8話 ハニーなトラップ
アイーダとテッサが半裸になり、その扇情的な恰好を見せつけてくる。
私の肉体は18歳。ソレを思えば性の欲望に抗えるはずもないことは容易に想像できる。
……だが、私は日本人としての記憶もあるのだ。
その記憶の中にはインターネットとパソコンというツールを駆使し、様々なエロい事を見て知り、それによって打ち鍛えあげられた『エロ耐性』を得ているっ!
ましてや、領主の首輪が始めた見え見えの罠。
今、性欲に負けてしまえば、私が今後この異世界アウローラで生きる事は面倒になってくるのは分かりきっている。
これは試練。
ただの甘い罠なのだよ。
タツ。そしてタツヒコよ。
冷静になれ。
……ここまで完璧に理解していれば用心もでき、自制し、律する事だってできる。
ふふふ。
そう。鍛え上げられしエロ耐性を得ている私が、この程度のエロアクシデントに負けるはずはないのだっ!
ふふはは
ふふはははははっ
……む?
おっと、アイーダが私の右手を勝手に胸元に……
おや? テッサが左手をお尻に……
…………まぁ
なんだ……
…………ちょっと触ってみるくらいは……いいかな?
何事も経験だし。うん。
これは勉強。
勉強なのだっ!
罠と知った上で進むのだから、罠にかかるわけではない!
--*--*--
肉欲には……
……勝てなかったよ。
アイーダとテッサと並んで横になりながら思う。
『女ってスゴイな』
と。
彼女達もある意味命がかかっているワケで、私に気に入られようと演技も過剰なのだろう。
だけれど、なんというか演技だと理解していても、ちょっと触れる毎に大袈裟に喘がれると『男』の本能が刺激されるのか、どうしようもなく嬉しくなり、つい調子に乗ってしまった。
彼女達は、これまでも私のような男の首輪として……つまり自分の体を差し出して生きてきたのだろうし、経験も豊富で男を喜ばせるツボを心得ている。
さらに厄介な事に、アイーダはどちらかといえば積極的に来る方、テッサは消極的だが敢えて消極的な感じで誘い攻めのような手の平で転がされているような感じで、違った魅力のダブルパンチときた。
性のベテラン2人と、性のペーペーこと童貞の私。
相手になるはずもない。
経験の差が、この結果だ。
クスン。
美味しく頂かれちゃったよ。
……いや、もちろん頂いた立場なのですが。はい。
少し悔しい気持ちを持ちつつ二人に目をやると、子供のように眠っている。
きっとある程度、自分達の意図通りに私を動かせたことで安心したのだろう。
アイーダは私の右手を腕枕にし、テッサは私のお腹に左手を置くようにして眠っている。
そして事前の予想通り、やはり事を終えると情が移ってしまったような気がする。というか確実に情が移ってしまった。
なんとも二人を愛おしく感じるし、これが罠で、昂ぶった故の一時的な感情だと理解しているが、この感情自体は心地よいから、また性質が悪い。
溜息をつきながら、どこかスッキリとした頭で今後どうしたものかを考え始めるのだった。
--*--*--
アイーダとテッサが目覚めるのを待ち、二人が起きた後に家にある食材と、補佐官から受け取った食材を使用して『3人分』の食事を作る事を言いつけると、二人はテキパキと作業に移っていった。
その間に考えて行きついた内容を何度も反芻して自分に問いかけなおす。なんども同じ結論にたどり着いているとテッサが食事ができた事を告げに来た。
テーブルのある部屋に行くと言いつけ通りに3人分が用意されている。
が、アイーダとテッサはまた部屋の端に控えていた。
「……あ~二人とも。テーブルに来てください。
一緒に食事にしましょう」
「「……はい。ご主人様」」
二人は私の言いつけで準備をしながら、ある程度の想像をしていたのだろう。一瞬だけ戸惑うような素振りを見せたものの、ごく自然とテーブルについた。
だが私が手を動かしていないせいか、じっと私が動くのを待っている。うん。可愛い。
「さて、食事の前に大事な話をしておきましょう。
私にとっても二人にとっても大事な事ですから、しっかり聞いて、もし疑問や質問ができたら遠慮せずに言ってください。
……別に失礼な質問であったとしても補佐官のように殺そうとしたりはしませんし、殴る蹴るといった暴力を振るうつもりもありません。」
