第一回戦 親友の某暗殺者くん
「ピーーーッ」
あれっ?!
ちょっと待て、なぜに笛があたしの手元に戻っているんだ?!
と、思ったらいつの間にか隣に戻ってきていた一年坊主が叫んだ。
「赤、武器使用により退場!」
って、えええええ?!
ポイントじゃないの?!
「武器使用って一発退場なの?!」
しまった、突っ込みたかったのはそこじゃないのに!
「当たり前です。そうしないと、みんな火縄銃やククリ刀を使いだして収拾つかなくなります」
「……それが野球のボールでもダメなの? ていうか火縄銃? これ、どこの国のスポーツ? ていうか本当にこれスポーツ?」
「例外は認めません」
ああ、そんな……ようやく桂くんが活躍の場を見出したっていうのに!
あっ、ちょっと待って、あたし感情移入しだしてる?! このハチャメチャな状況を呑みこみつつあるの? ああ、嫌だっ! それだけは嫌だ!
「桂くん……かっこよかったね」
ぽつり、と隣の今井くんが呟いて、にこりと笑った。
ああ、その笑顔だけでもきっと桂くんは救われると思うよ。
会場内を割れんばかりの拍手が渦巻いている。
桂くんの勇姿を湛えて。
その桂くんは、照れくさそうに観客席の相馬くんに向かって手を振ると、体育館を後にした。
その後、エースピッチャーの直球を食らったバスケ部員は戦闘不能で退場。
川島先輩・大井先輩の3年バスケ部チームと緋村さん・葛葉くんの2年空手部チームで勝敗を喫することとなった。
「時間ねーぞ、緋村っ」
最初は眠そうな顔をしてたくせに、いまや汗がきらきらと輝いて完全に青春真っ只中!の真剣な表情をした葛葉くんが緋村さんに檄を飛ばす。
緋村さんはそれを聞いてきゅっと眉を寄せる。
「分かってるさっ」
試合は先輩チームが一歩リード。
とはいえ、すぐにでもひっくりかえせる点差だ。
「一か八か、ゴール狙うぞ、葛葉!」
「おうよっ!」
阿吽の呼吸で同時にダッシュした緋村さんと葛葉くんは、それぞれ川島先輩と大井先輩に飛びかかっていった。
いつの間にかラブコメでなく青春スポーツマンガへと変貌を遂げていることに、あたしは突っ込みを入れる暇もなく。
目の前の試合は佳境を迎えていた。
「バスケ部に純粋なバスケで敵うと思うな!」
大井先輩があっさりとドリブルで葛葉くんを抜いていく。
「しまっ……!」
3対3だったというのに(今は既に2対2だけど)、コートはフルコート。
30分近く走り続けた葛葉くんの足は限界に来ていたようだ。
足をもつれさせて盛大に転んだ葛葉くんを振り向きもせず、大井先輩はゴールへと向かう。
先輩の手から放たれたボールは、音もなくリングを通り抜けた。お手本のようなシュートだ。
「……!」
残り時間が少ないこの状況で点差が開くのは絶望的だ。
緋村さんも荒い息を整えながら、床に転んだまま起き上がれないでいる葛葉くんの元へと向かった。
「大丈夫か?」
「……すまん、もう足が……」
どうやら葛葉くんも限界のようだ。立ち上がることすらままならない。
「ありがとな、葛葉。お前はここで待ってろ」
「どうする気だ? 緋村」
緋村さんが葛葉くんの耳元で何かを囁くと、葛葉くんの表情がぱっと輝いた。
「まじで?! それ面白いぜ?! ってか、俺キルアじゃん!! やったー!」
へ? キルア? あれですか? 休載が売りの某連載漫画の?
あー、そろそろ続き読みたいです。
ってそんなことはどうでもよくて。
「よし、任せろ、緋村ぁー!」
「おうっ、頼むぜ!」
コート外からのスローイン。
思いきり投げたボールは、コートの中央あたりに座り込んだ葛葉くんに届いた。