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人形

 ジェイムズ・スミス医師との昼食を終え聖パトリック病院に戻ると、マーテンスは診療室に向かう途中の廊下で見かけたシンシア・バーネットに声をかけた。

「きみ、ちょっとこっちへ……」

 マーテンスはシンシアを診療室に呼んだ。

「昨日の件なんだが、先ほど担当のスミス先生と話をしてね。先生は、考えた末、きみの思い過ごしだろう、と仰っておられたよ。お兄さんは間違いなく回復に向かっているそうだ。ただそう、仕事からくるストレスが強いので、できるだけきみも気を使ってあげるといいだろう。そうだな、お兄さんが家に帰ってきたとき、きみがいたら、ココアでも入れてあげるといい」

 マーテンスが言うと、シンシア・バーネットは安心したらしく、柔和な笑みを浮かべて答えた。

「ええ、先生。そういたします。ありがとうございました」

 シンシアが深深と頭を下げる。

「いや、いいんだよ。これが、わたしの仕事だ」

 言って、マーテンスは仕事に戻った。

「先生、若い子をたぶらかしちゃいけませんよ」

 シンシアと入れ代わりに診療室に入ってきた看護婦長のメアリィ・フィリフェントが笑いながらマーテンスに声をかけた。

「先生、よっぽど、嬉しいことでもいったんでしょう。日頃はそんなに笑顔を見せないバーネット嬢が、まるで子供みたいな笑顔を浮かべていましたよ」

「きみにも、何かアドバイスをあげようか?」

「いいえ、今のところは間に合っています」

 言って、フィリフェントは午後の検診開始をマーテンスに告げた。

「他の患者さんたちにも、いい仕事をしてくださいよ」

 笑いながら、その場を去った。

 さてと、とマーテンスは伸びをしつつ思った。後は円盤と、それに昨日のラジオ・ニュースの件が片づけば、おれも笑顔を浮かべられるだろう。

 が、それは甘い考えだったようだ。

「聞いてください、先生……」

 と、外来患者のアーサー・クーパーが言った。

「人形が喋るんです。夜中に……。言葉は良くわからないので――たぶん、フランス語かなんかなんでしょう――何を言っているのか聞き取ることはできないんですが、でも内容はわかるんです。円盤信者に気をつけろ、と人形は言います。ああ、説明が遅れましたが、その人形は――以前母が旅行したときに求めた――フランス人形なんですが、そう言うんです。円盤信者は、最近良く見かけるあの【安売り】の看板に――たぶん電波かなんかで――命令を受けて、宇宙人が地球を侵略するための下準備をしているのだ、と言います。人形が言うには、自分は数奇な運命を辿り、昔、例の大停電のときに、当時の持ち主だった女の子と一緒に宇宙人にアブダクト(誘拐)され、そこで緑の光線を受けて改造された、と言うんですね。宇宙人の連絡員として活動できるように……。でも自分は地球人が好きだから、精神力でその絆を断ち切って、いずれ円盤が大挙して地球にやってくるまで機会を伺い、じっと隠れていた、といいます。そして、とうとうその時期が来たのだと気づき――看板が地球側の指令塔なんですよ――それに探りを入れるために、以前から地球にいた良い宇宙人――彼らは黒服を着た男たちです――と地球側の連絡を密にするため、ぼくを選んだのだと言いました」


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