「はい。」
「……わかりました。」
二人の様子を見るに『私の言葉を3割程度しか信用していないだろうな』というような上辺だけの了承に見えた。領主の持ち物の奴隷とは言え『自由にしていい』と言われたのだから、私が殺したとしても問題は無いからだろう。
なので、念の為付け加えておく。
「質問されて腹が立って殺す程度であれば、そもそも私の家に入れてませんからね。
……さて、本題です。」
二人が息を飲むのが分かる。
どんな無茶を要求されるかという不安が伝わってくる。
そんな空気を感じながら、私は二人に向かって頭を下げた。
「……先ほどは有難うございました。」
二人は目をパチクリとさせる。
「まぁ、言わずともわかったでしょうが、その……私は未経験でしたので、まさかあんな良い物だと思っておりませんでした。とても気持ちが良かったです。
二人の身体に触れているのは、まるで天国にいるのかと思う程でした。」
アイーダは少し恥ずかしそうな顔、テッサはどう反応したら良いかわからないような顔をしている。
「私はお二人が、私を監視しモンスター討伐まで逃げ出さないようにする為にここに居るという事くらいは理解しております。
まぁ、簡単に言えば私にとっては面倒且つ邪魔な存在ですね。それは間違いない。」
二人とも私の視線に対してどこか不安そうな表情に、テッサに至ってはどこか諦めているような表情にも感じる。
「……ですが、厄介な事に私にとって二人は初体験の相手であり、私はあなた達に情が移ってしまいました。
あなた達二人が私以外の男に触れられて欲しくないし、肌を許すのは私だけであって欲しいと思うほどに独占欲も沸いてます。あなた達を自分の物にしたいという支配欲だって出て来ています。
そして私は、できる限り二人が笑えるような、幸せに過ごせるような環境にしてあげたいとも思っています。
……分かり易く言うと、お二人に惚れてしまったワケです。」
二人の表情が驚きに変わり、アイーダは微笑みをみせた。
「我ながら単純過ぎて呆れますが……ね。
で、そうなると、問題はあなた方の首輪としての役割です。
きっと補佐官からは『死せる砦』に行くまで繋ぎとめて逃がすな。そして『死せる砦』で、私がどんな風に死んだか報告しろ。というような命令が出ていると推測します。
私も当初は補佐官の想像の通り、砦の様子を見てから無理せず逃げ出そうとも考えていましたが、お二人に惚れてしまった以上はそれも難しいでしょう。
きっと私は、私が逃げた後、二人が別の男の首輪にされたり、もしくは殺されるかと思うと……もう逃げだすことはできない。」
二人の様子は双方違っているが、命令の内容は当たらずとも遠からずであると判断するには十分な反応を見せていた。
どちらかというと、アイーダは直情的な感じで表情に出やすいのか、目の動きなんかがあからさまに動揺しているのが分かるし、最後の言葉には嬉しそうな顔を見せているから分かり易い。
逆にテッサは相手の事を考えてどういう回答を望むのかと思考を巡らせるような感じがする事から分かり難い。
だがそれを考える間は、表情が固まるのだ。
私の見た目18歳でも、経験は45年分だからこそ察する事ができたのだろう。
そして二人とも、私が二人を必要とし死んでほしくないと言った事に対しては安堵を覚えている事には察する必要もない位によくわかった。
「で、相談です。
お二人は『領主の持ち物』であり、その看板はお二人が奴隷として生きる上で、非常に強力であることは理解しています。」
一般人の奴隷であれば例え手を出しても有耶無耶にできるが、領主の奴隷に手を出せば権力者に逆らうも同義、最悪殺される。
そんなバカはいないだろう。
「ですが、お二人の扱いを見るに、きっと近い将来にまずアイーダさんは売られるか殺されます。
テッサさんも用済みとなれば、売られるか殺されるでしょう。
それは私のような物にあてがわれたことからも十分に理解されておられるでしょうし、お二人にとって重要な『領主の奴隷』という庇護は近い将来に必ず外れます。」
二人は険しい表情をしているが、反論は無い。
きっと心当たりや自分達の他の奴隷の扱いで前例があるのだろう。
「ですので、私が『死せる砦』を無事に攻略したら、私の奴隷になりませんか?
