さよなら月曜日の話
今日、世界が終わる。
突如として地球に接近し始めた月はいよいよ大気圏に突入し、赤々と燃えている。
ある人はロケットに乗って宇宙に逃げ、ある人は地下に潜ってやり過ごそうとする。そしてある人は神に祈りを捧げてこの世から別れを告げるのだ。
しかし俺は自転車に乗って遠く遠くへと行こうとしている。
体に鞭打ち、もう限界だと足が叫んでもペダルを漕ぎ続ける。どうせ死ぬのだから足がちぎれようと関係なかった。
地球滅亡の日だから通りに人影はほとんどない。車なんて見る影もなかった。
最期を受け入れ、何を思って外を出歩いている奇特な人も、自転車を必死に漕いでいる俺以上に奇特なことはない。
俺はあいつに別れを告げるためにこんなに自転車を漕いでいるのだ。
知らない町に来た。
町一つ越えられるくらいだがまだまだ足りない。時間はまだいっぱいにあるのだ。
あいつはみんなから嫌われていた。誰もがあいつが来るのを恐れていて、やって来た時に喜ぶやつなんて居なかった。
しかし俺の友達は「あいつが居なくなったらみんな他のやつを嫌い始めるのさ」なんてニヒルに言っていた。俺もそう思う。あいつが居るからこそ、他のやつらは何事もなく過ごせるのである。
貧乏くじを引かされたに過ぎないのだ。
そのことに俺はこんな日になるまで気がつかなかった。ただただ毛嫌いして、向き合おうとしていなかったのだ。
だからせめて、世界が終わるこんな時だからこそ、あいつと向き合わなければならない。
山に差し掛かる。このまま登るか、大きく迂回するかを悩んで登ることにする。瞬間、ペダルが重くなる。
月が接近し、地球に衝突する時間が具体的に発表されてから世界は大混乱に陥った。そして学校では告白が大流行していた。
普段胸に秘めている想い。卒業する時にでも打ち明けようと思っていたら、卒業を待たずに世界が終わるというのだからみんな焦るだろう。
世界が終わるとなっても対応の遅い我が校では少しの間授業が続いていた。
先生自身、上の空だった科学の授業中、一人の生徒がクラスのみんなの前で告白して、見事カップルが成立。
そのウワサは瞬く間に校内に広がり、天下分け目の告白合戦となったのだ。
勝者はカップル。フラれたやつも勇気を出して告白した意味では勝者である。敗者は誰からも告白されなかった俺みたいなやつ。
別に良いのだ。今更カップルがどうのこうのとなったところで世界が終わるのであるから。
いつの間にか頂上に来ていた。
不思議と滲む視界で空を見ると、月が今にも地平線に衝突しそうだ。
あと三十分。
地下にでも居た方が安全だろうか。それにしたって落下地点からもっと離れた方が良いだろう。
登りと違って降りは弾丸のようなスピードで駆け抜ける。そして一直線に続いている国道をひた走る。
デコボコした地面に比べれば、舗装された道路は格段に走りやすい。
ドゴン。
大きな音がした数秒後、地面が揺れる。きっと月が衝突したのだろう。そう考えた瞬間に背中から突風が吹き付け、自転車ごと俺の体を動かした。
衝突したのが予測時間通りであればあと三十秒。三十秒だけあれば良い。
地面に叩きつけられても倒れなかった自分を褒めてやりた。
必死にペダルを漕ぐ。熱波の追い風のお陰で自転車はスイスイ進む。背中がジリジリと焼かれ、限界が近いの教えてくれる。
もう少し。俺の限界も近い。
いよいよ頭の血管もはち切れそうになり、体が燃えている感覚に陥る。
その時、左手の腕時計からピーとアラームが鳴る。時間だ。
「さよなら。月曜日」
今日は休みだったのでいつもより遅い時間の更新ザンス




