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就職難の話

 夏の風物詩と言えばプールに海水浴、流しそうめん、花火に浴衣。でもやっぱり一番は怪談話であろう。

 この時期にテレビを点けると大抵どこかしらでホラーをやっている。

 レンタルショップでも棚はホラー物ばかり。

 怖がりな方には申し訳ないがホラー大好きな俺からすると良い季節になった。

 照りつける太陽の下で爽やかに遊び回る? ノンノン。朝から晩までホラー祭りに決まっているだろう。

 こういう時は焼酎を麦茶で割って、つまみにさきいかとチョコレート。これで一週間はぶっ通しで楽しめる。

 テレビの前でドッシリ構えて動きたくないが、流石に生理現象までは止められない。

 ちょうど今見ていた映画も終わったところだ。トイレに行こう。


「おっとと……」


 何かに躓いて転びかけた。

 カーテンを閉め切ってテレビの明かりしかないから足下も覚束ない。キッチリ閉めたせいで光も差し込まず、今が昼か夜かの区別もつかない。

 ジッと立ち止まり暗闇に目が慣れるのを待つ。そうしてしばらく経つと、置いてある物の輪郭くらいはわかるようになる。

 しかしこうして見ると普段暮らしている我が家も違って見える。

 トイレへ続く廊下の曲がり角なんて何か出て来そうじゃないか。一人暮らしもずいぶん長くなった。出るなら出て来て欲しい。

 と、もちろん何かが出て来るはずもなく。無事に何事も起こらないでトイレに辿り着いた。

 手探りでトイレの灯りを点ける。


「あっ、入ってます」

「どうもすいません」


 先客が居た。和服を着た女の子である。鍵も閉めないなんて不用心だ。ここが俺の家だったから良かったものの――


「ちょっと待て!」

「きゃあ! 急に開けないでください!」

「お前は誰だ!? なんでここに居るんだ!?」

「ちょっと準備があるんで待ってて!」


 なんて言いながら追い出されてしまった。ここは俺の家のトイレなのに。

 というより何でウチのトイレに女の子が居るんだ。小学生くらいのおかっぱの女の子に心当たりはない。

 そもそもここ三日間はホラー映画マラソンをしていたから誰かが訪ねて来たわけでもない。

 おかっぱの女の子。何だか心当たりがあるような……。


「どうぞノックしてから入ってください」


 トイレの中から声をかけられる。女の子らしいかわいい声だ。

 しかし自分の家のトイレに入るのにノックが必要とは。確か三回だったか。

 コン、コン、コン。


「花子さーん」

「はーい!」


 宅配便が来た時の主婦みたいな返事だ。そして怖がらせようと声を変えずにかわいらしいままだ。

 彼女は本当にあの「トイレの花子さん」なのか。


「あれ、入らないんですか?」

「今入りますよ」


 話せば話すほど、あの少女とトイレの花子さんが乖離していく。

 しかし扉を開けて見ると、そこにさっきと違ってちゃんと花子さんらしい衣装に着替えた少女が待っていた。

 隅の方に和服が畳まれている。


「えっと……あなたは?」

「トイレの花子さんです。さっき自分でそう言ってましたよね?」

「普通は学校のトイレに居るもんじゃ……」


 そう言うと、途端に表情を暗くし、便器の上で膝を抱え始めた。

 どうやら地雷を踏んでしまったらしい。


「私、最近になって座敷童から転職したんですよ」


 だから最初は和服を着ていたのか。

 それより、お化け業界にも転職とかそういうシステムはあるのか。生まれたらもうその妖怪、とかお化け、みたいなイメージだった。

 小豆洗いとかは転職を考えたりしないのだろうか。


「でも学校のトイレは倍率が高くて高くて……。特に私は実技が苦手で受からなかったんです。いよいよ公衆トイレも落ちて、一般家庭しか残っていなかったんです!」


 確かにアレではお化けとして失格だろう。何か別の都市伝説になりそうである。

 就職に失敗し、回り回って我が家のトイレに来たのか。何だか下に見られているようで気分は良くない。そりゃ、学校とかに比べたら使う人も少ないが。


「というわけでしばらくお世話になります! 頑張って練習するのでよろしくお願いします!」


 もしかしてこれからトイレを使おうとする度に彼女が現れるのだろうか。

 これから俺のトイレ事情はいったいどうなってしまうのか。

これは元々、長編で書こうかと思ってたアイデアです。話があんまり広がりそうもなかったのでここで供養を。

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