7話 首輪 【イラスト2点有り】
補佐官がアイーダの髪を掴み、首に短剣を当てる。
短剣が首に当たったアイーダは、一瞬小さく声を漏らし、恐怖に怯えるような形相をしながら救いを求めるような目で私を見ているが、声を上げ訴える事は無い。
テッサと呼ばれた女も、目を見開いて後の自分が辿るであろう姿を眺めている。
補佐官の動きに迷いはない。
奴隷は敵国から手に入れた、ただの『物』
意思疎通ができるだけの下等生物としか見ていない。
そんな顔をしている。
この補佐官は私を試していることは明白だが、補佐官の言動とタツの知識から実際にアイーダを殺す事に躊躇しない事も理解した。
……アイーダの年は、おおよそ25歳頃と見えるし、奴隷としても若いと言っていい。
死ぬには早いだろう。
だが、どうする。
止めれば『女を利用する手はコイツに使える』という情報を補佐官に渡す事になる。
そして女達を助けても、あくまでも領主の持ち物であり、私につけられた首輪として機能することは間違いない。
補佐官が私の様子を見る為にアイーダの首に短剣をあてがいながらチラリと目を向けてくる。
『女が欲しければ、止めるのは今以外のタイミングは無いぞ?』
口を開かなくてもわかるような目をしている。
そうそう考える時間は無い。
私は鼻から小さく息を吐き、考えをまとめて口を開く。
「ロイ様。その奴隷を殺すのはお待ち願えませんか。」
目を細めながら補佐官も口を開く。
アイーダも自分の命が繋がるかもしれない希望を目に宿したような顔。
「……おや? タツ様。もしやお心が変わりましたかな?」
「いえいえ、とんでもない。
私の玄関を奴隷の血で汚されてはかないません。
申し訳ございませんが処分するのであれば、どこか別の場所でお願いできないかと。」
当てが外れたような補佐官の顔と、同じく希望を踏みにじられたようなアイーダ。
私は平和主義者の日本人ではあるが、この世界のタツでもある。
今は気持ちをタツに切り替え、奴隷は物であるという理解を全面に押し出し、そしてこの二人の女はただの首輪でしかなく、自分の不利にしかならないと冷徹に判断を下した。
このアウローラは敗者に待つのは不条理のみ。
コレはどうしようもない事実なのだから。
アイーダとテッサ……いや、この二人の女奴隷はここまでの運命だったと諦めてもらう事にした。
「……おっと、それもそうですな。」
「ええ。申し訳ございません。
……まぁ、女奴隷を殺すのは多少もったいないとも思いますがね……二人はまだ若いようにも見えますし、ランバート様の下の者にでも与えれば、その者はより忠義を尽くすだろうとも思いますが。」
自分に出来るのは、奴隷の二人の生き残りの道を示しておくくらい。
申し訳ないが、私が二人に対してできるのはここまでだ。
「はっはっは。いやいや何をおっしゃいます。
この奴隷はタツ様に与える為だけの物ですから、それ以外に使ってはメンツが保てませんよ。」
「これは浅慮で、大変失礼しました。」
道は閉ざされた。
スマンな。
そう心で二人の女に謝罪をした。
突如テッサが土下座のような体制を取り、私の足元に縋りつき始める。
「タツ様! どうかお願いします! 私を、私たちを使ってくださいっ!
なんでも、なんでもいたします。どうかお願いします! お慈悲をっ!」
と、目に涙を溜めて訴えてくる。
必死に縋りつき懇願する様子に、心の奥に押し込んでおいた日本人としての私が顔を出し始める。
本当にやめてほしい。
死ぬ事が分かっているのだから、人間だと思わせないで欲しい。
補佐官に『止めろ』という意思を込めた目をやるが、止めたり諫めるような様子は一切ない。
止めさせるには、私がテッサを蹴り飛ばすしか方法は無いだろう。
私の眉間にしわが寄るのが分かる。
さらに私の様子とテッサの様子を見て、アイーダももう片方の足に縋りつき始める。
「何でもしますっ! 何でも致しますっ!
私にできる事であればなんでもっ! ですからどうか、お救いくださいっ!」
女奴隷二人に泣きつかれた私は、とうとう奥に追いやった日本人の自分を隠せなくなっていた。
頭を押さえ漏れるため息を隠せない。
「……私の負けです。
ランバード様。ご厚意を有り難く受けさせて頂きます。」
補佐官はニコリと笑顔を浮かべる。
「おお。それは喜ばしいっ!
