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5話 ヒポグリフ討伐


 作戦決行の準備は整った。


 竹の中の節を槍を突き棒のように使って抜き、パイプ状にする。

 それを繋ぎ合わせ、洞窟の最奥部に排出口が来るように設置し軽く土をかぶせて見た目を誤魔化し、そして洞窟の出口からほど近い場所の私が身を隠すために掘った穴まで続かせる。


 日が暮れる頃に戻ってきたヒポグリフの様子を息を殺して伺うと、若干の違和感を感じたようだが、幸いな事にあまり気にしない様子で洞窟の中へと戻っていき、パイプの繋がっている穴へと静かに移動した。


 それからはヒポグリフが洞窟で深い眠りにつくまで、ひたすらに息を殺して待ち続け、空に星が燦然と輝き始めた頃、私とヒポグリフの運命を決めるであろう行動を開始した。


 まず私は、火打石と火口(ほくち)を使い小さな種火をつくり火をおこす。

 そして持ち込んだ松明たいまつに火が灯るように並べてセットする。


 発生した火の光やニオイでヒポグリフが動き出す可能性もある為、すぐに次の行動に移る。

 ヒポグリフのいる最奥につながっている竹製のパイプに手を当て、高出力で手から『屁』を大量に竹パイプを通して洞窟内に送り込む。


 時折手を止めて、火のついた松明を洞窟入り口付近に投げつけ、また竹パイプに手を合わせ『屁』という名のガスを送り込み続ける。


 ヒポグリフがニオイで目覚めてしまう危険があるのに、一体何を狙っているのかというと、洞窟内は行き止まりで、空気の入り口は出入り口となっている一か所だけだ。

 だから、洞窟の最奥に『屁』というガスを勢いよく注入し続ければ、ガスに押し出され、洞窟内から『酸素』が失われる。


 そしていかにモンスターといえど、獣であり、その活動には『酸素』は必要不可欠のはずだから、酸欠になれば死ぬ。

 まして、獣が深く眠っているのであれば急に反応もできないだろう。

 だが、本能的にそういった危機には敏感だろうから、もしニオイに気が付き警戒を始めたら、入り口付近に投げ込んだ火の出番だ。出ようか出まいか躊躇させ、さらに酸欠を促進する。


 そこまでいけば、モンスターは何が起こったかすらわからない内に酸欠で倒れる。


 ………はずだ。


「頼むっ。うまくいってくれっ!」


 そう呟きながら、また松明を洞窟の入り口近くに投げ、すぐにパイプに手を当てガスを送り続ける。

 5分くらい過ぎ、手元にある松明が残り一本になった頃、洞窟の中で何かが動いているような姿が見え注視する。


 それはふらつきながらも出口に向かって歩いてきているように見えた。

 その様子から出入り口付近の松明の火を気にする様子はない。


 もしかして鳥だから体内に『酸素袋』のような物を持っていて酸欠まで余裕があるのかもしれないと考え、失敗の可能性が高くなった事で内心焦る。

 もし失敗して真正面から対峙したら、手からウンコを巻き散らし逃げるか、ウンコの中に逃げるしかない。そんな自分を想像し、半ばやけくそになる。


「それだけはイヤダーっ!!」


 思い切りガスを竹に送り込み、最後の望みをかけて松明をヒポグリフに向けて思いきり投げた。


 松明の火が洞窟の内側の、ふらつくヒポグリフに当たりそうになった――瞬間。


 バガアァアァンっ!!


