エピローグ (上)
部屋番号を押して、インターホンを鳴らす。
「与田健太です。先生に質問があって来ました」
「もう、先生じゃないけどね」
少し笑いながら、先生・・・・・・いや詩乃さんはそう言った。自動ドアが開いて僕を入れてくれる。詩乃さんは僕の8月まで家庭教師だった人だ。そして、僕の病気を治してくれた主治医だと勝手に思っている。
エレベーターを上がると正面が詩乃さんの部屋の玄関だ。待っていてくれたようで、すぐに中に案内してくれた。あの時と同じあの部屋だ。やっぱり先生と呼ぼうと思う。
「いきなり来るんだもん、ビックリしちゃった」
紅茶を淹れながら、先生が言う。カップを受け取りながら、僕は答える。
「すいません、僕まだスマホ持ってないもんで。それと、これこの間の模試の結果です」
「すごいじゃない!A判定だなんて」
詩乃さんが目を丸くしておどろく。僕を受け持った時はD判定だったから、当然だと思う。たしかに11月の模試は会心の出来だった。でも、夏休みの件以来、不安がなくなったというか、何事にも自信が持てるようになった。だから、詩乃さんには報告とお礼を言うべきだと思った。
「ありがとうございます。先生のおかげです」
「さっきも言ったけど、もう先生じゃないわ」
「でも、先生は僕のおねしょを治してくれました。だから、お医者さんでもあります!」
「健太君の気持ちはうれしいけど、私はお医者さんでもないし、家庭教師だって夏休みのあの日の準備として必要だったから、引き受けただけよ」
詩乃さんが少し困った顔で言った。
僕は即座に「知ってます」と答える。
マジックのタネを暴露するように僕は続けた。
「あの日、僕が持ってきたオムツは2枚。2枚とも僕が使いました。すると、先生が夜にはいたオムツは最初からこの部屋にあった事になります。つまり、先生はどこかで買った事になる、ここから1番近いドラッグストアは僕の母がいつもオムツを買っていたドラッグストアと同じです。そこで知り合ったと僕は思っていますが、違いました?」
さっき僕の模試の結果を見た時のように、詩乃さんがおどろく。「気がついちゃったか・・・・・・」とつぶやく詩乃さん、「実はあなたのお母さんからもらってた」とか言われなくてよかったと思う。
やっと、僕は質問出来る。
「さて、ドラッグストアで知り合ったなら、疑問が1つあります。なぜ、先生はオムツを買わなければいけなかったのですか?」
詩乃さんは何も答えない。女の子には失礼極まりない方法で僕は証拠を押さえることにしよう。
先生のスカートをめくる。あの朝と同じ、青いライン。同じオムツ。
「こういう事ですよね?疑問だったんです。例えワザとでも、おねしょって出来るのかなって。それにあの日は24時間一緒にいたのに、先生は一度もトイレに行きませんでした」
「さすが難関中学にA判定が出るだけあるわね」
諦めたように笑った。
そして、僕の前にノートを1冊置いた。
それは日記だった。
今年3月の卒業からの14日間の先生の記録。