自由 【月夜譚No.30】
羽を広げて大空を飛ぶ鳥達は、一体どんな気持ちなのだろう。地より遥か上、雲の下を掻い潜り、風を切って青の中を舞う。
翼を持たない人間には、どう頑張っても同じように空を飛ぶことはできない。しかし、それができたなら、どんなにか気持ちの良いことだろう。自由を全身で感じることができるだろう。
石造りの冷たい壁に囲われた、小さな窓。少年の手では到底届かない位置にあるそこから、動く絵画のように滑空する鳥が見える。うんと腕を伸ばしてみても、その小さな掌は絵画の端にも触れられない。
いつからここにいるのかも、もう忘れた。自由がどんなものなのかも、忘れた。
けれど、小さく見える鳥達が自由に何処にでも行けるのだということだけは、自分はもう何処にも行けないのだということだけは、身体の芯に染み込んでいるようによく解る。
少年が折り曲げた膝を抱えると、石の床を金属が擦る耳障りな音が響いた。