鉛筆の一生
僕は鉛筆だ。HBの普通の鉛筆だ。
僕のご主人様は小学五年生の女の子で僕を使って毎日様々な物を書く。
小学校の算数計算。国語の漢字の書き取り。授業中たまに書く落書きの絵。
毎日僕をご主人様は使う。
僕はご主人様の書く文字や絵が好きだ。
綺麗で整った文字を僕を使って書いてくれるご主人様が大好きだ。
ご主人様は僕の誇りだ。
ご主人様は同じクラスの男の子に恋をしているようで、毎晩僕を使って思いを文に綴る。
その恋文を書いている時のご主人様を見ていると応援したくなる。
でも、ご主人様は恋文を男の子に一度も渡せていない。
もし僕が喋るなら絶対に男の子をご主人様の前に連れていく。
そしてご主人様の文を読ませてやるのに。
僕に出来ることはご主人様の気持ちを綴ることだけだ。
どうかご主人様。幸福になってください。
そんな僕の願いが届いたのか、ご主人様は遂に恋文を男の子に渡した。
男の子はご主人様の恋文を読むと顔を真っ赤に染めて逃げ出したらしい。
ご主人様が泣いていた......
ノートに書き連ねていく文字はネガティブな物ばかりだ。
お絵かきもしなくなった......
それ程ご主人様はショックを受けたようで、夜な夜な枕を濡らしている。
僕は何かをしてあげたいけど、僕には何も出来ない。見守ることしか出来ない。
どうかご主人様が幸せになりますように。
前のように、楽しく笑顔で居られますように、そう僕は願うことしか出来なかった。
季節は流れ、ご主人様は失恋から立ち直り、毎日楽しそうに笑うようになった。
お絵かきや、落書きをまたするようになった。
それが僕には嬉しくて仕方が無い。
ああ、このままずっとご主人様と共に居たい。ご主人様の文字を綴り続けたい。
そう願う僕の身体の長さはもう残り少ない。
もう、ご主人様も余り僕を使わなくなった。
僕は願う。ご主人様の幸せを、僕は願う。ご主人様と共に居ることを、僕は願う。ご主人様に最後まで使ってもらう事を、僕は......ご主人様に使われたい。
そしてその時は来た。
短い僕を使い、ご主人様は文字を綴る。
僕に綴れる最後の文字だ。これ以上は綴れ無い。だから僕は最後の命を振り絞って文字を綴った。
綴った文字はご主人様の念い。
どうやらご主人様は、前に恋文を送った男の子と上手く行ったらしい。そのことを嬉しそうに綴っていく。
だから僕も嬉しい。ようやくご主人様が幸せになれたから。
僕の最後の文字は『大好き』だった。
それだけ綴った僕は力尽きた。
僕には何も出来ない。ただご主人様の幸せを願うだけだ。
出来るのならもう少し、ご主人様の文字を綴りたかった......最後に......ご主人様の笑顔が見たかった。
ご主人様......貴女に使われて貴女の鉛筆であれて幸せでした。
その思いはご主人様には伝わらなかったけれども、僕は僕の心に遺した。
その鉛筆の芯が折れて、鉛筆の一生が終わった。
【完】
鉛筆の気持ちを考えて書いてみました。
色々な小説を書いているおじsunです。
今はミッドナイトノベルズで「異世界のお約束が無視された!? ロリコンとロリ姫の愛物語」を連載中。