ラーン村
そう言えば名前言ってなかったの、私は唖善弦之介、よろしくな
俺は山下哲喜っていいます
私は新本有希っていいます。
あ、唖善…さん?
弦之介で良い
周りからはよく弦さんって呼ばれたりもする
弦さんですね、よろしくお願いします。
しかし、知人を探すつもりのツアーが、まさかこんな事になってしまうとはなぁ、
弦さんの、その知人って、どういう関係の人なんですか?
有希がそういうと弦之介は少し黙り、遠くを見ながら口を開いた
恋人…だった。
結婚の約束もしていた
そうだったんですか…。
私は僧侶ゆえ、恋人を作る事は寺でも禁じられている
ましてや結婚なんて、ほんと自分でもどうかしていると思う。
だけど、どうしても、
彼女を忘れる事は出来なかった…
私が20の時、僧侶としてはまだまだ駆け出しで寺の掃除、洗濯、炊事の毎日、いくら家が由緒正しき寺院の子だとして、本当に自分はこの道に進んで良かったのか、何度も疑問に思っていた。
私が食事の支度をする為に外へ買い出しに出たある日、帰り道の河川敷で、彼女に出会った。
美しい黒髪で凛々しい顔だち、そしてハニカムようにふと笑う笑顔、一目惚れだった。
私はいても立っても居られなくなり、思い切って声をかけた。
何をなさってるのですか?
彼女は私を見てニコッと笑うと
今、絵を書いてるのですよ、と言った
良かったら私にも見せてくれますか?と言ったら、いいですよ、と言って彼女は私にその絵を見せてくれた
風景画に少しアレンジが加わっているような綺麗な絵だった。
ただ風景を書くだけじゃつまらないじゃないですか、同じ世界でも、見る人によってはこうやって写ることもあるんですよ
私は思った、ああ、この絵は、彼女の見ている世界なんだなと、私にはただのありふれた風景にしか見えないこの世界を、彼女にはこんなにも色鮮やかに見えているんだな、と
あなたは、この世界のこと、どう思いますか?
彼女の言葉に私は言った
私には、まだよくわかりません、今している事が自分にとって本当に最善なのか、よく分かりません…
彼女は言った。
それでいいじゃないですか。
何が最善か、なんて誰にもわかりません。ただ続ける事です。何をしていてもただひたすらに続ける事が最善なんだと思います。
彼女の言葉に私は心の中に曇っていた何かがパァっと晴れた気がした。
よ、良かったら、今度、一緒に食事など、ど、どうでしょうか…?
え、はい、いいですよ。
それが私と彼女の出会いだった。
それから私達は交際をはじめ、5年がたったころ事件は起きた。
洞窟探検ツアー?
うん!今度、絵師の友達と2人で行こうと思ってるんだ!
そうなんだ、気をつけて行ってこいよ
うん!お土産買ってくるねー!
それから彼女が帰って来る事は無かった。
一通のメールを残して、
悪魔に襲われた、みんな殺される
私は必死に調べた、するとある事が分かったんだ。
ここのツアーは年に1度しか開催されない。しかし、何年か前にも同じように失踪した事件があったらしい。
調べていくうちに、この洞窟は悪魔の言い伝えがある事が記されていた。
私は確信した。きっと彼女はこのツアーで何かあったのだと、そして私は今年のツアーに参加し、今に至るって訳だ。
そんな事があったんですね…
うぐ、うぐ、弦さん…可哀想すぎます…
おいおい嬢ちゃん泣くなよ…
大丈夫、きっと見つけだすさ。
嬢ちゃん達も早く帰れるといいな。
ツアー客一行が、しばらく道なりを歩いていると、
目の前に、西洋のお城の門の様なものが見えてきた。
あれは…建物か…?
そうみたいだな、
結構古そうだけど、もしかしたら人がいるかもしれない、中に入ってみよう。
村田康太と岩本雄也はそういうと門の扉を叩いてみた。
コンコンッ
誰かいませんかー?