 と、轟音が響き、ガス爆発が起こる。


 私は、ガス爆発が起きてほしいと思い、投げると同時に伏せて防御姿勢を取り続けていた為、耐える事が出来た。

 だが、耳や頭が爆発の衝撃でキーンとした音に支配され、思考が定まらない。このまま耳が聞こえなくなるんじゃないかという不安が頭をよぎる。


 だが、冷静さを失えば死ぬからこそ必死に気を取り直す。

 もし今の爆発でヒポグリフが弱っていればトドメをささなければならない。弱っていなければ逃げなくてはならないのだ。行動ができるように頭を振って意識をはっきりとさせ、洞窟の入り口にいたはずのヒポグリフを探す。


「……いない」


 聴覚が死んでいる状態なので、他の感覚も狂っているような気がしてくる。

 咄嗟に空中に逃げたと思い、空を見るが旋回しているような気配はない。


 一旦ゆっくりと呼吸をして落ち着き、冷静につとめて現状を考える、そして最も可能性の高い居場所。


 洞窟の出口からまっすぐ直線状に目を向ける。


「おおう……」


 ヒポグリフは木々にぶつかったのか倒れ、ピクリとも動かない状態でそこにいた。

 『とどめを刺すチャンスだ』と、私の中の『タツ』が叫び、槍を持ち近くまで駆けだす。


 が。近づいて拍子抜けした。


 何のことは無い。


 ヒポグリフは木々にぶつかった衝撃で、どう見ても曲がってはいけない箇所で首が変な方向へ曲がっており、既に事切れているように見えたからだ。

 だが念の為、目を狙って槍で一突きだけ深々と刺しておく。


 察するに、このヒポグリフは大爆発の衝撃で、まるで鉄砲から撃ち出される弾丸のように洞窟から飛ばされ目の前の木々に衝突し、その衝撃が致命傷となったのだ。


 よくよく見れば、キレイに首に一撃が入ったように見えて、そのほかは飛ばされたにも関わらず焦げなんかも無く、毛皮なんかは非常にいい状態を保っているようにも思え、美しい物だった。

 状態から素材としての価値も高いと判断できたので、ぜひ売るべきと判断せざるをえない。


 が、どうにもゾウくらいの大きさがありそうなヒポグリフは一人では運べないだろう事は想像にやすく、麓の住民の手を借りる事にした。


 ……こうして私の実験。

 ガスを使った攻撃は条件付きではあるが成果をあげ、無事に成功を手にする事ができた。



--*-*--



 ヒポグリフの洞窟から移動し、最寄りの民家が見えたが深夜にも関わらず何故か明かりが灯っていた。

 その光景を不思議に思いながらも、住民が起きているのであれば好都合なので、すこし遠慮がちに戸を叩くと反応があった。

 門前でヒポグリフを仕留めその運搬の手伝いをお願いできないか問いかけると、青い顔の住民が震えた声で「それどころじゃねぇ」と顔をのぞかせる。


 異様な事態が起きていると察し事情を確認すると、住民は山の噴火だ、山の異変だと震えているのだ。


 事前に爆発が起きる事を周辺住民に伝えていなかった浅慮を恥じ、響いた爆発音はヒポグリフをしとめる為の攻撃で出た音で、自分が出した事を伝え謝罪をし、無事仕留めた事を伝える。

 すると、この住民もヒポグリフの被害にあっていたようで喜んでもらえて、寝床を借りる事が出来、翌朝一緒に確認に向かい、事実ならば運搬を手伝ってくれることになった。


 翌朝になり洞窟前に案内すると事実である事が確認でき、ヒポグリフの害に悩まされていた、その他の近隣住民達の助力を得て、ペラエスの街へと運ぶことができた。運ばずに自分達で解体して加工品にして売る事もできただろうが、素直に協力をしてくれたところを見ると皆、大分苦しめられていたのだろう。

 良かった。

 爆音を鳴り響かせた私が怖かったとか、そういうことじゃあないはずだ。きっと。


 尚、運んだヒポグリフについても、根城の近くのモンスターをヒポグリフ自身が食べていたおかげか、それとも大爆発があって動物が逃げたからか、他モンスターにヒポグリフの肉が食べられた様子もなく、美しい状態を保つことができており、ギルドの厳ついオヤジも成果に目を丸くし


