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男にフラれたらお酒を飲む話

 嫌なことがあると大きな声を出してスッキリするか、酒を飲むかのどちらかである。カラオケや居酒屋なんて場所は大人のストレス発散の場としてとても重宝されている。

 普段ならそこら辺の安い居酒屋でウサを晴らすのだが、今日はなんだかそんな気分にもならず、せっかくなのでお洒落なバーに入ることにした。


「いらっしゃい」


 半分地下になっているこの店に他に客はいない。

 小さなテーブル席が二つあるが、一人の私はカウンター席へ。壁から二番目の場所だ。快いジャズのBGMが私のささくれ立った心を癒やしてくれるように思う。マスターに適当に酒を頼む。

 出されたのは居酒屋で出て来るような雑なチューハイではない。

 グラスの底にサクランボが沈んでいるのがとてもお洒落だったが、未だ苛立ちの残る私は一息にそれを飲み干す。そして残ったサクランボを見つめるのだった。

 今日は12月20日。もうすぐクリスマス。そんな日にフラれてしまった。

 前々から考えていたそうだが中々言い出せなかったらしい。お陰様で私はこうして、クリスマスを目前に控えた日にバーで一人酒を飲む夜だ

 思い出すと段々ムカついてきた。

 待ち合わせには遅刻してくるし、気の利いたサプライズもできない。優柔不断で少しビビり。

 あいつが言い出さなかったら私からフッていたに違いない。そうに違いない。

 サクランボが段々とそいつの顔に見えて来て、腹が立ったので種ごとゴリゴリと噛み砕く。静かな店内にその音が響いたようで、マスターが驚いたような目でこちらを見ていた。

 良い男じゃない。

 次のお酒はどうしよう、なんて考えていたら、カクテルが目の前に置かれる。


「私……まだ頼んでませんけど?」

「あちらのお客様からです」


 映画やドラマで見たような憧れのシチュエーション。バーに入ると決めた時から期待していたが、他に客がいなくて諦めていたのだ。

 こんなサプライズを誰が、と思ってマスターが手で示す方を見やる。私と反対側の壁際の席。誰もいない。否、小さな陰が座席に座っている。


「にゃにゃーん」


 猫は前足を軽く振る。

 まるで「気にするな。俺のおごりだ」と言っているようである。そもそもオスなのだろうか。

 あの猫が何者なのかマスターに問いかけようとするも、我関せず、といった様子でグラスを磨いている。猫については何も言わないのか。


「にゃー?」


 いつの間にか猫が隣の席に移動してきた。ずいぶんと積極的な猫ちゃんだ。

 今自分が頼んだグラスを前足で突くが、飲めということか。

 一口。


「おいしい……」

「にゃーんにゃにゃ」

「そうね。ありがとう」

「にゃ」


 本当に会話ができているようだが、猫の言うことはまったくわからない。

 しかし猫は私の隣にずっといた。時折、思い出したかのように自身の前に置かれたミルクを一舐めするのだ。


「私……今日フラれちゃったの」

「にゃ?」

「ホントにどうしようもない男で、私がいないとダメ、みたいなやつだったのに」

「にゃーんにゃーん」

「うん、わかってる。私の独りよがりだったんだって」

「にゃにゃにゃ」

「そうね。ホントにそう。当たり前の話だわ」

「にゃ。にゃにゃーんにゃー」

「ありがとう楽になったわ」


 なんて優しい猫さんだろうか。私の言葉を嫌がることなく聞いてくれる。お陰で少しスッキリした。

 フラれたからってなんだ。男は他にもたくさんいる。私をフッたことを後悔するくらい良い女になってやれば良いのだ。

 クリスマスなんてくそ食らえ。

 猫さんは皿のミルクを舐める。ほとんど空になっていた。


「マスター、この子に良いミルクを」

「にゃー?」

「良いのよ。話を聞いてくれたお礼」

「にゃー」


 都会の外れの小さなバー。女と猫の静かな夜が更けていく。

流石にネタがなくなってくるよNE

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