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6話 報酬という名の


「はぁぁぁ~~……」


 私は陰鬱な気持ちで大きくため息をつき、どぶろくのような酒をあおる。

 そしてまた、


「はぁぁぁ~~……」


 と、深いため息をついた。


「……いや、悪かったって。」


 デニスさんがどこかバツが悪そうに、どぶろくに口もつけずに溜息に対して答える。

 若干うらめがましい視線をデニスさんに向ける。


「いや……デニスさんは悪くないですよ……分かってます。

 自分の浅はかさを嘆いてるだけですから。気にしないでください

 ……はぁぁぁ~~~~。」


 机に突っ伏す。


 何があったかというと、領主の補佐官とかいう男と早々に面会することになり屋敷に伺い、デニスさんを同席させて補佐官から決まり文句のようなお褒めの言葉を受けたあと、報酬をテーブルに置かれた。

 で、受け取ろうとしたら、


「詳しい話をお聞かせください」


 とか言うので、事前に考えていた通り、


「ちょうど利用できそうな物が多かったので、罠をはってみたらアレヨアレヨとひっかかってくれて偶然倒せましたアハハハ。」


と弱者全開で答えたら、デニスさんに補佐官が向きなおり、


「倒したモンスターを見た感じでは、倒すのに何人程の人間が必要と感じましたか?」

「あれは……そうですね。手練れが5人……素人であれば10人は必要でしょうね。おおよそですが……」


「今回の倒れたモンスターの死体を見て、タツ様の力量はいかほどと思われましたか?」

「……相当な手練れだと。」


 と、やり取り。


 補佐官はデニスさんの回答に満面の笑みを見せて、私の謙遜をはるかに超えるレベルで褒めちぎってきた。


「いやぁ、このような手練れの方が領内にいらっしゃったとは、まったく存じておりませんでした。

 光栄です。そんな英雄タツ様は今、どちらにお住まいで。えぇっと、確か家を借りられておりましたよね?」


 世間話をしながら躱せない直球をぶん投げられた私は、既に知っているであろう住所などの情報を伝えざるをえず、最後には結局新たな厄介事であるモンスターの討伐依頼が舞い込んでくることになったのだ。


 もちろん断ろうと思った。


 ……が、首根っこを押さえられているような状況と、デニスさんの『おいバカ、今は絶対断るな』という視線もあり、受諾の方向で話を勧めるほかなく、泣く泣く話を聞いたのだが、その話は進めば進むほど厄介な案件だということだけが(つまび)らかになった。


 案件の詳細は。


『王国衛星都市から腕利きを派遣しての悪鬼討伐』


 デオダード王国は次の戦争の相手として、砂漠の王国『セグイン』を狙っているという噂があった。

 このセグインは珍しい岩の鉱脈があり、そこから良質の鉱石が多く取れる為、財源として非常に優秀で手に入れたいというのがよく聞く噂だ。

 人口などを比較すればセグインの兵力は少なく、戦争になれば十中八九勝てる相手だという。

 

 では、なぜデオダード王国とセグイン王国が交戦状態になっていないかというと、ちょうど国境沿いにモンスターの根城のような物が複数存在しているからなのだ。


 元はどちらの国かの攻める拠点、防衛拠点として建設された施設が、まるっとモンスターに奪われていった。

 その内の一つの拠点に巣くう悪鬼に対して、少数精鋭による攻撃を王国が計画し、王国はその実行部隊の選出を衛星都市に丸投げした。

 デオダード王国の王都周辺の主要衛星都市は8つあり、衛星都市のトップ達は相談の上、各都市より2~3名の腕利きを選出して20人程度の部隊を編成し、それなりの形に見せて送り込むことを決め、そしてその精鋭の一人として、この私に白羽の矢が立ったというわけだ。


 補佐官は、他の衛星都市との力比べの意味もあるので、是非とも粉骨砕身の意気込みで頑張るようにとか言っていたが、タツの記憶を漁る限り、向かうモンスターの根城と化した施設である『ブラス砦』は


 『死せる砦』


 とまで、呼ばれる所だ。

 ブラス砦の噂はとても恐ろしい物で、タツのような人間ですら人伝手に聞き知っている。

 

 その恐ろしさとは、不幸にして死んだ人間が突如モンスターとして蘇り、死体に触れたり、生者を殺しては仲間を増やす……


 まぁ……所謂いわゆるゾンビだ。


 砦に閉じ込める事で外に出てくる事を封じたらしいが、この砦の何が怖いかというと、もし交戦状態になって負けている方が自爆覚悟で砦を解放したら、戦争であふれた死者が次々とモンスターになって襲ってくるかもしれないという事。

 もしそうなれば戦争どころではなくなり、死体をモンスターに変えるゾンビ軍団を相手に自衛で戦争を放り出して引きこもらざるをえない。


 ブラス砦は、そんなゾンビ爆弾のような存在なのだ。

 


