出発、悪魔の伝説
「準備できた?」
「うん、できた」
「じゃぁ行こっか!」
玄関先で有希が一足早く哲喜を待ち構えていた。
ずっと暖房の効いた部屋にいたせいか外に出るときの冷たい風が肌にあたる感触がどこか少し心地よい。
天気は晴れていてまさに絶好の旅行日和であった
哲喜の家から最寄りの駅までは徒歩15分そこから電車を乗り継いで羽田空港に着きそこからさらに飛行機で沖永良部島まで飛ぶ
なかなかの移動距離に哲喜はやや疲れ気味だが、有希は全く疲れている様子もなくいつものようにルンルン♩としていてご機嫌のようだ。
よっぽど楽しみだったのだろう。
まぁ有希が楽しそうならいいか…
父が亡くなった時も彼女は哲喜のそばにいてずっと支えてくれていた
そんな彼女が笑顔ならそれでいいじゃないか、そうしみじみ思うのであった
「沖永良部島洞窟探検ツアーでーす!ツアー参加者はこのバスに乗って下さいねー!」
20代前半くらいの若いバスガイドさんが座席表を首にぶら下げながらバスの前でひらひらと手を振って誘導している
「えーっと、俺たちの席は…後ろから2番目か、有希荷物は下に預けた?」
「うん!でも…」
「ん?」
「なんか誰の荷物かわからないのだけれど、私達の荷物の隣にどう見ても日本刀…?が飛び出してるカバンがあるのよね。」
「な、なんて意識の高さ…誰だこんなツアーにサムライを参加させたのは…」
「きっとオモチャかなんかだよね!うん!そうだよきっと!
だってさその隣にもどう見ても猟銃にしか見えない荷物もあるし!」
「だから誰だ!こんなツアーにハンターを参加させたやつは!ってか猟銃にしか見えない荷物ってどんな荷物だよ!それもう猟銃でしょ!ってあ…なるほど、こりゃ間違いなく猟銃だわ」
黒長い革のケースに長さが足りなかったのか、チャックげ閉まらずに持ち手の塚がはみ出している荷物がそこにはあった 。
「きっとオモチャよね!あー本当にこういうの好きな人いるんだな〜!」
ほんと一体誰なんだ…
なんか探検の種子を間違えてるやつも乗っているようだが、とりあえず、気にしない事にした。
哲喜達はそのまま自分の座席に腰を下ろして荷物を上の荷物置きにのせ後は出発を待つだけとなった。
「主達もこのツアーの参加者かい。」
突然後ろから知らない男に声をかけられ眠ろうとしていた哲喜がピクッと目を覚ました。
「そうですけど、お兄さんは…」
「ああ、失礼。随分と軽装備でこのツアーに挑むのだなと思ってな。
気をつけろ、このツアーの先の洞窟には古来から悪魔が出現すると言われているらしい」
「悪魔……ですか……へぇ…」
絶対やばい人だこの人、
いい年こいて都市伝説じみた事をこんなにまじまじと話す大人は初めて見た、
それにこの見た目だ。
黒い和装に小物が入る手さげをぶら下げて首には数珠?のような何かがぶら下がっているどこかの僧侶か何かかな?
にしても悪魔だとかなんだとかをまじめに話す人にまともなやつはいない…
「あの、失礼ですが、普段は何をなさってる方なんですかー?」
目をキラキラと輝かせていた有希が僧侶らしき男に聞いた
「お、私かい?私はとある寺院を任されてるものでな、職業柄こういう格好の方が落ち着くんでな」
「やっぱりお寺関係の人だったんですね、でもなんでお寺の僧侶さんがこんな南の島のツアーなんかに?」
「悪魔だよ。」
またそれか…
「10年前ここのツアーに参加した私の知人がいてな、そいつが10年前にそこで失踪してしまったんだ。」
「そんなことが…」
「それでな、そいつが失踪最後に私にメールを送ってきたのよ
そのメールがな"悪魔に襲われたみんな殺される"だったのだ。
私はなんのことだか分からなかったが知人がそれから失踪した事を知り、その洞窟について調べあげた。するとそこの洞窟には何年も前から悪魔のような存在が祭られている場所があるらしい、だから今回はそれを確かめに行こうと思ってな」
僧侶らしき男は自分に起きた出来事を哲喜達に話した
悪魔、という存在が本当かどうかはわからないが、かなり深刻な顔をしている。
「なるほど…ではその失踪したお知り合いさん?を探す手がかりになるかもしれないから参加なさったんですね、見つかるといいですね…」
「ああ、必ず見つけるさ!悪魔がでたってな、俺の黒刀丸で叩っ斬ってやらぁ!」
「「やっぱりお前の刀かい!!!」」
うすうす気づいてはいたが荷物置きにあった日本刀の持ち主が判明した。
「それでは出発しまーす!」
プシューッっという音とともにドアが閉まりバスは乗客23人を乗せ洞窟へと出発していったのだった。