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少女の名はノエル 青年の名はエオス

 畑からトリュウで半刻程の距離に、僕の家はある。


 昔は父さんと二人で暮らしていたんだけど今は独り。


 生きる術を学んだのであれば、竜使いは一人で生きなければならないらしい。


 竜は一人にしか心を開かないから、だそうな。



 こう言うと、まるで失踪したようだけれど、実際は流行病でぽっくり逝った。


 うん、人生なんてそんなもんさ。




 僕の家は、荒野の真ん中にに大きな小屋が二つ、小さな小屋が一つ、ソレを囲むように背の低い柵がぐるりと一周囲んだ中々の広さがある。


 まぁ住んでいるのは小さい小屋で、大きな小屋は竜の家と、作物庫だ。


 もちろん小さな小屋とはいっても一人で暮らすのならば、何の不便もない。


 そう、一人なら。



『着陸可能です。 操作を願います』


 一人乗りの相棒の狭い背に無理矢理座り込んでいる人形のような機械人の少女。


厄介な事に成らなければ良いけど。


 小屋へと続く滑走路に向けて速度を落としながら考える。


 しかし、どう考えても厄介事にしかならないようにしか思えなかった。



『ナイスフライト。 良き蒼空の旅でした』


 無表情のまま、機械人の少女は顔の高さまで手を挙げて親指を立てる。


 が、距離が近すぎて鼻に親指がつきそうだ。


「なんなの?それ」


 動作と機械人の少女の表情が不釣り合いすぎて可笑しさと不気味さが混ざったような気持ちになる。


『父に聞きました、勇敢に蒼空を駆けるパイロットにはこの言葉をかけろと。 あなたは比較的操縦技術の練度が高かったのでこの言葉を贈らせて頂きました』


「良く分かんないな」


『えぇ、私は父の言葉の意味は理解しても真意はいつも解りませんでした』


 機械人にも家族は居るのか。


 まぁ当たり前、なのか?



 良く分かんないや。



「そういえば、自己紹介がまだだったね。 えーと、……まず名前を教えてくれる?」


 機械人の少女はこちらを見ると真紅の瞳でこちらをじっと見つめてくる。


『名前……それは個体識別番号ですか? 開発コードですか? それとも試作段階での通称ですか?』


「良く分かんないな、取りあえず全部教えてよ」


『では……』


『個体識別番号:wkp-633799。 開発コード:Xmepx。 試作段階での通称:キーパー。 以上です』


 どれ一つ覚えられない。


 機械人はみんなこんな難しい名前を覚えているのか?


『……私たちに名前と謂う文化は存在しません。 みな個別に意志の疎通ができるので使う機会が無いのです。 しかし』


 少女が僕に向けて指を伸ばす。 胸に優しく指先が当たると機会人の少女は言葉を続けた。



『今、あなたとの意志の疎通に不具合が生じています。 なので、つけてください』


 真っ直ぐに僕の目を見る。


『あなたが、私を呼ぶ為に』


『私が、あなたに呼ばれる為に』




 なんか、ドキッとした?


 いやいやいやいや、ソレはないだろ。


「僕にセンスは期待しないでね」


『えぇ、どのようにでもお呼び下さい』


 とは言っても名前なんてつけたことないし。


 髪の色、白金(プラチナブランド)で、通称はキーパー。 無口。

  

 うーん、どうしたもんか。


『……?』


 視線を見渡すと、この辺の農家はみんな飾る豊穣の女神の像があった。

 白金の風を起こし天空より豊穣を地へ下ろしてくれる、蒼空と大地を繋ぐ女神。


 女神の名前は、


 「……ノエル」


『いま……なんと?』


「いや、ノエルって呼んでも良いか?」


『のえる……ノエル、うん、うん』


 彼女は何度か確かめるように呟く。


男「やっぱり不満?」


 この間が耐えきれずについ口を開く。 自分のセンスには一切自信はない。

 第一、農家の娘の10人に1人はこの名前だ、というありふれた名前だ。


『あなたは私をノエルと呼んでくれるのですよね?』


「あぁ、不満じゃなければ」


『ならば問題在りません。 グッドです』


 無表情の機少女はもう一度親指を立てた。 近過ぎて親指の腹が鼻につきそうだ。


『ところで、貴方の名はなんとお呼びすれば?』


 そういえばこっちも自己紹介もしていなかった。


「エオス」


『私の名は豊穣の女神ノーェルが由来ですか? とすれば貴方は暁の女神エーオースの名を冠しているのですね。 良い名前です。 私のノエルという名の方が良いですが』


 できたばかりの自分の名前を無表情、だけど自慢げに話されると気にしているから由来の話はやめろ、とはいえなかった。


そう、僕の名はエオス。


両親が産まれるまで女の子だと思っていた結果、暁の女神の名前を無理やりつけられたちょっぴりかわいそうな男だ。

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