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子供のような大人と大人のような子供の話

 軍人となってこれほど後悔した日はない。

 仲間は全員死んだ。俺のことを子供と馬鹿にして侮っていた愚か者達だからそれ自体はどうでも良い。人を見た目で判断するなとママンに教わらなかったのが奴らの不運だ。

 問題はここが敵地の真ん中であると言うこと。

 馬鹿は馬鹿なりに使い道はあったのだが、俺一人で見方の下へ帰るのは至難の業だろう。

 三十八歳。

 エルフの人生ではまだ赤子だ。本当に短い人生だった。

 多種と交わることも多くなったせいで、エルフの平均寿命も年々短くなっていると聞くが、それでもやはり三十八は早すぎる。

 木々の間に身を潜める。こういう時は、背の低い自分に感謝する。

 何人かの相手兵士がすぐ近くを慌ただしく通り過ぎていった。

 任務は敵の前線基地の破壊。半分くらいは達成している。今頃、血眼になって俺を探しているのだろう。

 基地から離れるように鬱蒼とした森を更に鬱蒼とした方へ進んでいく。

 やがて辿り着いた湖でしばしの休息とする。

 そこらに自生していた食べられる木の実から水分を摂る。そして何とはなしに、遠くの方を眺めていた。

 ボーッとはしていても警戒心は解いていない。

 湖に現れた人物を俺は見逃さなかった。

 身長は俺の三倍近くあるか。俺自身が小柄だからあまり判断の材料にはならないが。

 動物の皮を繋ぎ合わせたたであろう腰みのをつけ、剣を下げている。敵には見えないが、最初に敵国は巨人を雇って攻めてきた。武器を持っているなら傭兵の可能性も捨てられない。

 殺すか?

 幸い相手はまだこちらに気づいていない。銃を構え直す。


「誰だ!」


 銃口を向けた途端に、相手は顔を上げた。仕方なく両手を挙げて姿を現す。

 殺気はちゃんと隠していたつもりだったが、こうなってしまっては年貢の納め時である。潔く諦めるしかない。


「何故、我のことを狙ったのだ?」


 目の前まで近づいて来て男は言った。

 想像よりも幼い声で、想像よりも古くさい喋り方だった。


「敵だと思ったからだ。銃口を向けたからには何をされても文句は言わない。好きにしろ」

「なんだ。子供だと思ったがそんなことはなかったな」


 侮っていたような男の言葉に思わずため息が漏れてしまった。


「俺はもう四十路だ。人を見た目で判断するなってこれまでの人生で教わらなかったのか?」

「何か勘違いしているみたいだがそちらも見た目で判断しないでもらおう。我はまだ五歳だ」

「ご、五歳!? そうか巨人か……」


 面白そうに巨人の子供はうなずいた。

 偉そうに人を見た目で判断するな、と説教しておいて自分がそうしていたのだ。恥ずかしいことこの上ないことである。

 しかし幸運だったのは、巨人の子供であるのなら命は取られないであろうことだ。

 その証拠に、


「敵意がもうないのなら問題はないな」


 と剣に置いていた手を放した。そして俺の横に腰を下ろした。


「子供が何でこんな所に一人で居るんだ?」


 滅多に人が訪れることのない森の奥地である。俺もこんな事態でなければわざわざここまで来ようとは思わなかっただろう。


「父上との修行だな。一人で生き抜くための修行だ」

「厳しいんだな」


 エルフの子供は十五歳くらいまでは蝶よ花よと育てられる。それこそ温室の花のようにだ。


「巨人にとってはこれが普通だ。特別厳しいことはない」


 文化の違いか。それにしても正反対であるが。


「そちらこそどうしてこんな所に?」

「敵から逃げて逃げて逃げたらここまで来てしまったよ。国に帰れるかわからないな」

「……家族は?」


 ペンダントを見せる。ロケットには家族の写真が収められている。


「妻と子供が二人居る」

「帰りたいのか?」

「当たり前だ」


 俺を見た目で判断しなかった優しい妻だ。子供達もまだまだ育ち盛りである。


「それでは我を雇わないか? これでも腕は立つ方だ」


 子供、と言えども巨人である。戦力として十分カウントできる。巨人を雇うのは良い手であった。それでもやはり五歳というのが引っかかる。


「うん。よろしく頼む」


 それでもやはり、家族の待つ国には帰りたかった。そのためなら汚水だって啜る覚悟である。


「契約成立だな。都会のお菓子を食べてみたかったんだ」

「そういう所はちゃんと子供なんだな」


 俺の三倍近くある体だ。使えなくても盾にはなるだろう。

タイトルをひねるようになったなぁ、と自覚。タイトルほどおもしろい内容ではない。

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