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嵐の前のプロローグ (4)

「君はっ……誰だ?!」


 川島先輩がかろうじて絞り出した声に、緋村さんは今井くんを指差し、情の欠片もない声で言い放った。


「こいつの、幼馴染み」

「うおおお! 幼馴染みかああああ!」


 美術室の机に突っ伏してもだえる川島先輩。


「そんな最強の称号を所持しているとはあぁ……誤算だったあああ!」

「誤算も何も先輩はいつも計算なんてしてないでしょうに」


 馬鹿だから。

 ぼそりと呟いた言葉は先輩に届かなかった。


「いや、俺にもポテンシャルがあるぞ。学校一のイケメンだというポテンシャルがな!!」


 自分で言ってりゃ世話ないよ、とため息。

 まあでも、この川島先輩が勉強できてスポーツできて顔もいいナルシストなのに、みんなから慕われている理由はその辺にある。普通ならそんなキャラ、ただのイヤミになってしまう。

 しかし、先輩は少し違う。イヤミがすべて本気なのだ。あたしの身長を心の底から心配してくれるほどに――要するに、勉強はできるが少々おバカさん。男女構わずうざがられ、面白がられて愛されるというある意味、恵まれたキャラクターである。


 どちらにしても誤解は早く解かねばならない。


「だが、幼馴染みではあるが付き合っているわけではないんだな?!」

「……」


 緋村さんが一瞬口を噤む。

 こんな時なのに、あたしは思わず頭の中の疑問をそのまま口に出してしまった。


「……あの、前から気になってたんだけど」

「ん? 何だ?」

「緋村さんて今井くんとどういう関係なの?」

「だから幼なじみ。もしくは保護者。あとは……弟みたいもんかな」

「恋愛感情とかはないの?」


 そう言うと、緋村さんは目を大きく開いた。

 そして、すぐにはじけるような笑みを見せた。

 太陽のようなその笑顔に思わず釘付けになってしまう。学校中の乙女たちを虜にしている理由が何となくわかってしまった、ような……じゃなくて。


「ヒビキ、お前のそう言うところが好きだっ!」

「?」


 どういう意味?

 アレ? しかも今の何気に告白デスカ? これ、緋村さんを崇拝する後輩の女の子たちに聞かれたらいじめ問題発覚だよ? 靴なくなって筆箱隠されて体操服切り刻まれて机に落書きだよ?


「聞きにくいことずばずば聞く感じ? 躊躇ないって言うかなんかずれてるよなー。しかもシュン本人の前で!」


 そう言うあなたも本人の前なんですが。

 当の本人、今井くんは完全に硬直してしまっている。泣きそうに大きな目を歪め、唇を引き結んでいる。この様子ではあたしたちの会話が耳に入っているかも微妙だ。

 そんな今井くんをちらりと見てから、緋村さんはあたしの耳に唇を近付けると、ぼそり、と呟いた。


「全くない、って言うとウソになるかもな。でも、今はこの関係がいい」

「え? それって……」

「ほんというとさ、シュンがヒビキに懐いてるのもちょっとけるんだよな」


 にやり、と冗談めかして言ったセリフに一瞬どきりとする。

 それは……牽制けんせい

 しかもこの距離。同性のあたしが惚れそうな微笑みが近すぎる。


「俺を無視するな!!」


 先輩の叫び声ではっと我に帰った。

 まあ何にせよ、誤解は解かねばならないだろう。


「川島先輩、今井くんは」

「とにかく二人は付き合っているわけではないんだな?!」

「聞いてください」

「ということはまだ俺が入り込む隙もあろうというもの!」

「だから」

「負けん!!」

「人の話聞け」


 思わず出た本音だったが、相変わらず先輩の耳には届いていないようだ。それどころか、今井くんは硬直しっぱなしだし、緋村さんは臨戦態勢。

 この場にあたしの声が届く人間なんて存在していない。


「ヒ、ヒビキちゃん……ひぃちゃんも川島先輩も、二人とも、どうしちゃったの……?」


 気がつけば今井くんはあたしのカーディガンの袖をぎゅっと握ってふるふると震えていた。

 あーもう何? このかわいい生き物!

 君を取り合っているんだよ、とも言えず、あたしは口を噤んだ。

 だけれども、とりあえずみんなのマスコット兼ペットであるこの少年を、そしてあたしの目の保養と精神の癒しの対象であるこの愛らしい生き物を、川島先輩に渡すわけにはいかない!


 と、思ってはいるのだが、真っ赤な炎の川島先輩と絶対零度の極寒冷気を放つ緋村さんとの間に割って入る度胸はない。

 隣の今井くんと共にただオロオロするのみだ。

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