。それとこれは診断書、コピーだけど」
持っていたバッグからコピー用紙を取り出す。同世代の相手は固まったように動かない。
先生はさらに続ける。
「大学だって通っているし。こうやって、慕ってくれている子もいる。要は気持ちよ。ゆうなと私の違いなんてほとんどないんだから」
言うだけ言うと、「じゃあね」と言って先生が病室を後にする。僕もゆうなさんに一礼して病室を出た。