「アンタ……なにもんだ……」


 と呟くのだった。



--*--*--



 査定には時間がかかるという事で、約一週間に及ぶたまりにたまった汚れを、まずは川、次に公衆浴場でひたすら落とし、その後は食事をとって久しぶりの自宅でゆっくりと休む。


 かなり疲れもあったようで翌日昼過ぎに起きてから、のろのろとギルドのモンスター部署に顔を出すと、厳つい親父が手招きしており報酬についての説明を受けた。


 ヒポグリフ

 討伐報酬:デオダート王国金貨 2枚

 素材引き取り 最良評価 特別報酬:デオダート王国金貨 3枚


 日本円にして、500万円の報酬だ。


 厳ついオヤジ……デニスさんの説明では『素材引き取り 最良評価』が異常なのだと。

 確かにタツの記憶の中の報酬に素材の報酬はオマケ程度の物だった記憶がある。


 それもそのはず。通常は激しい戦闘で矢の穴や槍や剣の切り傷だらけになり、素材としての価値は無いに等しく、肉程度しか利用価値が無いからだ。

 だが、私の持ち込みは目立つ外傷はほぼほぼ無く、利用できそうなところだらけ。破損の無さから、貴族や王族が使用してもおかしくない服飾や装備も作れるそうで特別報酬がついたとの事。


 期待以上の評価にホクホク顔をしていると、デニスさんから一つだけ条件が出された。


「素材引き取りの特別報酬を受けとるのであれば、このペラエスの街を治める領主の補佐役と面会する必要がある」


 突然の言葉にホクホク顔も凍る。


「なぜっ!?」

「そりゃあオメー。こんだけの事をやっちまうような強い人間がいれば、上の人間が『自分の傘下に取り込んでおきたい』って思うのも当然だろうよ?」


「……あ。それは確かに。」


 最低でも5人がかりで立ち向かうようなモンスターを『様子を見に行く』といって一人で出かけ、そして目を一突きして首を折って討伐して帰ってくるような手練れを、この戦乱の世で放置するようなヤツがいたら、それはバカだろう。

 それにしても、討伐成功でよほどテンションが上がってしまっていたのだろう。まったくこの事態を想定していなかった。

 そんな自分にも少しだけ呆れた。


 これは少し冷静に考える時間が必要だ。


「ん~~……じゃ、デニスさん。」

「おう。いつにする? 都合を聞くぜ。」


「あ、いえ。とりあえず規定通りに出る討伐報酬だけをください。

 もし特別報酬の方が必要になったら、その時に会う事にします。」

「はっ? ……いやいやいや、タツ。おめぇソレはまずいって!」


「……マズイですかね? 領主じゃなくて補佐の人なんですよね?」

「いや、まぁ補佐は補佐だけどさぁ、俺らから見れば目上も目上。

 そいつが『褒美渡すから来い』って言ってんのを蹴るっていうのは『オメェなんか金積まれようが会いたくねーんだよ』ってケンカ売るようなもんだぞ?」


「あ~……なんかそう言われると、とてもまずそうにも思えますね……どうしようかな……」

「『どうしようかな』じゃねーって、何がイヤなんだよ! 金貨3枚だぞ? 3枚っ!」


「いえ、単純になんか面倒に巻き込まれたらヤだな~って思ったので。」

「いやいや、ヒポグリフ一人で狩ってくるようなヤツの面倒ってなんだよ!

 それくらいの心配なら行っておけって!」


「え~……」

「『え~』じゃない! 逆に色々得する方がでかいだろ!」


「じゃ、デニスさんが付き添ってくれるなら会います。」

「なんでそうなるっ!」


「いや、デニスさんはなんか信用できそうな人じゃないですか。だから安心な気がして」

「お? ……おう。」


 無駄にドギマギしたデニスと報酬受け取りの段取りを進め、結局向こうの都合に合わせて後日面会することになった。


 ただ、これから何かと行動する上でメリットが生まれそうな予感と共に、厄介事を押し付けられそうなそんな予感を感じ、気は重くなるのだった。


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