 …………


 ……そんな場所に少数精鋭。

 王都からは出兵せず、衛星都市に丸投げ。

 しかも私のような者に声がかかる。


 これが何を指すか。


 つまり。


 『死んでもいいやつらで、ゾンビが本当かどうか確かめてこいよ。

 あ? 正規の腕利き? そんな大事な兵力を出すわけねーじゃん。バカなの?』


 って事だ。


 衛星都市にしても、本当の腕利きで領主のお抱えのような奴は温存しておきたいはずだから、そんな折に使い捨てにもちょうど良さそうで、実力についても十分謳えるポっと出の人間である私は、とても都合がいい駒だったのだろう。


 あぁ……もう。

 ……逃げようかな?


 でも逃げたら王国を出ないと奴隷落ちしそうな感じもするんだよなぁ……あああああ。


 何てことを突っ伏しながら考えていると、デニスさんが口を開く。


「まぁ、なんだ。

 ……その、確かに聞こえがいいだけの、ひでぇ依頼だと思うが……報酬はいいじゃねぇか……な?」

「……生きて成果を上げたらでしょ?」


 思わずジト目をしてデニスさんを睨む。

 うっ、と言葉に詰まり、口をつぐむデニス。


 ちなみに提示された報酬は金貨100枚。


 なんと聞こえの良い大金だろう。

 ほんと大金。金貨1枚100万円だったら、一億円だよわーい!


 ただ……『提示された』だけ。

 先払いは一切無し。

 だから、死んでしまう者に価値はないのだ。


 あぁ、クッソ!

 転生してまでクソみたいだっ!


 私はどぶろくを煽り、酔いに任せて愚痴を少しぶつけた後、デニスと別れ自宅へ帰った。



--*--*--



 考える事が多すぎたのと、酔いのおかげ仮眠しかとれずに朝を迎える。


 眠れなかったおかげで十分に考える事が出来た。

 結局のところ領主補佐官の依頼は、領主直々の依頼と相違なく、住処すみかもバレている私の退路はすでに断たれている状況で間違いない。

 断る場合は流浪の民となって逃げ出すしかないだろう。


 さらにもし逃げ出せば、デオダート王国で指名手配されるような事になる可能性も高く、それはそれでまた面倒な事この上ない。


 ではどうするか。

 私のたどり着いた結論はこうだ。


 『とりあえず現場に向かうだけ向かい、状況を判断する。そして逃げるなら逃げよう』


 と決めた。

 そう。私は死にたくない。


 最悪戦争を仕掛ける予定のセグインに逃げたっていいじゃないか。

 デニスさん以外の知り合いもいないし、この国にも街にもなんの未練もない。


 腹が決まると不思議と安心するもので、朝になってはいたが、もう一度しっかり眠ろうかと思い、布団をかぶると、自宅の玄関を叩いている音がした。


 物凄く嫌な予感がする。


 物凄く嫌な予感がしたが、とりあえず向かいドアを開く。

 やはり、今、一番会いたくない人間。 領主の補佐官が立っていた。


 思い切りドアを締めたい気持ちが爆発したが、かなり頑張ってちょっと締める程度にとどめ、笑顔を作って口を開く。


「これはこれは、ロイ・ランバード様。

 突然このようなみすぼらしい家にお越しになられるとは驚きました。」


「いやはや突然で申し訳ございません。

 タツ様。昨日お伝え忘れた事がございましたので、無礼を承知で参らせて頂きました。

 いやなに、立派な家だと思います。

 ええ、すぐに用事は終わりますので、ご安心ください。」


 お互い上辺だけの笑顔と、言葉を投げ合う。

 補佐官はさっさと用事を終わらせてしまうようで、後ろに合図を送っている。


「これから出立までは何かと大変になるかと思いましたので、身の回りの世話や食事などの支援など、色々と準備をさせて頂きました。」


 補佐官の後ろから、地味ながらも綺麗に着飾った女が二人補佐官の横に並ぶ。


「アイーダとテッサです。

 この2名がタツ様のお世話に当たらせて頂きます。

 なに。領主様の奴隷ですのでタツ様のご自由にお使いください。もちろん伽に利用いただいて問題ありません。」


 色で囲いに来やがりますか。

 逃亡防止用の首輪ですね。

 そうですか。ゲスですね。


「なんというお気遣い。

 ……ただ生憎と、身の回りは自分ひとりで十分賄えますので、お気遣いだけを頂いておきます。有難うございます。」

「そうですか……それは残念です。

 では、この二人は用済みとなりますので、鉱山へ……いや、面倒ですから処分してしまいましょう。」


 そう言い放つと同時に、領主の補佐官はアイーダと呼ばれた女の髪を掴み、懐から短剣を取り出し、その首に当てた。


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