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転生  作者: 古野 巧
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てんせい

この作品で、すこしでもみなさんに感動していたけたらうれしいです。

人は、死んでしまっても人々の心の中で生き続ける。

中学3年の俺は、まだその感覚がピンと来なかった。

本や漫画でよく使われるその表現を、大袈裟な物として捉えていた。

死んだら人は死ぬもんだ、と思う。

その考え方が、捻くれてるようにも思えない。

そもそも、このことについて深く考えたことがなかった。

もちろん今回もそれ以上は特に追求せず、そんなことより、と机に向かい受験勉強を再開した。

ついに正月が終わり、いよいよあと2ヶ月で高校受験である。

時刻は夜の10時であり、部活をしていた頃は、疲れてもう寝ている時間だ。

開いていた国語の問題集を閉じてぞんざいに脇によけ、毎日の習慣である寝る前の社会科目の暗記を始める。

俺の部屋は2階にあり、下の階から親が観ているテレビ番組の声が聞こえた。

唯一の兄妹である妹は、もうすでに隣の部屋で寝ているようだ。

「涼太〜!そろそろ寝ないと明日寝坊するわよ!」

年号を覚えることに苦戦していると、下の階から母親の声が聴こえた。

「今寝るとこだよ」

そう答えて、切りよく勉強を終わらせると、電気を消し、俺はベットに入った。

俺が受験する高校は、バスケットで千葉県1位の名門校である。

声こそかけられたものの、同じチームで親友でもある悠人に注目を取られてしまい、推薦を取れなかった俺は、また悠人と同じチームで試合をするために通常の入試を受ける事になった。