………
誰もいないのかな
ガチャッ
鍵空いてるぞ、
おい、勝手に…
「誰だ!」
ほら人がいる!
「貴様ら、何者だ。」
出てきたのは中世のローマ人の様な服を着た老人だ。
怪しいものじゃありません!
ただ道に迷ってしまって、ここがどこなのか教えていただけませんか?
良かったら電話を貸して頂けだら幸いなのですが…
「何?電話?何を言ってるのだ貴様ら。怪しいヤツめ。」
「出ていけ!」
「はぁ?ちょっと電話借りようとしただけだろ?」
雄也が睨みつける。
すると老人は懐から刃物を取り出し、さらにツアー客達を睨みつけた。
「出ていけと言っておろうが!!」
慌てる2人、今にも斬りかかりそうになった瞬間、
やめなさい!!
扉の奥から女性の声がする。
この方達はきっと『迷い人』達よ、
迷い人?ゆり達と一緒だっていうのか?
ゆり…?
弦之介の顔が青ざめ、老人の元にかけよる
もしかして白崎ゆりのことか?
「なんだ貴様、離れんか!」
ゆりは!ゆりは今どこにいるんだ!無事なのか!?
「離れんかと…言っておろうが!!!」
ドフッ
ウッ……
老人の拳が弦之介の溝に入り、弦之介はその場でうずくまる。
弦さん!
弦之介さん!
溝うちじゃ、死んではおらん、
それより、貴様ら、迷い人と言うことはこの世界の人間ではないのだな。
老人は頭をポリポリとかき、少し考えると、
よし、着いてこい。
といって門の中にツアー客を通した。
門をくぐり抜けると、そこは村だった。
高さ15メール程の壁で囲まれており、ほとんどの建物は木造で出来ている村人は500にん程はいるだろうか、村の中心に石造の神殿の様な場所があり、ツアー客達はそこに案内された。
神殿の中は大テーブルが両サイドに2つ置かれていて、奥がステージの様になっている作りだ。
ツアー客達は全員がおのおの席に座り、先ほど助けてくれた女性がステージに上がって行くのを見た。
「皆さん、ここはラーン村、私はこの村の村長です。」
「今から皆さんの今の状況を説明させていただきます。」
「まずはじめに、ここはあなた達がいた世界ではありません。」
白髪のロングに白いローマ服の様な格好をした女性、歳は30くらいだろうか、村長と名乗るにしては少し若い顔立ちをしている。
「あなた達は異世界から来た方々で間違いありませんね?」
「はぁ!?どういう事だよ、なんかのドッキリか?」
岩本裕也がこいつふざけているのか?と言いたげな表情で怒鳴る。
「だとしたらかなりタチが悪りぃ冗談だな」
ほかのツアー客達も、なにこれ?どういう事?冗談?と、各々困惑している様だ。
無理もない、自分達はただ洞窟の探検ツアーに参加しただけなのに、いきなり訳の分からない場所に飛ばされて、そこで現れた人間にここは異世界ですだなんて言われて信じられる訳がないのだ。
「冗談なんですよね?なんかのテレビの番組とかで…?」
ツアーに参加していた女性が問いかけた。
「テレビ…、というものがどういうものか存じませんが、冗談でも悪い夢でもありません。現実です。」
村長だという女性が淡々と質問に答える。
「ふざけんなよ!誰が信じるかよそんなもん!
第一、俺たちが別の世界の人間かなんてなんであんたらに分かるんだよ!そもそもあんたらが話してる言葉日本語だろ?別の世界にも日本があるのかって話だろ。」
確かにそうだ。異世界からきたとして、なぜ彼等はそれがわかる?なぜ日本語を話している?
「それにもちゃんとお答えします。
その前に、我々がいるこの世界についてお話させてください。」
彼女は深く深呼吸をしたあと、ゆっくりと話始めた。
「我々の世界は"ラース,,といいます。この世界はあなた達のいた世界とは異なり、悪魔族と人間族の二種類の種族が存在しています。」
我々はこの悪魔族と約50年ほど前から戦い続けているのです。