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西洋妖怪の話

『最初のニュースです。「子供肉の柔らかハンバーグ」の中に成人の肉を混ぜ込んでいたとして食品衛生法違反の疑いで家宅捜索を受けたデーモンフーズが……』


 店内の有線ラジオから流れているのはここ最近、世間を賑わせているニュースだ。

 テレビはもちろん、こんな寂れた個人商店でも耳にするとは。

 どうやら材料のごまかしは何十年と続いていたらしい。


「意外にバレないもんだな。子供の肉と大人の肉なんてけっこう違ってそうだがな」


 いつもの商品をかごに入れ、すっかり顔なじみになっている店主の狼男に渡す。

 この間満月になったので、今の店主はほとんど人間のおっさんと変わらない。


「これだけ長い間誤魔化してればアレを子供肉の味だと思うだろ。ちゃんとした子供肉を食べるような人らはあんな惣菜品を食べたりしないだろうからな」

「……さてはあんたも騙されてたクチだな?」

「うるさいな。子供の時から食べてたんだから仕方ないだろ」

「ヒヒッ。確かにそりゃ仕方ないな」


 子供の肉は高級品だ。一般人には手が届かない。それをわざわざハンバーグにしているのだから、何かあると疑うのが当たり前だと思うが昔っから食べていたのなら騙されもするか。

 そういえばスーパーに並んでいるのを最近は見ていなかった。

 子供が大好きなハンバーグとあってこどもの日にはコーナーまで作られていたものだが、これからその光景を見られなくなると思うと少し悲しくもある。

 まぁ、わざわざ肉を食べないので関係ないが。


「あんたも気をつけろよ。案外色んな物が偽装されてるかもしれないぞ。コレとかな」


 そう言って店主は「毎日飲みたい処女の生き血」をレジに通す。

 昔はパック飲料なんてなかったらしいが、その時はどうやって血を販売していたのか。生き血も新鮮なまま飲まないとその他の血と変わらなくなる。

 昔の人は生き血を飲むためにわざわざ人間界にまで行っていたのだろうか。だとしたら現代に生まれたのは幸運だろう。


「俺は大丈夫だ。前にちゃんとしたのを飲んだことがあるからな」

「卒業旅行の時か?」


 大学の卒業祝いに吸血鬼仲間数人で人間界へ。アメリカとかいう国を横断する壮大な卒業旅行だった。

 その時に何人かの人から血を頂いた。あれは恐らく処女だったろう。

 スッキリ爽やかな飲み口。男に比べてサラサラと喉を通っていくのだ。それはこれまで飲んできた安物の血とはまったく違う味。忘れられない。


「その時の味とほとんど変わらないからな。これは食品偽装されてないよ」


 だからこそパッケージ通りほぼ毎日飲んでいるのだ。


「お前が飲んだやつが処女じゃなかったら?」

「そんなわけあるか。あんな地味な見た目のやつは処女以外にあり得ないね」


 だからこそあの美味しさなのだ。

 あれが他の女と変わらないなんてそんなのは信じられない。


「ま、今回みたいに事件にならなきゃわかるわけないか」

「何だよその言い方……」


 まるで俺がムキになっているみたいだ。

 実際、店主の方がずいぶん年上で俺は子供なのだが、成人の肉の味に気づけなかった狼男に言われるのは癪である。


「まぁ、うまけりゃなんでも良いよ」


 こっちもあくまで気にしていない、みたいなスタンスを取っておく。

 どうせ俺の言っていることが正しいに決まっているからな。これが処女の生き血じゃない、なんてありえないんだ。


『速報です。一角飲料から発売されている『処女の生き血』シリーズの商品に使われているのが処女の生き血でないことが内部告発によって明らかになりました』

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