では、出発は半月の後となりますので、それまではその2名をご使用ください。
あと、タツ様には英気を養って頂けるよう良質の食材などを提供致します。
本日の分はお持ちしておりますので、お受け取りください。
明日以降の分に関しましては、お手数ですが毎日その女達のどちらかを屋敷まで寄越してください。
食材を渡しますし、私からの連絡などがあった場合は言付けますので。」
女達はホっとしたように、その場に座り込んでいたが、ほどなく私の足から手を離して立ち上がり、私の横に控えた。
「えぇ……分かりました。
毎日ですね。交代で寄越した方が好都合でしょうね。」
「流石でございますな。助かります。」
ニッコリ笑顔の補佐官を見て、『首輪を隠す気もねーな。』と思いながら食材なんかを受け取り、早速手持無沙汰の女奴隷達に、受け取った食材を部屋のテーブルに置くよう指示して補佐官を見送る。
見送って、一人で再び大きくため息をついてから家の中に戻り、アイーダとテッサの様子を見ると、部屋の隅で邪魔にならないように立っていた。
テーブルに置かれた補佐官から受け取った綺麗に並べられた食材に目を向けると、多めではあるが、どう見ても私の分しかない。
奴隷の物は私が用意するか、もしくは分け合うなりした方がいいだろう。
食材を見た後、再度アイーダとテッサに目を向ける。
二人とも、奴隷が着るには見栄えの良い上等な服を着、髪には櫛を通してあるようだった。
補佐官が用意したのだろう。
アイーダは黒と茶色の混じったような髪の色で伸びた髪をひとくくりにしてあるが、天然パーマがかかっているのか、結んだ髪はウェーブがかかっている。
そこそこに焼けた肌の色とメリハリの効いた割と整ったオリエンタルな顔立ち、日本人目線で見ると美人ではあるが、タツの目線から見ると普通。
スタイルは奴隷だけあって痩せ形、だが胸は大きくEカップ程はありそうに見える。
テッサは20歳くらいに見える。ブロンド寄りの茶色の髪の色。ポニーテールのしっぽ部分を根元からザックリ切ったようなボブのような髪型。日に焼けにくいのか色白の肌と、儚げで優しそうな普通の顔立ち。もちろん日本人の目で見れば美人なわけだ。
スタイルは痩せ形で、胸も痩せ形のように見える。
この女達は奴隷でいえば五体満足で病気もなさそうで若く、上玉に間違いない。
そもそも女奴隷は貴重であり、このレベルの女奴隷は一般人が手に入れる事は難しく、領主の伝手が無ければ手に入らないだろう。
期せずして、上玉と言える女奴隷を2人も手に入れてしまったワケだが……この女達は領主が私につけた『首輪』。
女を抱かせ、情を移し、そしてその情を利用して繋ぎ止めて、領主の意のままに私を動かす為だけの首輪。道具である彼女達が私に感情を抱く事は無い。
つまり、私はこの女達に惚れた場合は、それが『弱み』となってしまう。
だから私は、この二人をいつでも切り捨てられる存在として扱う事が重要になるのだろう。
だが、これほどの上玉の奴隷を手にする事は一般ではまず無い。
それに上玉を宛がわれたという事は、私がそれだけ有望であると考えられていると取る事もできる。
自分の立ち位置を二人を通して調べる事もできるかもしれない。
お互い利用し合えば良いのだ。
そんなことを考えていると、テッサが口を開いた。
「……タツ様。私たちをお救いくださり、本当に有難うございました。
誠心誠意お仕えさせて頂きますので、どうか宜しくお願い致します。」
続いてアイーダも口を開く。
「私も命をお救い頂き、言葉もありません。
望まれることにはできる限りお応えし、尽くさせて頂きますので、どうぞ宜しくお願い致します。」
「あぁ、ええ。
……こちらこそ短い間ですが宜しくお願いしますね。」
はぁ。
かわええ。
……この子達可愛いです。
タツの年齢は18で、二人は同年代と年上になるわけだが、私は27年の別の人生も歩んでいるから、その分つい上から目線で見てしまう。
私のアイーダとテッサを眺める視線に、二人は顔を見合わせて頷いた。
「命を救って頂き、私たちに出来るような事は限られておりますので……」
アイーダが上を脱ぎ始める。
「もしタツ様が宜しければ……私たちを使ってください。」
テッサがスカートの中に手を入れ、下着を脱ぎ、自ら裾をめくりはじめた。
「あぁ、マジかよ……」
頭ではわかっている。
わかっているんですよ。
ただ、私の身体は18歳なんですよ。コンチクショウ
イラストレーター もじゃ毛 様
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