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地縛霊と教師の話

「卒業おめでとう」


 机を挟んで目の前に居るのは、この学校のものだった制服を着た少女。

 いつの間にか彼女との距離も机と教壇を挟んだ距離になってしまった。


「みんなにも祝われてしまったね」

「嬉しかったんじゃない? 自分達と一緒に卒業してくれるなんて」


 今日は卒業式。そして私も、教師を卒業することになる。

 定年まで一つの所に勤め上げ、我ながら物好きだと思う。

 夕日が薄く教室に差し込み、僕たち二人をあかね色に染め上げている。直に日も沈んでくるだろう。


「すまないな……。結局、今も昔も何もできなかった」

「良いのよ。少なくともあなたが居る間は楽しかったし」


 少女は寂しそうに窓の外へ目を向ける。

 もう、彼女と会うことはないだろう。

 時刻は五時になろうとしている。後、一時間ばかりで学校の門は閉められる。卒業式の日といえど、規則は曖昧にならない。

 その時、教室のドアを開けて一人の生徒が入って来る。


「あれ、先生なんでまだ残ってるの?」

「最後くらい浸らせてくれ。それよりお前は何しに来たんだ?」


 彼女は最後に受け持った生徒の一人である。

 確かクラス全体で打ち上げがあるとか言っていたはずだが、それはまだなのだろうか。


「そうそう、忘れ物取りに来たんだった」


 慌ただしく自分の席に向かうと「あった!」とすぐに目的の物を見つけた。


「お騒がせしました……」

「あまり遅くまで遊ぶんじゃないぞ」

「はーい。先生またね」


 と言って彼女は教室を去る。古い校舎の扉は、すぐにけたたましく音を立てる。

 感慨も何もない様子だが、最近の若者はそうなのだろう。連絡を取ることも難しくなく、今生の別れなんてそうそうない。

 時代の変化を感じさせられる。


「またね、か……」

「慕われてるじゃない」

「そうかな? あの頃の年頃はみんなああだと思うが」

「……流石ね」


 そう皮肉を漏らしたきり、彼女は口を開かなくなった。

 そしてそのまま時間が過ぎ、いよいよ帰らなければならない時間になった。名残惜しいが、どこかで帰らなければずっと居座ってしまう。


「じゃあ、そろそろ帰るよ……」

「残ってくれないのね」

「その資格はないよ」


 意味合いとしては拒絶と変わりない。

 振り返った彼女は悲しそうな表情を浮かべていた。


「……ずっと君のことが好きだった」

「五十年前にそれを聞きたかったわ」

オレ コノしちゅえーしょんスキ

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