補佐官のランバード様は私が死ぬと内心ですでに決定しているのか報酬に金貨100枚という信じられない額を提示しました。
死ぬと思っているからこそでしょうね。ですから二人を私の奴隷とするという事を追加で盛り込もうと相談を持ちかければ、補佐官は死人相手の約束だと問題無く受け入れるでしょう。
……もしかすると交換条件などを要求されるかもしれませんが、そこはまぁ……うまくやります。
私の奴隷になった場合、私は惚れた女性は幸せにしたいと思いますから、衣食住はできるだけ満足してもらえるように努めますし、お二人にとっては領主の庇護は外れたとしても苦労をさせないように頑張ります。
もちろん今のようにお二人の傍に死があるような環境にはしないつもりです。
いかがですか?
……まぁ『死せる砦』から生きて帰ったらの話ですし、別にお二人の了承を得ずに補佐官と勝手に話を進めても良いことではありますが……ですが、お二人の意思を確認する事も、今後の私達の関係を築いていく上で大事な事かと思いましたので……」
あてがわれて即日に、このような話しが出てくる事を想定していなかったのか、アイーダの瞬きは早まり、テッサは口元を手で隠している。
「嬉しいです!」
「お願いします。」
二人は一瞬の間の後、質問の内容を思い出したのか笑顔で答えた。
……まずはこんなものだろう。
二人がこれ以外の回答をしない事は分かっていた。
不満顔をしたりすれば扱いがひどくなる。逆に受け入れたフリをしておけば、自分たちの待遇がよくなるのだから当然の反応だ。
なにせ、彼女達は私を喜ばせる為の道具でしかなく、彼女達もその役目を受け入れている。
だが、彼女達は人間だ。
いくら道具に徹しようとも人間なのだ。
だから私は彼女たちを一人一人の『人間』として扱い、好きと伝え続けよう。
そうすれば彼女達も私に『好き』と言わざるをえない。
たとえ偽りであったとしても『好き』と言っていれば『好きになる』という事をなにかで読んだ事がある。
姑息な手だが、相思相愛になれれば何よりだ。
ここまでの流れは報告されても痛くも痒くもないし、むしろ『自分たちに入れ込んでメロメロだ』と、良い報告が出来ることを喜んでいるだろう。
私だって二人に惚れてはいると思うが、まだ信用も信頼もしていないのだから、とりあえず小さいことでも出来る事からコツコツと始めるとする。
「まぁ、今日は私の思いだけですが、とりあえず伝えておきたかったので……お二人との距離を縮めて良い関係を築いていけたらと思っています。
というわけで、これからは食事は3人で一緒に取りましょう。
何か質問があれば食べながら気軽に聞いてください。 家の中に置いては様付けしなくてタツと呼んでも良いですからね。」
3人で一緒に食事を始めるのだった。
「……あぁ、そうだ。
大事な事を言い忘れてました。
アイーダ。私は貴女が好きです。
テッサ。私は貴女が好きです。
私は二人が大好きです。」
私の言葉を受け、アイーダが私との距離を一層縮める為か、質問してきたり話をねだってきたので、答えていると、「わぁ」「さすが」「すごーい」と二人に持ち上げられながら、賑やかに楽しい食事となった。
そして食事を終え、二人に3人の住処としての家の掃除をお願いし外出をする事にした。
自分の想像通りであれば、砂漠のゾンビ砦は攻略できる。
その想像が正しいか確認するため、情報を仕入れにデニスさんのところへと向かうのだった。