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嵐の前のプロローグ (5)

「お前、じゃあシュンの誕生日知ってるのか?」

「うっ! そんな幼馴染的な質問は許さんっ!」

「知らねーんだろ。今日だぜっ!」

「何いいぃぃ! 誕生日おめでとう、シュンちゃんっ!」


 くるり、と今井くんを見て極上の笑顔スマイルをキメる川島先輩。

 が、祝われた本人は困惑したように言った。


「僕……誕生日、冬だよ?」


 その瞬間、笑顔は脆くも崩れ去る。


「騙したなあっ! 貴様っっ!」

「敵を騙して何が悪い!」

「ふむ、それもそうか」


 ってか、何気にあの二人、会話が成立してる?!

 すごいよ、緋村さん! あの川島先輩とちゃんとした会話ができるなんて! あたしなんて一年間ずっと通じないままだったよ……むしろ君が川島先輩と付き合っちゃいなよ!


「だが許さんっ!」

「じゃあシュンの好きな食べ物は?」

「きっとショートケーキに違いない」

「……っ! 何で分かった?!」

「愛だ! ははははは!」

「じゃあ好きな花は?」

「うーむ。きっとアサガオだ。趣味は観察日記をつけること!」

「あほかぁっ! 小学生じゃあるまいし、ひまわりを育てて種を喰うことでした!」


 その答え、すでに好きな花ってお題じゃないよ?! てか今井くん……ひまわりの種、好きなのね。そう言えば以前、好きな画家はゴッホだと言っていた気がする。いや、特に関係ないとは思うが。

 それよりもやばい、このままじゃ終わらない。

 隣で震える今井くんのためにもあたしがどうにかしなくては。


 この時のあたしは、相当テンパってたに違いない。そうじゃなきゃ、ちゃんと川島先輩に今井くんが男で緋村さんが女だと伝えてしまって、ハッピーエンドだったのだ。

 こんな風に、物語なにかがスタートすることもなく。


「そんな問答やめてくださいよ! もっと他に解決法があるでしょう?!」


 あたしの必死の叫びは、なぜか二人に届いたようだ。

 二人は言い争いを止めて一瞬こちらを向いた。


「ふむ、それはいい考えだね、風見響子さん」

「そうだな。そうする事にしよう」


 にやり、と二人が同時に笑った。


「バスケットボールで」

「空手で」


「「勝負だ!!」」


 二人の声がハモる。

 どっちがどっちかは言うまでもないだろう。

 本当に、この二人は……!

 付き合ってしまえ、お前たち。


「なんだよお前、元バスケ部なんだろ? バスケ勝負は不公平だろうが!」

「驚いたな! 自分に自信がないからそういうことを言うのだろう?」


 あたしは、緋村さんがさっきの川島先輩紹介(=元バスケ部だってこと)をちゃんと聞いていたことの方が驚きです。


「何おうっ! ヴァイオレンス・バスケにしようぜ! それなら公平だろ!」

「いいだろう!」


 何がいいの?!

 ヴァイオレンス・バスケって何?! 戦闘バトルありのバスケ?! それ一対一で出来るの?! 何でそこ、話が通じてるの?!


「あと二人、仲間集めて来い! 明日中にメンバー揃えて、明後日の朝、7時に体育館で待つっ!」


 あ、3on3ルールなのね。

 じゃないってば!


「望むところだ。俺は負けん!」


 どうしてこんなことに……現況になった可愛い少年はあたしの横で震えてますよ? ていうかあなたたち、もう今井くんのことどうでもいいでしょ? 勝負したいだけでしょう?!

 それでも、今更止めるに止められなくなったあたしは、今井くんと二人で硬直するしかなかった。


「じゃあシュン、そう言うことだから今日は一人で帰ってくれ! 明日もなっ!」

「ええええ?! ひぃちゃん?!」


 そう言って片手をあげ、颯爽と去っていく緋村さん。


「明後日の朝は君も来てくれよ、風見響子さん! 審判がいないと試合にならないからね!」

「あたしに審判させる気ですか?!」


 バスケのバの字も知らないのに、いきなりイレギュラールールのヴァイオレンス・バスケ審判なんて無理に決まってる! ていうかそれ何?! 誰か教えて!

 つーか名前が超絶物騒なんですけど!

 そしてお願い、誰か止めて!

 あたしは心の中で叫んでいた。



 違うんだ。あの場所にいた中で、唯一これを止められる可能性があったとしたらあたし一人だったんだ。誰かに頼んだって無理だ。その相手がたとえ神様だとしても。

 だって、今井くんと川島先輩が出会ったことも、そこへ緋村さんが乱入してしまったことも……もし神様が仕組んだんだとしたら、神様も少女マンガみたいな物語ストーリーを望んでたんだろう。

 その神様がこの無茶苦茶なプロローグを止めさせてくれるはずもない。


 もし、神様に願うとしたらこうだ。


 「あたしを巻き込まないで!」


 しかもこれがただのプロローグでしかなくて、あたしみたいな善良な市民を巻き込んだ物語がスタートするなんて、思ってもみなかったから。


 自分を守るには自分で頑張るしかない。


 そんな簡単なことがなぜ分からなかったんだろう! 中学で学級委員を3年連続で押し付けられた時も、友達が誕生日にくれて大事にしていた傘をパクられた時も、可愛がっていた飼い犬のリリが死ぬ時も、世界はいつだって助けの手を差し延べてくれなかったっていうのに!

 短編をそのまま流用したら、長いプロローグになりました(^^;

 次回から本編に入ります。

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