もともと勉強にはそこそこ自信があるため、あまり苦労はしていないが、推薦組と比べて遅れをとっているという事実が俺を焦らせた。

俺は、暗闇を睨みつけ、焦りを振り払うように首を振った。

しかし、ストーブで暖まったぬるい空気は、ねっとりと身体にまとわりつき、心の焦りを増長させた。

それに気づかないフリをして目を閉じ、俺は眠りについた。


親友である悠人は、身長180センチもあり、もともと背が小さかったことからインサイドからアウトサイドまでこなす、とても器用なプレイヤーである。

また、ビジュアルにも恵まれ、まさに優男と言えるその外見と、オールラウンダーでかつ力強いプレイのギャップで、学校で人気を、集めていた。

また、チームメイトからも頼られる、まさに理想のキャプテンであった。

俺、涼太は身長175センチで、中学生にしては大きく、もともとシューターであったこともあり、最初は注目の的であった。

しかし、テクニックでは互角の悠人の身長がぐんぐん伸び始め、俺も地区選抜には選ばれるものの、常に準エースの位置にいて、次第に注目が移っていった。

また、外見も悠人程ではないが恵まれていて、一般人の中では目立つ方であり、どちらかというと短髪で肉食な感じある。

2人は小学校のころから共にプレイしており、将来、

バスケットで世界最高のリーグである、アメリカのNBAでプレイすることを誓い合った仲であった。

大丈夫、きっと追いつける。

俺は呪文を唱えるようにその言葉を呟き、眠りに落ちた。


次の日は、中学3年3学期の初日、始業式だった。

俺は、久しぶりの早起きで眠さが抜けなかったが、なんとか体を起こし、1階に降りた。

リビングには小さい頃習っていたピアノがあり、その上には中学最後の大会の写真や、今までもらったトロフィーなどがかざられている。

どれもみな早朝の透き通った光で輝いており、それを見た俺は目が冴え、やる気がみなぎってくる。

この冬が終われば、また俺の、バスケ人生が動き出す。

そう思うと待ちきれず、今すぐ体育館に駆け出したくなった。

その気持ちを抑えるために拳を1度ぎゅっと握りしめ、俺は登校の準備を始めた。

始業式は、特に何事もなく終わり、そこからの中学最後の学期は、光のような速さで過ぎていった。

悠人は進学が決まるのが早かったため、春休み前から高校の部活に参加していたようだ。

無事、涼太も悠人と同じ強豪校へと進学を決め、ついに卒業式を迎えた。

「これからも涼太とバスケができるな」

悠人は満面の笑みを浮かべた。

その言葉を聞いた俺は、安堵と興奮が心の中で湧き上がるのを感じた。

俺たち卒業生は、卒業式の入場前であり、体育館の入り口から本校舎へ続く通路にずらりと並んでいた。

「高校では、お前に負けないからな」

ニヤリと笑う。

「別に中学でも勝ってたわけじゃない。お前は自分が輝こうとしないだけさ」

悠人が少し照れながら言う。

「さあな」

俺は軽く微笑む。

すると、

「ちょっと、なんでいつもバスケの話なの!?」

急に女の子が会話に割り込んで来た。

幼馴染の瑠璃である。

肩の高さで切り揃えたまっすぐな黒髪に、キラキラと輝く大きな目、背は156センチくらいと普通である。

顔は、そこそこ、かわいい。

話していた2人の間を割るように手を突き出している。

「なんだよ、急に」

俺は顔をしかめた。

悠人も少し驚いた顔をしていたが、特に何も言わない。

「あのさぁ、可愛い幼馴染が昨日補欠合格で同じ高校に進学決まったんだから、お祝いの言葉くらいくれてもいいんじゃない?」

瑠璃はリアクションが薄い2人に対し少しムッとしたようで、早口でまくし立てた。

「あー、、おめでとう」

悠人が言う。

そのとりあえずな言い方が気に食わなかったらしく、瑠璃は気持ちがなんたらとブツブツ呟く。

そして、

「はいっ!次涼太!」

ずいっとこちらに顔を向け、言う。

「…すまん、可愛い幼馴染って誰だ?」

俺は精一杯の真顔をつくり、瑠璃に尋ねる。

「わたしだわ!あほっ!」

瑠璃は口を大きく開けて怒鳴った。

まじめに怒る瑠璃が可笑しく、俺はつい吹き出してしまった。

悠人もそれをみて笑う。

「信じてやれば必ずできるっていつも言ってるだろ。瑠璃が合格したのは俺らにとって必然なんだよ」

悠人が言った。

信じればできないことはない、これは悠人の口癖、というかモットーである。

「おまえ、またそれかよ。俺は落ちると思ってたさ」

俺はニヤニヤしながら言った。

「もーぉ!」

瑠璃は頬を膨らませた。

すると、体育館の中から卒業生入場のアナウンスが聞こえる。

俺たちはニヤニヤしたまま、入場していった。


卒業式は何事もなく終わり、卒業生たちはそれぞれ卒業アルバムに別れの言葉を交換しあったり、部活の後輩と挨拶をかわしたりしていた。

俺たちももちろんバスケ部に挨拶しに行った。

「2人とも、無事合格してよかったな。」

顧問の先生が微笑む。

俺たちも微笑みを浮かべ、頷く。

「はい、ありがとうございます。」

「お前たちはまだまだ可能性がたくさんある。いつでも応援してるから、高校でもしっかり活躍してこい!」

先生の言葉で、俺は改めて自分のバスケ人生がまた動き出すことを感じ、自然とさらに笑みがこぼれた。

悠人も同じような表情をしている。

それをみて、先生が苦笑した。

「期待しているよ。」

そういう先生は少し寂しそうでもあった。

この人の期待に必ず答えたい。

俺はそう思った。

悠人と2人で頭を下げる。

「3年間、お世話になりました。」

先生は何も言わずに頷いて離れていったが、かすかに、涙の光が見えた気がした。


夕方になり、人が減り始め、俺たちも体育館を離れた。

振り返って、在校生たちに手を振る。

もう自分たちの居場所ではなくなった体育館は、夕日でオレンジに染まり、思い出の塊のように輝いていた。

「明日から部活いくだろ?」

悠人が聞いてくる。

「おう、もちろん」

俺はすぐに答えて、前を向いた。

沸き立つ期待と興奮が抑えられない。

体育館を輝かせていた夕日が、俺たちのこれからも照らしているようだった。

「やってやろうぜ、俺たちで。」

悠人が言う。

「あぁ」

頷いて、空を見上げる。

空には、夕日と、金星が光ってみえた。


春休みは、高校の部活には全て参加し、空いた時間は中学の友達たちと遊んで過ごした。

入学式の頃には、春の大会のベンチ入りが既に決定し、はやくも他校で噂になっていた。

悠人、瑠璃とともに校門を見上げる。

私立福岡大南高校。

でかでかと名前が彫られた木の門は、迫力がある。

「3人クラス一緒だといいね!」

瑠璃がニコニコして言う。

「やだよ、俺までうるさい奴だと思われるだろ」

顔をしかめて言う。

すると、猛スピードで瑠璃の手が俺の頬を掴み、力任せに引っ張った。

「あいでででででででっ、嘘だよバカはなせ!」

瑠璃はふんっと言って乱暴に放す。

「いちいち涼太の冗談を本気にするなよ、瑠璃」

悠人が苦笑して言う。

瑠璃はでもーとか言いながらこっちを睨む。

「それより、記念すべき初の登校だなんだし、笑っていこうぜ」

そう言って、悠人は瑠璃に笑いかける。

瑠璃はドキッとしたような顔をして、悠人の腕を叩く。

「それっ、ずるいー!」

耳が真っ赤だ。

実は2人は卒業式から付き合っていて、最近いつもこんな調子である。

頬がヒリヒリするし、イチャイチャを見せつけられるしで、俺はしかめっ面のまま始めて校門をくぐった。

「あっ、涼太くん!」

不意に後ろから声をかけられた。

瑠璃と悠人もそろって、3人で振り返る。

金髪の、とてつもない美人な女の子が立っていた。

しかも、知らない子である。

しかし、あまりに嬉しそうにわらっているので、そうも言いづらかった。

「お、おう」

いや、まじで誰だ。かわいいけど。

「バスケ部のマネさんするから、よろしくね!」

そう言って颯爽と歩き去っていった。

瑠璃も悠人もぽかんとしている。

多分俺もそんな感じなのだろう。

「...誰だ?」

結局そのあとずっと考えていたが誰もわからず、俺たちは、モヤモヤしたまま入学式を迎えた。
































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